第29話「作戦成功……?」

 どれだけの時間が経ったのだろうか。僕とソウタは一言も会話をすることなく、目の前にある青色のオーラをただぼんやりと眺めていた。――何もできずにただ待つだけの時間が僕は嫌いだった。頭の中に余計なことが虫のように湧いてきてしまう。僕は、できるだけネガティブなことは考えないようにして、何事もなかったかのように、二人が笑顔で僕達の前に出てくることを信じることにした。


「作戦、成功!!」


 突然、オーラの中から、ツグミさんの大きな声が響き渡るように聞こえた。僕は作戦成功という言葉に一瞬喜んだが、ミリンの声が聞こえないことに気付いて不安になる。青色のオーラは、てっぺんから空と交わっていくように、少しずつ消えてなくなっていく。


 ――オーラが消えると、ステッキを握って立っているツグミさんの姿がまず目に入った。次に、その横で座り込んでいるミリンの姿が見えた。遠くから見るだけでは確信が持てなかったが、少なくとも死んではいないはずだ。よかった、ミリンは生きていたようだ……。そして、二人の魔法少女の周りには二十匹ほどの子供のイノシシ達が、渦を巻くように並んで地面にバタンと倒れていた。


「大丈夫たったの?!作戦は成功した……?」


 僕は大きな声で質問をすると、ヨロヨロと立ち上がり、ツグミさんとミリンの方に歩いていく。すかさずソウタが起き上がったかと思うと、僕の肩を抱え、一緒に歩いてくれる。


「うん、なんとか……!」


 ミリンが疲れ切った声でそう答える。周りで倒れているイノシシ達を踏みつけないように気を付けながら、僕達は四人で小さく集合した。


「……このイノシシ達、死んでないよね?」


 僕は、周りを見回した後、心配そうに二人の魔法少女に尋ねる。何匹ものイノシシ達が倒れている真ん中に居るのは生まれて初めてで、正直気味が悪い。


「……あっ」


 ツグミさんが何かに気づいたように声を出す。だが、その声を掻き消すようにミリンが勢いよく話し出した。


「大丈夫!!ツグミさんにイノシシ達を閉じ込めてもらった後、私が一匹一匹眠らせていったの。だから死んだりはしていないはずっ」


 そうだったんだ、と僕は言う。僕達がオーラの外で不安そうに待っていた間、ツグミさんとミリンはしっかりと協力をしていたらしい。何はともあれ、イノシシが問題なく捕まえられて、ミリンも無事だったのであれば、それで良かった。僕が色々考えすぎてしまっていたようだ。


「……ただ、このイノシシ達は眠っているだけだから、いずれ起きてしまうの。眠っている間にゲージか何かで捕まえておかないと、また逃げられちゃう。」


 ツグミさんが真剣な顔でそう補足する。確かに、今の状態ではまだイノシシ達を捕まえたとは言えない。捕まえるための道具は学校にあるのかどうか、先にメイ先生に確認しておけば良かったな……。


「まあ、最悪一匹ずつ空き教室に運ぶのでもいいかな、と思ってる!というか、最初から二人で話してその計画で考えてたんよ。ちょっと効率は悪いけどね。それに眠っている子達、すぐには起きないはずだよ!」


 皆の表情が少し暗くなっていく中、ミリンが明るくそう伝える。なんだ、先に作戦は考えていたのかと僕は安心した。確かにツグミさんとミリンがイノシシ達を眠らせた後のことを先に考えていないはずがない。


「どうする?イノシシ達を空き教室に連れていくか?それとも、メイ先生にここからどうすればいいか聞きに行ってみるか?俺達がやるべきことはやったと思うし、報告ついでで先生にこの場に来てもらえたら後はきっとどうにかしてくれるだろう」


 ソウタがみんなに提案する。


「そうだね、ただ、空き教室を使うにしても先に先生に声を掛けておいた方がいいかもね。まずは先生に報告しよっか」


 僕がそう言うと、ソウタとミリンは頷いてそれに同意をした。ここまでのことをやったならもう仕事としては十分だし、念のため出来るだけ早くイノシシ達が起きる前に確保をしてしまいたい。もしイノシシが起きて逃げ出してしまうと、今までの皆の頑張りがゼロに戻ってしまう。


「……うーん」


 ツグミさんは一人、僕達の提案に同意をせずに暗い顔をしていた。まだちゃんと捕まえていない状態でメイ先生を呼びたくない、みたいなこだわりがあるのだろうか。確かにツグミさんはメイ先生から一番期待されて声を掛けられたわけだから、クラスの優等生として中途半端な成果を見せたくないという気持ちも分からないではない。


 ただ、今の状況はミリンいわく当初の作戦通りであるはずなのに、何にこだわっているのかが僕にはちょっとよく分からない。何かまだメイ先生を呼んではいけない理由があったりでもするのだろうか。


「みんな疲れちゃっただろうから、俺がメイ先生を呼びに行ってやるよ!」


 突然ソウタはそう言って、駆け足で倒れているイノシシを避けながらメイ先生のいる職員室の方へ向かっていった。ツグミさんは何か言いたげだったが、結局何も言わずに三人でソウタを待つことになった。


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