第14話 お客様が大襲来! 飛ぶように売れるポーション

 食事を終え、わたしは工房アトリエへ向かった。

 さっそく試作品を作っていかなきゃ。

 グリーンハーブを使い、モンスターが落とすアイテム『グリーンスライムの欠片』を加えて調合していく。

 次にいったん味見……うん、香りも味もヨシ。回復力も申し分ない。一応、完成かな。



【グリーンスリムポーション】

【詳細】

 小型で重量が非常に軽い。

 携帯性抜群のポーション。

 体力を中回復する。

 麻痺を回復する効果もある。



 ランタナから提供してもらった小型ポーション瓶の中で、エメラルドグリーンの液体が揺れる。うん、見た目も綺麗。これなら価格も安くできるし、売れそう。


 完成に喜んでいると扉をノックする音が。


「はい、どうぞ」

「夜分失礼しますね、アザレアさん」

「イベリスさん、いらっしゃい。ポーションが出来たところです」

「おぉ、見事なグリーンスリムポーションですね。冒険者に需要が高いポーションのひとつです。相場は千セルかガルム銅貨でも取引されますね」

「これを出来る限り作って、しばらくは売ろうと思います」

「それが良いでしょう。まずはコツコツと確実に」


 イベリスのアドバイスを受けながら、わたしはポーションを増やしていく。そうして、没頭していると深夜を過ぎ――寝る時間も忘れて作り続けてしまっていた。


「あぁ!!」


 窓の外を見ると日が昇ってしまっていた。

 し、しまった……楽しすぎて量産してた。ね、眠いぃ……。

 さすがのイベリスも眠ってしまっていた。ゼフィランサスを抱えて。わたしも……寝よっと……。



 ◆ ◆ ◆



 体をぐらぐら揺らされて、わたしは目覚めた。


「――起きて! 起きて、アザレアさん!」

「…………へ。まだ、眠いでしゅ」

「あぁっ! 良かった、死んでいるかのように眠っていたで心配したよ」


 ぼやける視界が正常になっていくと、心配そうに見つめるノイシュヴァンシュタイン卿らしき姿があった。……って、えっ! このサラサラの黒い髪、優しい赤い瞳は間違いない。彼だ!


「わッ! ノイシュヴァンシュタイン卿!? なぜここに」

「なぜって、呼んでも誰も返事をしないから。イベリスも眠っているようだし」


 ああ、そっか。

 昨晩はずっと徹夜していて寝落ちしていたんだっけ。

 テーブルの上には大量生産したグリーンスリムポーションがズラリ。あんなに作ったっけ……! というか、作り過ぎちゃったかも。全部売れるかな……。


「ごめんなさい、ポーションを作っていたもので」

「ああ、このテーブルの上にたくさん置いてあるポーションかい。凄いね、これ君ひとりで?」

「いえ、少しですけどイベリスさんに手伝ってもらいました」


 多少調合を変えたり、他にもいろんなポーションを実験的に作った。頭が回らないせいで何を作ったか覚えてはいないけど自信作は多い。


「そうか。でもこれは素晴らしい。これほどたくさんのポーションを作れる者はそうはいない。さっそく売ってくれないか」

「そ、それは構わないですが、ノイシュヴァンシュタイン卿も使われるのですか?」

「というか、お店の外のお客さんかな」

「はい?」


 ノイシュヴァンシュタイン卿に連れられ、外の様子を見てみた。すると、なぜか行列が出来てしまっていた。

 え、まって……もう!?

 オープン予定もないお店に、もうお客様が!


「この通り、お客さんから要請があって僕がお店の様子を見に来たんだ」

「あの……お店の看板すらまだなんですけど……」

「アザレアさん、昨日でかなりの有名人になったからね。配信ランキングやオリーブの村を救ったり。君の名前だけで十分集客が見込めるってことだろうね」


 うそー…!

 というか、オリーブの村のことも噂が広まっているんだ! わたし、そんな有名人になっていたなんて知らなかった。


 とにかく、このお客さんをどうしよう。



「あ、アザレアさんじゃん!」「おはよー、ポーション買いにきたよー」「お店ってもうオープンするよね?」「ポーションが売ってなさすぎて、アザレアさんを頼るしか……」「頼む、ポーションを売ってくれ!」「討伐クエストに必要なんだ」



 様々な声が耳に届いた。

 そっか、こんなにも回復ポーションを必要としている人達がいるんだ。こうなったら、あのグリーンスリムポーションを売るしかないっ。



「分かりました。準備をするので少々お待ちください!」



 歓声が上がり、わたしは少しプレッシャーを感じた。まだ正式なオープンすらしていないのに、いきなりポーションを売ることになるなんて、本当に大丈夫かな。


 お店へ戻ると、イベリスが不思議な顔をして現れた。やっと起きて来てくれた!


「おはようございます、アザレアさん。この騒ぎはなんです? ノイシュヴァンシュタイン卿もいらっしゃるようで……なぜ?」

「実は、お客さんが殺到してしまったようで……」

「な、なんと! 正式オープンする前に列が出来てしまったんですね。これは異常事態といいますか、はじめての経験です。しかし、幸いにも昨晩作ったグリーンスリムポーションなどがありますから、売ってあげましょう」


 そうと決まれば、わたしは急いでお店にポーションを並べた。木箱が大量に並ぶ。……よし、これで在庫は全部。

 全てが売れるとは思えないけど、がんばってみよう。


「では、僕も列に並ぶとしよう。アザレアさん、また後ほど」

「え、わざわざ並ばなくとも、個別でお売りしますよ」

「そうかい? それは助かるな。では、邪魔にならないよう隅で見させてもらうよ」

「はい、分かりました!」


 いよいよ名も無き店をオープンした。できれば、もっと整えてからにしたかった。けれど、お客様が望むのなら、わたしは要望に応えたい。

 さっそく一人目のお客様が入店した。


「「いらっしゃいませ!」」


 わたしとイベリスの声が重なる。

 元気よく挨拶すると、お客様も笑顔になった。


「あの~、種類はなんでもいいので回復ポーションを三十個売って欲しいのですが」

「では、グリーンスリムポーションがおススメです!」

「それでお願いします」


 もうポーションが売れてしまった。

 グリーンスリムポーションは一個あたり売価千五百セル。それが三十個なので四万五千セル。原価たったの五十セルなので、かなりの利益。


 それから、十人、三十人とお客様がお店に入った。ポーションの在庫はあっというまに底をつき――完売。


 半日も掛からず全て売れてしまった。こんなにアッサリ売れてしまうなんて……夢みたい。手元にお金もたくさん。金貨まである。こんな大金を手にするのは人生で初めての経験で、手が震えた。


 すごい……商売ってこんなに楽しいんだ。


 みんな笑顔になってくれたし、もっと欲しいとの声もあった。なら、もっともっと大量生産しないと。


「お疲れ様です、アザレアさん」

「ありがとうございます。お昼になる前に全部売れちゃいました」

「ちゃんとしたお店ではないのに関わらず、これほどのお客様を呼び込めるとは……これは一種の才能ですよ。これなら、フランチャイズFC展開など考えてみてもいいかもですね」

「フランチャイズですか?」

「説明すると長くなるのでまた今度にしますが、要はチェーン店です。二号店や三号店を作るんですよ」


 へえ、そういう方法もあるんだ。さすがイベリス。なんでも知っている! もっと彼から学び、たくさんの知識を盗んでいかないと。


 今日はたった半日ではあったけど、商売の楽しさを知れた。もっとお客様に笑顔を、それと品質の良いポーションを売ってあげたい。


「素晴らしかった、アザレアさん」


 拍手をしながら歩み寄ってくるノイシュヴァンシュタイン卿。そうだ、彼にポーションを売る約束だった。取っておいたグリーンスリムポーションを売却。これで本当に全部無くなった。


「お買い上げ、ありがとうございました」

「うむ。これでブルースター騎士団が動きやすくなる」

「……え?」


 って、待って。まさか、彼がポーションを必要としていた理由って……!

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