パーティを組むのは初めてだ!

 ソルとパーティを組んだので、今日もチカバの洞窟で冒険だ。毎日楽しいな。


「ソルさん、調子はどうですか? ボクはいつでもバッチリですよ」


「アタシもバッチリだよ。じゃあ、行こうか」


「そうですね。とりあえず、ソルさんが前に出るってことで良いんですか?」


「ああ。安心して任せてくれ。アタシはこれでも強いんだ」


 プログの街は駆け出し冒険者の街だった気がするが、本当に強いのだろうか。

 それとも、この街では強いと言うだけだろうか。別にどちらでも構わないが。

 何にせよ俺は最強だから、チカバの洞窟の敵ぐらいどうにでもできる。あまりに頼りなければ、解散すれば良いのだし。

 それでも、せっかくだからパーティで冒険という感覚を味わってみたいんだよな。


「分かりました。頼りにしていますね。でも、ボクは強いので、無理はしないでくださいね。ここらの敵ぐらい、問題にはならないので」


「ああ、分かった。だが、しっかり頼りになるところを見せてやるさ」


 ソルは胸を叩いて自信満々だ。頼れる姉御という雰囲気なので、ちょっと期待してしまう。

 とはいえ、いちおう助けに入る準備はしておくか。チカバの洞窟はチュートリアルダンジョンとはいえ、死なないわけでは無いからな。


 そのまま俺達はチカバの洞窟へと入っていく。もう慣れたもので、どこに何があるのかは分かってきた。

 どこへ行けばどんな敵がいるのかも十分知っているし、安全マージンを取りながら行こう。


 しばらく道なりに洞窟を進み、敵の姿を発見した。ゴブリンだ。いつものように小さい緑の小汚い人という感じ。

 俺なら何も考えずに倒せるが、ソルはどうかな。しっかり実力を確認させてもらおう。


「ソルさん、ゴブリンです。どうしますか?」


「アタシに任せておけと言ったろ? ゴブリンくらい、簡単に倒してやるよ! ハイスラッシュ!」


 ソルは勢いよく剣を振り下ろし、ゴブリンを一刀両断する。

 ハイスラッシュを使えるのか。それなら、プログの街では相当強いのだろう。

 ただ、MP効率を考えたらスラッシュを2回で倒したほうが良いと思うんだよな。

 スラッシュ2回のMPより、ハイスラッシュ1回のMPの方が多い。そして、スラッシュ2回でも十分ゴブリンは倒せただろう。


 まあ、こちらを自信満々に振り返るソルに水を指すこともないか。別に今のところは問題ないのだから。

 本気で危なくなったら、俺が助けてやれば良いのだし。流石に、死なれたらこの世界を思う存分楽しめなくなってしまう。


「どうだ? ゴブリンくらい簡単に倒せるんだ。クリス、いくらでも頼ってくれていいからな」


「分かりました。頼りにしていますね」


 ソルには勢いに乗ってもらっておいたほうが良いだろう。それにしても、強気な姉御の雰囲気がするソルのドヤ顔、けっこう可愛らしいな。

 なんというか、犬や猫が芸を自信満々に披露するときみたいな感じで。俺を助けてくれた事といい、それなりに気に入ってしまった。


 これからも、ソルとパーティを組んでいても面白いだろうな。いい相手と出会えたんじゃなかろうか。

 俺としては、これからかなり楽しくなるんじゃないかという予感がしている。

 せっかくだから、ソルにも楽しんでほしいものだが。俺を気に入ってくれているのはいいが、気を張ってばかりじゃつまらないだろう。


「ああ、任せておけ! アタシはちゃんと強いんだって教えてやるからな。安心して良いんだぞ」


 本当にいい人なのだろうな。本当に俺を安心させようとしている、穏やかな顔だから。

 うん。この人としっかり仲良くなって、俺の方こそ力になってやろう。ソルは俺と比べたら遥かに弱いのだから、こっちが助けてやるほうが正しいはずだ。


「分かりました。でも、ボクは強いんですから、そこまで気を使わなくてもいいですよ」


「なに言ってるんだ。男は守られておけば良いんだよ」


 やっぱり、この世界の価値観は特殊なのだろうな。男が守られるなんて、現実世界では違和感が強い。

 まあ、そういう事なら、ソルにしっかり活躍させてやるか。俺の感覚なら、可愛い女の子に守られたら、きっとプライドが傷つくからな。


「そうですね。なら、期待しています。頑張ってくださいね。応援しています」


「お、おう。ちゃんと見ておけよな」


 照れちゃったのか。本当に可愛らしいことだ。本気でソルのことが好きになってきたぞ。恋愛という訳では無いが、一緒にいて楽しいというのは間違いないという程度には好きだ。

 いいな。これからも、ずっとパーティを組むのも悪くないかも。1人で冒険するつもりだったが、ソルと出会えてよかったな。


 それから、ボスであるハイゴブリンのところまで、順調にたどり着いた。

 いちおう、ハイゴブリンはソロ討伐は推奨されない。それでも、満足行くまで戦わせてやろう。

 ソルの強さなら、そこまで心配しなくていいだろうしな。万が一の事態があれば、俺が守ってやれば良い。


「いよいよボスだ。アタシにやらせてくれよ。ボスでもしっかり倒せるんだからな」


「はい。ソルさんなら大丈夫だと思います。でも、気をつけてくださいね」


「ああ、任せておけ。アタシは大丈夫だからな」


 そのままソルはハイゴブリンのもとへと向かう。

 何度か切り結んでいるが、特に問題はなく順調に進めていく。そのまま決着が付きそうな感じだ。


「これでトドメだ! ハイスラ――スラッシュ!」


 ハイスラッシュのMPが足りなかったのか。ここにきて、序盤のMPの無駄遣いが響いてきた。

 結局ソルはトドメを刺しきれず、無防備に攻撃を受けようとしてしまう。


「ソルさん、危ない!」


 ソルに攻撃が当たっても大丈夫だということは分かっている。それでも、体が勝手に動いてしまった。

 俺はソルをかばい、ハイゴブリンの攻撃を受ける。当然ダメージは受けない。そのまま敵に剣を叩きつけ、ハイゴブリンは倒れていった。


「ああ、クリス。助けてくれてありがとう。情けないところを見せちまったな。こんなアタシがお前とパーティを組むなんて、嫌だよな」


「そんな事無いです! ソルさんはボクを助けてくれた。優しくしてくれた。それだけで、一緒にいて楽しかったんです。これからも、パーティを組んでください」


「あ、ああ。今回は不甲斐なかったが、今度こそはうまくやってみせるからな」


「はい。期待していますね。でも、気負いすぎないでください。ソルさんが傷ついたら、悲しいですから」


 本気でそう思う。俺はソルと一緒に冒険をして、嬉しかったんだ。

 俺のことを気づかってくれて、大切にしてくれて。空回りもしているソルだったけど、それも彼女の優しさのようで。

 だから、これからもずっと仲良くしていきたい。間違いなく、俺の心からの言葉だ。


 それから、冒険者組合に帰還して、ミリアに受付をしてもらって、今日は終わった。

 ソルが俺を助けてくれた日に出会えて良かった。おかげで、俺が想像していたより、ずっと楽しい日々が送れそうだ。



――――――



 ソルは自分の弱さが、軽率さが憎かった。

 いつも通り行動していれば、ハイゴブリンとの戦いでMPが切れるなんてことはなかったはず。

 そもそも、よく新人に指導していたことだった。MP管理には気をつけろということは。

 にもかかわらず、クリスの前では冷静に行動できなかった。


 良いところを見せようとはやり、無様な姿を見せるのがせいぜいだった自分が憎い。

 本当なら、クリスとのパーティも解散したいくらいだった。それでも、自分を必要としてくれる彼を拒絶することはためらわれて。


「アタシは、クリスに頼れるところを見せたかっただけなのに。結局かばわれるだけ。何でアタシは弱いんだ……」


 これまで、新人には頼りになる先達として見てもらっていた。だからこそ、ミリアにクリスを任されたのだろう。

 なのに、本気で力を発揮したい場面でなにもできなかった。悔しさのあまり、欠けそうなほど歯を食いしばるソル。


 クリスを支えたいのに、今回は危ないところを助けられてしまった。

 もし強敵が相手だったなら、自分のかわりに彼が苦しんでいたのは間違いない。

 いくらクリスの防御力が999だからといって、必ず傷つかないわけではないのだから。


「守るべき相手に守られるだけ。どうしてアタシは。アタシが傷ついたら悲しいなんて、クリスが言うべきことじゃないだろう」


 ソルは必死で涙をこらえていた。襲いかかる無力感から、目をそらしながら。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る