第2話 遠野 真珠

澄み切った青い空、鮮やかな太陽の日差し、そして鳥のさえずり、このアパートでの生活も2日目、今日もいい日が過ごせそうだ!


「やっと見つけたわ!」


前言撤回、今日は悪い日を過ごせそうだ。

勢いよく開かれた家のドア、なぜ勢いよく開かれたんだ? ………そうかこの家、オートロックじゃないのか!

ということは僕は一晩中鍵を開けたまま過ごしていたのか…なんて不用心なんだ!


「鍵をかけ忘れるなんて不用心よ、やっぱりあなたは私がいないとダメね」


「………もう諦めてくれよ、真珠しんじゅ


「誰が諦めるもんですか! 私はあなたの許嫁なのよ!」


許嫁ですよね」


「………いいのよ、元なんて関係ない!」


彼女は遠野とおの真珠しんじゅ、僕の許嫁だ。僕たちは6歳の頃には将来結婚することが決まっていた。しかし、僕が反発し10歳の時に、『自分の相手は自分で決める』と親にも真珠の両親にも言った。そしたら意外にも了承してくれた。何かあるんじゃないか?と疑っていたが、特に何か起きることもなかった。そう、一つを除いて。

それは彼女だった。

僕が出かけると必ずと言っていいほどそこにいるし、風邪を引いた時にはそのことを知らせていないはずなのに、お粥を作って持ってきたことがある。

それには両親も不思議に思い、家を調べたら…

隠しカメラ、盗聴器がたくさん出てきた。

これには流石の両親も驚き、真珠の両親に伝えるしかなかった。

その後、真珠はめちゃくちゃ怒られた。

そして、理由は? と聞かれた時、彼女はこう答えた。


『何で、廉様と結婚できないの!?』


『私が廉様を1番幸せにできるのに!』


『どうして? どうして? どうして私じゃダメなの!?』


これが許嫁を解約した1週間後の出来事だった。

そう彼女、遠野真珠は病んでいる。

僕に惚れ込んでいる。過剰なまでといっても。しかしそれが嬉しいとは思わない、なぜなら、僕は自分で決めた人と付き合い、結婚したいからだ。それが自分の心に決めていることの1つだからだ。


「………真珠、早く帰ってくれ、僕は今日仕事を探しにいくから忙しいんだ」


「あなたが働く必要はないわ、はい、これ」


真珠から封筒が渡される。もしかしてお金か?

その封筒の中身はお金だった。ただ普通のお金とは違う、

そう、通帳だった。


「1000万入ってるから好きに使っていいわよ」


「………真珠」


「あら、もしかして少なかった? ちょっと待ってなさい」


もうひとつ封筒が渡される。さっきとは違い封筒が分厚い。


「とりあえず、現金で100万、もっと欲しいんだったら私と婚約そして結婚しなさい」


「………婚約も結婚もしない、真珠、いいか? 僕は自分1人の力で生活してみたいんだ。援助とかは一切貰うつもりはない。これは持って帰ってくれ、気持ちだけ受け取るよ」


「………まぁ、知ってたけど、案の定ね」


そう言って、意外にもすんなりと帰ろうとする。


「おい、ちょっと待て! 何で俺が1人で生活すること知ってるんだ? しかも1日で家特定しやがって」


「当たり前よ、あなたのことだったら、何でも知ってる。それが許嫁ってものよ」


「………元をつけろ真珠、また家に盗聴器つけたろ」


「………」


絶対付けたな。家を出て2日で早速連絡だ。家に盗聴器があるのはまずい。


「あなた約束してたじゃない、連絡は取らないって」


「真珠は本当に何でも知ってるな、知ってるのはおかしいんだけど」


「何でもは知らないわよ、あなたの事だけ」


「それにあなたがいない家に盗聴器があっても意味ないわ」


「認めたな、両親に連絡しとくから、自分で外しに行け」


「いやよ、さっき意味がないと言ったけど、3年経ったら、あなたはあの家に戻る、その時意味が出てくる」


「じゃあ3年後、僕があの家に戻ったら、すぐに外すからな」


「見つかるといいわね、盗聴器」


「何でそんな自信があるんだよ」


「私だって成長してるのよ、当たり前よ」


そう言って、僕の部屋から出て行った。


「何だか、朝からドッと疲れた。………よし! 準備したら、仕事を探さないと!」


廉が仕事を探そうと気合を入れて、外に出る準備をしている時、外では…


「はぁ〜廉様と喋っちゃった。ほんと今日は最高の日。そして廉様はまだ気づいてない。私だって進化してるのよって言ったじゃない。もう盗聴器はすでに部屋の中にあるのに、気づいてない廉様も可愛いなぁ、絶対に私に惚れさせて結婚するんだから! 本当は仕事に家事、全部私がやってあげるんだけど、いきなりそんなことしたら、廉様に怒られちゃうかな? いや別に怒られてもいいか、怒ってる廉様もカッコいいからなぁ〜。はぁ〜本当に好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好き好きだ〜い好き廉様」


一方廉の隣の部屋では…


「はあー?誰だあいつ、私の廉くんと馴れ馴れしく話しやがって、元許嫁のくせに。もうあなたは女としてみられてませんから、早く諦めろよ。廉くんは私に惚れてるんですから。あぁ〜廉くん可哀想だなぁ〜あんなめんどくさい女に付き纏われて、私が廉くんを守ってあげないと。本当に廉くん好き! 大好き!」








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