第3話


(何を話そう。俺って人を殺しちゃいましたけど、大丈夫ですか?って聞くべきなのか?いや、それだと詰まないか?)


「「………」」


 遠夏海だけでなく、死ぬつもりでいたスフルも、どんな言葉を発するべきか悩み、その場から動けずに固まっていた。


「ふぅぅ、」

「あのっ(ミスった…)」


 スフルの喉元が動き声を発すると思った遠夏海は、相手が喋ると思い、声を重ね自ら譲る事で譲歩をなど深読みをしていたのだった。


「はい…何でしょうか」


 その為、読み間違えた今は、一方的に遠夏海がスフルに対して話しかけた構図になり、それに答たスフルは必死に声を出していてもまだ、落ち着いてはいなかった。


(成るように成れ)

「咄嗟の事だったとはいえ、何か誤解していませんか?」


「誤解?」


「はい、私は偶々ここを通りかかり、無理強いしようとしている男性を見かけ、貴方を助けようとしただけで、貴方に危害を加える気はありませんでした」

 

「それだけでの理由で、いきなり殺したのですか?」


 遠夏海が弁解しようも、殺人を擁護するには余りにも状況が悪く、スフルは首を傾げたまま思った事を口にしていた。


(黙って納得してくれよ。そっちだって俺を殺そうとしたじゃん…そうだよ、この人俺を攻撃して、俺はまだ仕返してない、よな…)


「通りかかっただけと言っても、気づかれてしまえば非力な自分では、あの者には勝てなかったでしょう。だから姑息とは思いつつも実行したのです。それは貴方も同じではありませんか?」


「同じ?いきなり人を殺す貴方何かと、修道女である私がっ同じというのですか!?」


 同類と言われた事が気に触ったのか、スフルは声を徐々に張り上げ、今にも立ち上がりそうな程に叫んでいた。


「だってそうですよね…」


 気味の悪い笑みをそっと浮かべた遠夏海は、張り合う事はせず静かに、ゆっくりと、

「貴方も、いきなり私を殺そうとしたではありませんか」

 その動かない真実だけを突きつけ、自身の罪を薄めていた。


 例えそれで、相手に罪の意識が芽生えようとも、利用するつもりで。


「それは、身の危険を感…」

「ほらっ貴方だって、身の危険を感じたから、私を攻撃した。同じでしょ」


(全く違うけどな。他に方法も思いつかないし、この人には悪いけど仕方ないか)


「だって、それは…」


「逆に聞きますけど、私が殺した方が生きていて、私が何もしなければ、貴方とあの人はそのまま話し合いで解決していたのですか?」


「いえ…それは、無かった、と思います」


「なら私があの方を倒した事で、貴方は助かった。それで良かったのではありませんか?」


「えぇ」


「なら、それで良いですね。私は此処を通りかかり、話し合いで解決しそうになかった、相手を私が倒した事で貴方は助かった。大丈夫ですか?」


「助けて頂いたのにも関わらず、冷静さを欠いていたようです。すみません」


 座ったまま、背中を折ったスフルに、遠夏海がゆっくりと歩き、近づいていた。 


「っと、そこまでは良いのですが、貴方。俺を殺そうとしましたよね?」


 手を伸ばしても届かず、斧の切っ先なら届く距離に止まった遠夏海は、片膝を折って地につけ腰を落としていた。


「はぃ…」


 重く、弱々しくも、その言葉を確かに遠夏海は聞いた。


「それに関しては、後で構いません。先ずはあの死体を片付けて、中に入りませんか?」


 扉の間に横たわる死体に目を向け、スフルはゆっくりと頷き、それを了承と捉えた遠夏海が、動き出そうとしたその時、


「テメェらが、やったのか?」


 突如と森の中から発せられた声に、遠夏海とスフルの気づき視線を向けると、森の中から九人の男共が姿を現していた。


 その格好は倒れてる男と何処となく似ており、頭部のバンダナに関しては例外なく全員が身につけ、背丈が二メートルは超えガッシリとした身体付きの男が、目立つように集団の中央に立っていた。


(仲間が居たのか、それも大勢で、なんだあの熊みたいな化け物)


 一人や二人なら兎も角、目視で九人も確認した遠夏海は、想定内の近接戦だけでなく。自身が知らない未知の戦闘に意識を割いた事で、無意識の内にスフルを庇うように手を伸ばし、その手はスフルに届いていた。


(さっきの音が確かならLvは存在する、なら間違いなく一番の弱者は俺だ。Lvで何が変わるのか知らんが、身体能力に影響するなら、組み合うだけでも危険だし。なんだよあの馬鹿でかい奴は、俺の知ってるキャラよりフィジカル勝ってねぇか)


「おいっ、テメェらがやったのかッて、聞いてんだよッ」


 条件反射で耳を塞ぎたくなる様な怒鳴り声が轟、森の木々や建物を含め辺り一帯が微かに振動し、森の鳥や動物が一斉に動き回っていた。


(あれはやばいだろ、逃げるか?)

「あぁ、シスターを襲おうとしてたんでな、俺が殺した」


「俺の仲間を殺すなんざぁ、良い度胸じゃねぇか」


 大男が力強く一歩踏み込んだだけで、その部分の草花は押し潰され、他よりも土は深く沈み込んでいた。

  

(均された土を凹ますとか、ユニック車のアウトリガーと変わんねぇだろ。踏まれても掴まれても、終わりだな)


「お前らみたいな連中に、仲間意識とかあるんだな。でもシスターを恐喝するのは止めといた方が良い、罰が当たるからな」


「黙ってろ糞ガキがぁあッ、テメェは俺が捻り潰してやる。良いかシスターはその後だっ」


「さっきも言ったけど罰が当たるぞ、(実体験だし…)それに、お前の使えねぇ仲間を殺したのは俺だ、かかって来いよ、デカぶつ」


 遠夏海の挑発をきっかけに、大男の怒りは頂点に達してしまった。


「捻り潰すだけじゃ物足りねぇなっ”嬲り殺してやる」


「立て籠もっても無駄だろうから、逃げな」


 小さく言葉を発した遠夏海は、一番近い木に向かって走り出し、その後を怒り狂った大男が追いかけ。




「」


 


 

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