第12話 配信者ランキング

 村の人たちから、お礼がしたいと何度もお願いされたけど、またの機会にした。


「ごめんなさい、クレソンさん」

「いえいえ、とんでもない! こちらこそ村を救っていただき感謝しております。また、いつでもこのオリーブに立ち寄ってください!」


 もう少し居たい気持ちもあったけど、お店へ戻らないと。わたしにはやるべき事がたくさんあるから。


 見送りまでずっと感謝され、わたしはまたオリーブの村に来ようと思った。



「さあ、ポイセチア帝国へ戻りましょう」

「そうですね。ユグドラシルの根は無くなっちゃいましたけど、また別の方法を考えます」

「いえ、大丈夫です。確か、根は半分は残っているのですよね?」

「はい、全部は使い切っていません。でも、これではもう使い物にならないのでは……?」

「十分です! 詳しくはお店へ戻ってからお話ししますから」



 よく分からないけど、なんとかなりそうな気配があった。イベリスを信じてみよう。

 ゼフィランサスに乗り、帝国へ戻った。


 安定性抜群でフルスピードだから、あっと言う間に到着。門の前でゼフィランサスから降りて、そこからは徒歩で向かう。


 街中を歩き始めると何故かジロジロ見られた。


 ……あれ、いつもより視線が多いような。


 宮廷錬金術師になってから注目されやすくなったけど、今日は一段と注目を受けているように思えた。……うん、気のせいじゃない。すっごく見られてる。


「イベリスさん、凄い人気ですね」

「違いますよ。アザレアさんが見られているんですよ」

「はい!? わたしですか!?」

「そうです。だって、ダンジョン配信でランキング二位ですよ……?」


 ほら、とイベリスは結果リザルトを教えてくれた。ここは、ちょうど冒険者ギルドの前だった。掲示板があり、そこにランキングが掲載されていた。そんなの見れるのー!?



【配信者ランキング】

【1位】プリムラ

【2位】アザレア

【3位】オンファロデス

【4位】エーデルワイス

【5位】ランタナ



 わぁ、本当だ。

 って、騎士団長のプリムラが一位だったんだ……。それもそうだよね。帝国の騎士団長とか知名度抜群だし、モンスターの討伐もしているようだし。

 ランタナも配信者だったんだ。

 知っている名をいくつか確認して驚いた。



「こ、これは……ビックリです!」

「錬金術師で上位に入るのはとても難しいのです。だから、これは凄いことですよ」

「え、どうしてです?」

「強い攻撃スキルがないので苦労するんです。でも、最近は爆弾ポーションが発明されたり、露店用カートを使った荒技もあるようですけどね」


 へえ、露店用カートを攻撃スキルに転用している人もいるんだ。一度、見てみたいかも。そんなことを思っていると、冒険者ギルドの建物からわたしを睨む人物がいたことに気づいた。……え、なんだろう。


「………お前か」

「は、はい……?」

「お前がアザレアだな!」

「そ、そうですけど……なにか?」

「俺はオンファロデス。配信者ランキング二位だった……錬金術師。なのに、お前が急に現れその座を奪われてしまった! おかげで視聴者を奪われた! 責任取れ!」


 男性はそう名乗った。

 あ……ランキング三位の人だ。へぇ、男性だったんだ。綺麗な赤毛。しかも錬金術師。イベリスに負けないくらい顔は良いけど――うーん、ライバルみたいだし……ちょっと複雑な相手になりそうね。


「ダンジョン配信は、今日はじめたばかりです。よく分かりません」

「きょ、今日だと!? あ、ありえん……こんな初心者みたいなヤツがたった一日で二位だと! ふざけるな!」


「宮廷錬金術師ですから!」


「な、なんだと……よく見れば隣はイベリスか!」


 イベリスの存在に気づくオンファロデスという人。知り合いかな。



「久しぶりですね、オンファロデス。いえ……“義眼の錬金術師”と言った方がいいですかね?」

「いかにも! 俺は義眼の錬金術師。この目は特別だ。神の目と言っても過言ではないぞ」


 え……あの人の目って義眼なんだ。そう言われると何だか瞳に紋様のような柄が入っているような。

 なんだかワケ有りの人っぽい。深く関わると危険な感じがした。ので、わたしは本能的に避けることにした。


「では、わたしとイベリスは帰りますので……」

「まて!」


 去ろうとすると止められた。

 ……うぅ。


「な、なんですか……?」

「アザレアとか言ったな。よく見れば可愛いな! 結婚してやらんでもない! これでも俺は伯爵。金はいくらでもある。不便はさせんぞ」


 え、なにこの人。どういうつもりなの……。

 少し引き気味になっていると、イベリスがかばってくれた。わたしの前に立ち、オンファロデスに対し強く警告した。


「アザレアさんは、私の弟子ですので」

「なんだと? この俺を捨て、そんな美女に乗り換えるとはなァ!」

「いや、捨てていませんし! あなたは破門したんです」


 えぇ……破門って、つまりイベリスが彼との関係を断ったってことだよね。多分、オンファロデスがなにかやらかしたってことだろうけど。って、彼が弟子だったんだ。信じられないなぁ……。


「捨てた事実は変わらない! なぜこの俺を宮廷錬金術師にしなかった!」

「あなたは、違法なクローンホムンクルスを作ろうとしていた。だからです」


 クローンホムンクルス?

 なにそれ、聞いたこともない。いったい、どんな技術なのだろう。


「それがどうした。その結果がどうだ! 失敗作・・・のフレイムフェンリルが完成したのではないか……! そうだろう、ゼフィランサス!!」


 えっ……!

 ゼフィランサスがクローンホムンクルス……?


 地面でのびのびとしているゼフィランサスは、気怠そうに体を起こした。そして、一言だけ言って炎を吐いた。


「うるさい」


 ゴォォォっと火属性魔法が飛び出ると、それはオンファロデスに命中して焦がし始めた。も、燃えちゃってるー!!



「ギャアアアアアアアアアア!!!」



 飛び跳ねて走っていくオンファロデスは、噴水に突っ込んで消火していた。……だ、大丈夫なのかな。


 心配になっていると、イベリスがゼフィランサスに怒っていた。


「人間に危害を加えてはダメですよ、ゼフィ」

「ご、ごめんなさい……主様」

「分かればいいのです。あなたの力は本物・・なのだから」


 反省の色を示すゼフィランサス。本物ってどういう意味だろう。

 よく分からないけど冒険者ギルドを付近を去り、そのままお店へ戻った。


 今日からこのお店に住む。


 イベリスも当分の間は一緒に住んでくれることになった。


「いつもありがとうございます、イベリスさん」

「いえいえ、お疲れ様でした。まずはお風呂をどうぞ。私はその間に晩御飯を作っておきますから」

「わぁ、イベリスさんのお料理! 楽しみですっ」

「オリーブの村で仕入れた食材もありますし、任せてください」


 いつの間に食材を入手していたんだろう。気づかなかった。不思議に感じていると、お店の扉が開いた。あれ、来客かな。


「たのもー! です」


 現れたのは鍛冶屋ブラックスミスのランタナ。この前、ポーション製造の勝負をした相手だ。また勝負しに来たのかな。


「ランタナさん、どうしてここに?」

「この前のお詫びというか、アザレアさんに渡したいものがって」

「わたしに?」


 テーブルの上に小さな小瓶が並べられた。とても小さくて精巧な作り。凄く透明度も高くて、高品質であることが理解できた。これは、とてもスリムなポーション瓶。

 あ……これって、イベリスが使っていたものと一緒だ。


「これはスリムポーション瓶。つい最近、小型化に成功したんです」

「これを、わたしに?」

「はい。商売をするとイベリス様から聞きましたので」

「これは嬉しいです! ちょうど騎士団と契約を結んだところなので、こういう小型な容器が欲しいと思っていたところでして」

「それは丁度良かったです。ウチとも契約します?」

「えっ、いいんですか?」

「もちろんです。この前のお詫びも兼ねて」


 指で摘まめるほどの軽量ポーション瓶。これがあれば、プリムラは満足してくれるはず……! そっか、鍛冶屋ってこういう容器とかも作れるんだ。凄いや!

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