第5話 美鳥 微睡

 目を瞑る前に見たのは自分がまだ小学生の頃の顔。目を見開いて驚いた顔をしてたなあ。

 頭にガツンと衝撃があって、私は目を瞑ってしまった。フワリと空を飛ぶ感じがしたんだよね。

 しばらくして目を開けようと思ったけど、何故か開かないの。

でもね、周りのことは感じるの。


「良かったよ。お前も大丈夫みたいで」


 一孝さんだ。私を心配してくれてるんだ。聞いているのか、見ているとかわからない、でもわかるの。不思議な感じ。

 すぐ、一孝さんを感じるの。ぎゅっと抱きついている気がする。彼が笑っていてくれるのもわかる。

 彼と一緒に歩けて笑っているのも私。

 でも見えてない。顔がわからない。ぼんやりして一孝さんの顔が見えないの。

だって私は目を瞑ったままなんだから。でも一孝さんとわかってしまう。

 これは、もしかしてコトリの世界。コトリが感じてる世界なんだろうか? 

だって見えないんだよ、聞こえないんだよ。ただわかるだけ。

 いきなりママの香りがわかった。大好きなママ。抱きしめてくれている。嬉しいなが溢れてくる。そして、

 あっ、パパの匂い。ママほどではないけど嬉しいを感じる。だってパパだもん。

 すると、甘いチョコとバナナがいきなり脳裏に浮かぶ、


「チョコバナナ」


 私が喋っている。違わないけどコトリだ。美鳥はコトリなんだから。

そして感じられた。


「お前、コトリか?」


 一孝さんだ。わかってくれたんだ。


「美鳥はコトリだよー」


 彼がわかってくれた嬉しさに私は大声をあげた。と思う。


『一孝さあーん、コトリに体取られたぁ』


 向こうに私の声がしたことを感じる。思いっきり声を出せばあちらに届く。

で、いきなり、


「可愛いよ、びっくりしたよ。綺麗だ」


 彼がコトリを褒めてる。違うの。

『一孝さぁーん、私なんですよー、お化粧したのも浴衣選んだのも』

「わかってるよ、もちろん綺麗だよ」


 思いの強さだけでも届いてくれた。


『ヤダァ、もう一孝さんたらぁ』


 もう、嬉しくって。

そうしたら、彼がコトリではなく、私に話しかけてくれるた。


「どうしよう美鳥、マンションに戻って、コトリと入れ替わるか?」

 コトリの不安も伝わってくる。

私は答えた。


『いえ、一孝さん。どうすればもどれるかわからないし、コトリが見聞きすることがこちらでもわかるんです』


 ちゃっかりしてる、コトリがほっとしてるのがわかった。

で、また、いきなり、記憶がいくつかフラッシュする。一孝さん、コトリに何させたの?


え、おんぶ!

え、抱っこ! しかもダブルで、

え、キス


 で、どうしたことか、頭が♡で爆発した。そう言うしかないのよ。


 一孝さんだ。キスしたんだ。コトリに、


『一孝さん、コトリへは犯罪です』


 淫交条例違反で逮捕です。

でも一孝さん、こんな言葉くれたの、


「戻ったら、濃厚にしてあげるから」


 私が♡で爆発してしまった。


『許す』


 すると、いきなり、周りが光に満ち溢れ、強く震え出したの。一気に真っ暗にもなるし、


なっ何なの?


 彼の言葉を感じる。


「驚かしてごめんね。これが花火って言うんだよ」


 そうかコトリは花火を体感した時なかったんだね。それは驚くよね。

しばらくして、もう一度花火を感じた。


 あれっ一孝さんが手を握ってくれている。彼を感じるんだ。

それとなんか目の前に良いものがあるように感じるの、鼻がヒクつき、涎まで出てきた。

 屋台が出てるから食べ物じゃないかな。


  りんご飴 たこ焼き 焼きそば


 えっ、スティックワッフル? なに?


 コトリ! 何見てるの。輪郭がぼやけてわからないでしょ。


 戻ったら絶対、食べてやるんだもん。


そうこうしていると、静かになり、

直様、今まで以上の光と振動が私を襲う。

花火だ。たくさん感じる。多分スターマインだっけ。

そして、世界が真っ暗になった。


そして私は目を開ける。

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