第九話 告白 後編
『その
少佐は二杯目を軍曹に命じると、俺をしたり顔で見つめながら言った。
『ご名答』
俺はポケットに手を突っ込んで、シガーケースを出し、シナモンスティックを摘まみ上げ、口に咥えて言った。
『自慢話は嫌いだが、付録をくっつけるとこれでも一応エリート部隊と言われる第一空挺団に所属していたんだ』
と付け加えてみるが、少佐はまるで反応をみせなかった。
『自衛隊なんぞ、所詮米軍の傭兵みたいなもんだろう』
冷ややかな言葉が返ってきただけだった。
『それに比べ、私達は違う。技術も精神も、君とは違う』
『あの”殺人光線”がその証だとでも言いたいのか?』
『その通りだ』
少佐は椅子から立ち上がり、少し声を張りあげながら、その昔、市谷で自決したあの作家みたいに演説をし始めた。
『私はこの国、いや、大日本帝国の為に戦った。その時は国を信じ、政府を信じていたのだ。それは世界中どこの国も同じだろう。誰も祖国が悪だと思って戦争をする人間などいる筈はない。』
『ところが、いざ帝国が敗れると、我々の戦争は全て”悪”だということになった。いや、されてしまった。敵国がそう思うのは仕方がないとしても、、かつての同胞達まで我々を悪だ侵略だと騒ぎ立てる・・・・私はそれに、つくづく嫌気がさしたのだ』
俺は黙っていた。
一本目を齧り終わり、テーブルの上に置いたケースから、二本目を摘み上げた。
『私は同志を募り、再び立ち上がろうと決心を固めた。財力も蓄えた。戦時中計画されていた殺人光線の噂を聞き、密かに設計図も手に入れた。ところがだ。
私の呼びかけに応じた者は殆どいなかった。生き残っていた誰もが全員、戦後思想とやらに洗脳され尽くしてしまっていたのだ。
僅かに残っていたのはあの日下軍曹一人だけだった。これほど無様なことはない。しかし諦めるものか。私はそう誓い、軍曹と二人で血の出るような努力をして、この山に材料を持ち込み、長い時間をかけて組み立て、
少佐の目は、異様な光を帯び、何かに取りつかれているようだったが、決して狂人のそれではない。
『・・・・どうかね?幾ら米国に汚染された傭兵であったとしても、君も軍人の端くれだろう。我々の
『断る』
俺はあっさりと返した。
『何故だね?はした金の為に自分の祖国が蝕まれていくのを、黙って見過ごすつもりかね?』
『俺は私立探偵だ。探偵は依頼を受けて仕事をする。それだけだよ』
俺はそう言いながら、極めてさり気ない動作でシガーケースをポケットに戻しながら、蓋の真ん中をぐっと押す。
『・・・・ましてや年寄りの戦争ごっこなんかに興味はない。あんたを生かして連れ帰って金を貰う。それだけで沢山だ』
『・・・・失望したよ』
少佐は嘲りとも冷笑ともつかぬ表情を俺に向かって投げかけてきた。
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