第9話 貴方が孤独ではなかったのだと言う喜びを

 ルルフェルさんは散々ゴーシュさんをからかった(意地悪した?)後、とりあえずは満足したのか、あっかんべーと可愛らしく舌を見せてから姿を消してしまった。

 彼女が消えた後、私とゴーシュさんは食事が冷めてしまうから…と言うことでご飯を食べ始めることにした。


「精霊さんって自分の姿を見えなくしたり出来るんでしょうか…」


 そう言えば出逢った時も突然姿を現した感じだったなぁ…なんて思い出しつつ、思わず目をぱちくりとさせていると、ゴーシュさんは、はふー…っと深いため息をついた後、気を取り直すようにして話をし始めた。


「…ルル…えっと、…精霊は、人間とは違って体が魔力で作られていて…、だからそれをコントロールして人間から姿を隠したり出来るみたいで…」


 小さい頃はそのせいで良く悪戯されたもんです…と、ゴーシュさんは呆れたような複雑そうな声色だ。


「小さい頃から一緒に暮らしてたんですね!」


「…精霊たち…とは、爺ちゃんが契約してた…らしいんだけど、爺ちゃんが居なくなった後も屋敷に住み着いたままで…何故か出て行かないんですよね…」


「そうなんですね…。えっと―———…お爺様とお婆様は…今は――…」


 お爺様やお婆様のこと…。

 デリケートな部分だとは思うし、触れない方が良いのかも?と言う思いは当然あったのだけど、それ以上にやっぱり気になってしまって、私はつい聞いてしまう。

 ゴーシュさんは、「あ」と言う声を漏らしてから、髪をわしゃっと掻いた。


「…あ、すみません…。えっと、爺ちゃんは10年前だったかな…。婆ちゃんはその少し前くらいに死んじゃってて…」


「10年…!」


 今15歳の私にとって10年と言う歳月はとても長く感じられる。

 ゴーシュさんはきっと爺様とお婆様を愛していたのだと思うし、そんな大事な人を失ってから10年もの間、彼はここに一人で………。


(…ううん!ルルフェルさんや他の精霊さんたちが居てくれたんだもの!一人ぼっちではなかったんだ…!)


 彼が家族を亡くしてから、ずっと孤独な気持ちで10年も過ごしていたのかと思ったら、私はつい凄く悲しくて切ない気持ちになってしまったのだけど、ルルフェルさんの顔がぽんと脳裏に浮かんできて、少しだけ安堵の気持ちを抱くことが出来た。

 確かに彼らは人間ではないけれど、こんなにも長い時間を寄り添って、辛くて苦しかった時に傍に居てくれたのならそれってもう"家族"だと思うし…!


「………メーデルさん?」


 私は無意識に表情が緩んでいたのかも知れない。

 ゴーシュさんがなんだか心配そうな声色で私の顔を覗き込んでいる。

 私は少し慌ててしまった。


「え、あ、ご、ごめんなさい…!…あの、ルルフェルさんや他の精霊さんたちがお爺様が亡くなった後も屋敷に残っている…と言うのは多分…」


「?」


「ルルフェルさんや精霊さんたちが、ゴーシュさんのことを放っておけなかったんじゃないかな…って思ったら、何だか胸がポカポカしちゃったと言いますか…」


「え?」

「え?」


 気が付くと、また私たちは二人して顔を見合わせていた。

 こんな驚いたようなリアクションが返ってくると思わなかったので、私もつい間の抜けた声を上げてしまった。

 私たちってなんだかこんな風になること多いような?なんて思いつつ、私は慌てて言葉を続ける。良く聞こえなかっただけかも知れない…と思い、少しだけ言い直したりもする。


「えっと――――…、…だから、精霊さんたちはゴーシュさんのことが好きなんだろうなって……」


「……………」


 私はそんなに変なことを言っただろうか?

 私の言葉を聞いて黙り込んでしまったゴーシュさんの様子を伺っては見るけれど、目が前髪で隠れていて見えないから、何を考えているのがちっとも分からない…!!

(赤くなったり青くなったりしているのはわかりやすいから口元だけでもわかるけれど…)


「…そんな風に考えたことはなかったな……」


 少しの間の後で、ぽつりとゴーシュさんはそう零して、よくよく見るとちょっとだけ口元が嬉しそうに緩んでいるようにも見えたりして。


「ゴーシュさんもルルフェルさんたちのこと、大好きなんですね!」


 ふふって私が笑ったら、ゴーシュさんは大慌てで首をぶんぶんと横に振る。


「そ、そんなんじゃないですよ!!暮らしを手伝ってくれるのは助かってますけど、本当に気まぐれで我儘だし、悪戯ばっかりするし…」


 ああ、ほらまたこんな風に、ちょっと幼い子供みたいな拗ね方をする。

 もしかしたら、ルルフェルさんもそれが楽しくって彼をからかったり意地悪を言ってしまうのかも?

 嫌われたくないって思ってしまう私は、まだ彼にわざと意地悪をしたりなんて出来ないけれど、大切な人を失って傷ついただろう幼いゴーシュさんにずっと寄り添ってくれていた精霊さんたちみたいに、今度は私が…彼にどんな時も寄り添ってあげられるような奥さんになれたなら………。その時は、ちょっとだけ意地悪を言って、可愛らしいゴーシュさんの反応を楽しんだり出来るようになれたら素敵だな…なんて不純なことも考えてしまったりするのだった。

 だって、そんな風にじゃれ合える夫婦って、とっても素敵だと思わない?



 ―————ねぇ、故郷のお父様にお母様、お兄様とお姉さま、屋敷のみんな。

 みんなが恐れて嫌っていた"魔法使い"さんは、ちっとも恐ろしい人なんかじゃなかったわ!少しだけ不器用だけれど、とっても優しくて可愛らしい方で、私は彼の新しい表情かおを見つける度、胸が弾むような心地がするの!!

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