3人目のリンデルを探せ!(前編)

とある昼下がり。日課の魔法鍛錬をしていたジェド様とリンデル兄弟のところに、私はお茶を運んでいた。


「三人とも、休憩のお時間です。お茶の用意ができましたよ」

呼びかけると、ジェド様が笑顔でこちらを向いた。


「もう休憩の時間か。悪いが、俺だけ少し練習を続けて良いか? 新しい術の構成を思いついたから、手を止めるのが惜しい」


「分かりました」


ジェド様はリンデル兄弟に先に休憩を取るよう促した。


「若が鍛錬を続けるなら、我々もご一緒しますよ」

「いや。今は俺一人で考えたい。少ししたら俺も休むから、お前たちは先に休んでくれ」


では、お言葉に甘えて――と、リンデル兄弟は先にガーデンテーブルについた。


主人よりも先に従者が休憩するのは、他家ならマナー違反かもしれないけれど。レナス家は、こういうところがかなり自由だ。


「おふたりとも、ハーブティをどうぞ。今日は畑で育てたネトルをハーブティにしてみました。疲労回復にぴったりですよ」


私はディクスターさんとビクターさんの前にティーカップを置いた。淹れたてのハーブティが、ゆるやかに湯気を立てている。


「いつもすみませんね、クララ様。若だけじゃなくて我々の分まで」

「恐悦至極に存じます、若奥様」

「いえいえ。おかわりもありますから、良ければどうぞ」


私は、鍛錬を続けるジェド様を見つめていた。しなやかな指が宙空に踊れば一瞬のうちに魔法陣が描き出され、雷や吹雪が巻き起こる。


魔法陣は基本の書き方に手を加えると、魔法の効果や威力範囲を調整できるものらしい。両手を躍らせ次々と魔法を繰り出すジェド様の姿は鮮やかで、とてもかっこいい。私が思わず見惚れていると、


「「ほぉ。今日の茶葉はほんのりと甘みがありますね」」


と左右から同時に同じセリフが響いたので、びっくりしてしまった。


私の左右にいたリンデル兄弟がそれぞれティーカップを見つめ、ハーブティの香りを楽しんでいる。口に含んでゆったりと味わってから、


「「……美味い!」」


と、ふたりは同時に目を見開いていた。


「「草の香りが華やかです。さすがクララ様/若奥様 の育てたハーブは違いますね」」

という、食レポまでぴたりと同じセリフだった。私の呼称が違うだけで、あとはすべてが示し合わせたかのように一字一句変わらない。


「さすが双子……」


「「はい?」」

と、リンデル兄弟は揃って首を傾げている。


「いえ。ディクスターさんとビクターさんって、本当によく似てるなぁと。ハモり具合も完璧です」


「「そんなに似ていますか? 違う所も多いと思いますが」」


リンデル兄弟はお互いの顔を見てうなずき合っていた。そんな素振りもタイミングぴったりだ。


「性格や髪型は違いますけど。お顔が同じだし、息もぴったりですもの。双子ってすごいですね!」


「「まぁ、確かにリンデル家の五姉弟のなかでは私とビクター/兄上が、一番似ていますね。他は女性ですし」」


……五姉弟?


「リンデルさんのお家には、そんなに姉弟がいるんですか?」

「「ええ」」


お兄さん――ディクスターさんが、説明してくれた。


「我々姉弟の一番上が、リンデル家の家長を務めるルナータ・リンデル。次がこの私ディクスターと、弟のビクター。あとは妹のミリータとベアタです。ちなみに、妹たちも双子ですよ。リンデル家は双子が生まれやすい血筋なんです」


そういう血筋もあるのね……。と、私は感心しながら聞いていた。


弟のビクターさんも、ハーブティを飲みながら続けた。

「よく、『リンデル家の五姉弟はみんな同じ顔に見える』と言われます。身内が見れば明らかに違う顔なのですが、他人には見分けが付きにくいようです」


へぇ……。

頭の中で、リンデル兄弟をあと3人増やして並べてみた。同じような顔が5人。かなり面白い光景だ。


と、鍛錬が一区切りついたらしく、ジェド様がこちらにやってきた。

「なんの話をしているんだ?」


「ジェド様。ディクスターさん達のご家族の話を聞いていたんです。このお屋敷にはリンデル家の方がお二人いますけど、他のご家族も揃ったらすごくインパクトがありそうだなと」


「ふたり?」

ふしぎそうに、ジェド様は首を傾げている。


「うちの屋敷には、リンデルはあと一人いるじゃないか」

「えっ!? あと一人……? いましたっけ!?」


「なんだ。クララは、知らなかったのか」

「三人目のリンデルさん?? 半年以上このお屋敷で暮らしてますけど、会ったことありませんよ」


ディクスターさん達と同じ顔の人なんて、見たことがないもの……。


「いや。クララも会ったことがある。というか、毎日会ってる」

「毎日!? うそですよね……?」 

「嘘じゃない」


混乱する私を見て、おもしろそうにジェド様が笑っている。ディクスターさんが横から説明したそうな顔をしていたけれど、ジェド様がそれを遮った。


「クララの反応、なんだかおもしろいな。せっかくだから、ゲームをしないか?」

「ゲーム?」

「あぁ。クララが三人目のリンデルを探し当てるんだ。見事に当てたら、なにか君の好きなものをプレゼントするよ」


イタズラっ子みたいに笑って、ジェド様は私に『三人目のリンデルさん探し』を持ちかけてきた。

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