仲間の元気も大事だよな! パーティなんだから!

 今日もソルと出会ったのだが、どうにも元気がない。

 なので、しっかりと気を休めてほしいと思う。集中できないまま冒険しても危険だしな。

 そうだな。俺としてはお出かけで気分転換なんて良いと思うのだが。

 さっそく提案してみよう。今のソルなら、受け入れるんじゃないかな。


「ソルさん、今日はお出かけしませんか? せっかくだから、この街を案内してください」


「あ、ああ。分かったよ。アタシはこの街に詳しいからな。しっかり案内してやるよ」


 うん、うまくいったみたいだ。これで元気になってくれると良いけど。

 やっぱり、勝ち気な態度をしているソルの方がそれっぽい気がする。見た目からして姉御肌だし。

 まあ、無理に態度を取りつくろってほしい訳では無いが。自然体が良いよな。


「お願いします。ボクはこの街には詳しくないので」


 それどころか、この世界に詳しくない。モンスターのステータス、スキルの特性、効率の良い稼ぎは分かる。

 とはいえ、登場人物みんなモブで生活なんて全然分からなかったからな。こういう機会に知っておきたい。


「ああ、任せろ。なにか知っているものはあるか?」


「プログスープと、モーレツビーフの串焼きは食べました。他は宿と冒険者組合くらいですね」


「それはもったいない! この街には楽しいところがいっぱいあるぞ。アタシが教えてやる」


 なるほどな。せっかくこの世界に転生しておいて、楽しいところを知らないなんて本当にもったいないよな。

 ソルは結構この街で冒険しているのだろう。なら、素直に案内されておくか。


「よろしくお願いしますね。ソルさんの案内、楽しみです」


「ああ、期待しててくれ。しっかりと楽しませてやるよ」


 まずはこの街の中心にある噴水へと向かう。流石にここは知っている。ゲーム時代から特徴的なアイコンだったからな。

 とはいえ、ちゃんと歴史とかを知っているわけではない。ソルならなにか知っているだろうか。


「この噴水、なにか言い伝えとかあったりするんですか?」


「そうだな。なんでも、この噴水の前で愛を誓うと、結ばれた2人は末永く幸せになるらしい」


 うんうん。こういう話が聞きたかった。どんな歴史があって今みたいな言い伝えになったのだろう。聞けば答えてくれるかな。


「なんで、そんな噂が流れたんですか?」


「アタシが聞いたところによると、本当に告白したカップルがいて、その2人は有名なおしどり夫婦だったらしいんだよな」


 ああ、定番の流れだな。いいぞ。ゲームらしいエピソードじゃないか?

 ギャルゲーとかなら、ここで告白したら、イラストと共に返事が返ってきそうだ。

 いいな。今みたいな話はいくらでもあるのだろう。設定資料集が出ていれば、買ったんだがな。

 流石にマイナーだったのか、『セブンクエスト』の外部媒体は全然なかった。

 サントラもないし、イラスト集もない。本当にゲームだけだったからな。


「いいですね。ボクも魔王を倒したら、ここで告白してみたいな」


「告白する相手は居るのか? アタシに教えてくれよ」


「今は居ないです。でも、きっと見つかるって信じていますから。こんなボクでも好きになってくれる人が」


「大丈夫だ! お前は可愛いんだから、きっとモテモテになるさ」


 本当にモテるなんてこと、あるだろうか。

 まあ、何でも良い。今は魔王を倒すことに全力を尽くす。結局のところ、魔王を放っておいたら世界が滅ぶからな。

 恋人ができたところで、ゆっくりなんてしていられない。

 だから、いまは冒険にすべてを注ぎ込むくらいでちょうどいいんだ。


「そうだといいですね。まあ、今は冒険しか考えていませんが」


「良くないぞ。息抜きを覚えなくちゃ、パンクしちまうからな。いくらクリスが強いからって、死なないわけじゃないんだぞ」


 確かにそうかもしれない。でも、死ぬイメージは全然できないんだよな。

 俺の戦闘スタイルは危険ではあるが、慣れてしまえばとても強い。だから、今の俺なら裏ボスだって倒せるはずだ。

 まあ、魔王しか話題になっていないから、裏ボスが存在するのかは怪しいが。


 というか、俺よりソルのほうが死にそうで怖い。

 あんまり強くない割に、敵に突っ込んでいきがちだからな。俺が助けてやらないとという気持ちになる。


「大丈夫です。ボク、ちゃんと戦いには慣れてるので。危険か危険じゃないかくらい分かります」


「……そうだよな。冒険者だもんな。戦いくらい経験しているよな」


「そうですよ。ソルさんだってボクが戦うところを見てきたでしょう?」


「ああ。とても強いよな。アタシでは敵わないくらい……」


 またソルが沈んでいる。そういえば、この世界はいわゆる男女あべこべな感じだよな。なら、こういうのはどうだろう。


「ソルさん、元気だしてください。なんだったら、ボクと同じ部屋で寝ますか?」


 俺の体、つまり『肉壁三号』の体は美形だしスタイルも良い。そういう風に作った。

 だから、きっと魅力的なのだと思う。俺としては、性的な接触を女からされたって困らない。

 逆に、ソルは美少年に触れられるのだから嬉しいんじゃないのかな。

 何にせよ、元気になってくれるのなら何だって良い。ソルの笑顔を見てみたいからな。


「い、いや、やめておくよ。そういうのはもっと好きな人にやれ」


「ソルさんのことは、けっこう好きですけど」


「いや、分かる。お前の好きは恋愛感情じゃない。だから、無理をするな」


「無理なんてしていないですよ。ソルさんが喜んでくれるなら十分です」


「気持ちだけ受け取っておくよ。ありがとう。じゃあ、次に行くか」


 ソルは照れていたのだろうか。据え膳を食べるものではないのだろうか。

 それとも、俺はそこまで好みではないのだろうか。まあ、機嫌を損ねた雰囲気はないから良いが。


 次の場所に向かって、また解説を受けて、また次の場所に向かう。

 それを繰り返しているうちに、ソルにも笑顔が戻ってきたような気がした。


「ソルさん、今日は楽しかったです。また、時間を作りましょうね」


「ああ。元気づけようとしてくれてありがとな。失敗ばかりのアタシだが、これからもよろしく頼む」


「分かりました。末永く、よろしくお願いしますね」


 うん。これからも付き合っていけるだけで、今日の成果としては十分だ。

 ゆっくりでも良いから、ソルが納得できる強さになれるといいな。



――――――



 ソルはクリスの前で失敗ばかりして、つい自分を責めてばかりいた。

 そんな様子を察したクリスから、息抜きに誘われたソル。

 悩みまで解決しようとされて、自分が情けなく感じていた。

 だが、感情を表に出してしまえば心配されるだけ。

 その証拠に、クリスは自分と同じベッドで寝るかなんて誘いまでしたのだ。


 つまり、相手のために体を差し出すことに慣れている。

 クリスの過去を考えれば、性的虐待を受けていたことは簡単に想像できる。

 それでも、苦しんでいる自分をなぐさめるために何でもしかねない。

 自分が沈んだままでいれば、クリスにさらなる負担をかけるだけ。そう理解したソルは、必死で元気を取りつくろう。


 そうでもしなければ、ソルは自分を許せそうになかった。

 なぜなら、戦闘でも負担をかけて、私生活でも迷惑をかけるだなんて、ただ依存しているだけだからだ。

 冒険者であるという自負、クリスへの哀れみ。それらがソルの外面を支えていた。


 そして、クリスはソルに笑顔を見せる。そんな顔をこれからも守るために、何が何でも強くなってやるのだ。ソルは強く決意した。

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