【ようせい】

空川陽樹

第1話

はぁ。今日で五日か。


私には一人、親友がいる。彼とは小学生の頃からの付き合いで、四十に差し掛かっている現在まで交友は続いている。私たちは高校を卒業した後、警察官になった。それは両者が持つ強い正義感ゆえだった。そして彼とは週一でよく飲みに行っており、この話を聞いたのもその時だった。


「え?どこに行くって?」

私は驚いて聞き返した。

「街外れの森だよ。」

「いや、あそこは禁足地で、入れないはずじゃ、、、」

「そうなんだけど、昨晩夢に出てきたんだ。」

「何が?」

「十五年前に消えた彼女がそこにいたんだよ。」

こいつは当時、5年間付き合ってる彼女がいた。私とこいつと彼女は三人とも幼馴染で、二人が互いに惹かれあっているのは途中から気づいていた。そして高校卒業の時にめでたく付き合うことになった。

「確か、急にいなくなったんだよな?」

「ああ、忘れもしない。あれは六月四日の朝だった。」

「もう何度も聞いたよ。目が覚めたら綺麗さっぱり消えてたんだろ?」

「ああ。捜索願いも出したけど結局見つからないままだ。」

「それで、その彼女が夢に出てきた、と。」

「そうなんだ。夢だからはっきり覚えてはいないけど、あの森の中から俺を呼ぶ声がずっと聞こえていたような気がするんだ。」

「そんなことであの禁じられた森に入るのかよ。」

「そんなことって、、、」

「わりぃ。お前にとっては大事なことだな。」

確かに、こいつはあれ以来人が変わったように仕事に熱中するようになった。彼女のことを忘れようとしているかのように。それでも飲みに行って酔っ払うといつも彼女の話をしてるのだから、よほど忘れられないのだろう。現に今も独り身であることがそれを物語っている。

「まあ、でも夢に出てきたってだけでそこに行くのはあまりにも危険じゃないか?」

「だからこうやってお前に相談したんだ。」

「つまり僕もついて行けって?」

「いや、流石に親友といえどもこれはリスクが大きすぎる。」

「じゃあ何をすればいいんだ?」

「俺はさっそく明日入るつもりなんだが、もしそれから五日経っても帰ってこなかったり連絡がなかったら捜索願いを出して欲しい。」

「直接探しに行かなくていいのか?」

「あまりにも危険だからな。お前を巻き込みたく無い。」

「・・・分かった。ただし絶対に無理はするなよ。少しでも異変を感じたらすぐに引き返せ。分かったな?」

「ああ、もちろんだ、親友。ありがとう。じゃあ、明日は早いからここらへんで終わりにするか。ここは俺が払うよ。頼みを聞いてくれるんだしな。」

会計へ向かう背中には熱がこもっているのが分かった。力強く、目的に向かって一歩ずつ踏みしめている。そんな気がした。ここまでの気迫を見せられれば止められるはずがなかった。

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