第9話 ダンジョン配信

 面白い話を聞いた。

 ポインセチア帝国の冒険者ギルドへ行けば詳しく分かると。

 森林ダンジョンへ向かう前に寄ってみた。


「ここが冒険者ギルドなのですね!」

「冒険者は、この場所でギルドやパーティメンバーを募集したり、討伐クエストを受注したりするんですよ。それと、先ほどお話したアレもそこに」


 イベリスが指さす方向に視線を向ける。

 そこには大きな『掲示板』があった。

 絵画なんかよりも圧倒的なサイズ感。そこに映し出される冒険者。なんだか不思議な光景……。あれはいったい。


「なぜ、ダンジョン内が映っているのでしょうか?」

「あれは最新の魔導技術で開発された『ダンジョン配信』と言いましてね。資格を得た者だけが、ああして配信を行えるのです」

「す、凄いんですね」

「配信者は、常に多くの冒険者から閲覧され、応援されるのです。ほら、あの画面のようにコメントが流れるんですよ。不思議でしょう?」


 よく見ると文字が流れていた。

 あれはどういう仕組み……?

 初めてみる光景に、ただただ驚いた。


「わぁ、面白いです。……あれ、なんかお金が発生していませんか?」

「そうですね。今見ている配信に一万セルの投げ銭ありました」

「な、投げ銭って」

「そのままの意味です。あんな風に冒険者の心を掴み、人気なればお金を投げてもらえるんですよ」

「えぇ!? 配信するだけで!?」

「はい、配信するだけで。でも、人気になるのは凄く大変なんです。ランキング争いの為に、他の配信者に危害を加える、なんて傷害事件も度々発生していますから」


 それを聞いただけでゾッとした。

 でもそうだよね。

 お金がこんなに風に稼げるのだから、必死になる人もいるでしょうね。


「う~ん、興味はありますけど……ちょっと怖いです」

「大丈夫です。ギルド・パーティ単位で配信をしている冒険者もいますから」

「ああ、それなら安心ですね!」

「アザレアさんのことは私が守ります」


 さりげなく言われ、わたしは胸がドキッとした。……それ、嬉しい。

 ぼうっとしていると背後から声を掛けられた。


「あの~、宮廷錬金術師の方ですよね」

「あ、はい。わたしですか?」

「ええ、そうです。もしかして、配信にご興味が?」


 この人はいったい?

 あ、そっか。このギルドの受付嬢さんだ。積極的に声を掛け、サポートしているようだった。


「一応ですね」

「なるほど。ああ、でもお隣の……あら、イベリス様!?」


 イベリスの存在に気づき、受付嬢さんはギョッとしていた。


「どうもです。今日は弟子のアザレアさんに配信のことを説明しに来たのですよ」

「そうでしたか! これは失礼を」

「わざわざありがとうございます。あとは大丈夫なので」

「はい。ごゆっくり」


 頭を丁寧に下げ、受付嬢さんは去った。

 あれ、でも申請しなくて良かったのかな。


「あの、イベリスさん。どうしましょう?」

「配信のことなら心配ご無用です。私がすでに登録済みなので、アルケミストギルドに入ってください」

「ああ、そうですね! イベリスさん、マスターですもんね!」

「その通りです。それに、アザレアさんは立派な宮廷錬金術師ですから、我がギルドに相応しいのです」


 書類が手渡され、わたしは感激した。

 そっか、この為でもあったんだ。

 わたしをギルドに入れてくれる為に。


 内容に目を通していく。



【アルケミストギルド】

【ギルドマスター】

 イベリス・アガスターシェ


【詳細】

 このギルドはポインセチア帝国公認である。

 S級以上の錬金術師のみ加入可能。

 脱退時はギルドマスターの許可が必要。

 一部の税金が免除される。

 露店の出店優先権を得る。

 オークションの主催が可能。



「こ、こんなに特典があるのですか」

「アルケミストギルドは、私が手塩にかけて作り上げたギルドですからね。自慢です」



 恩恵だらけでメリットしかない!

 入るだけで優遇されるのだから、加入した方がお得すぎる。わたしは感謝しながら、契約書類に署名した。



「……アザレア・グラジオラスっと」

「はい、ありがとうございます。これで正式にアルケミストギルドのギルドメンバーですよ。改めてよろしくお願いします」


 握手を交わした。

 顔には出せないけど、わたしはめちゃくちゃ嬉しかった。どれくらい嬉しいかと言うと……やったああああ! って叫びたいくらい!


「……えへへ」

「アザレアさん、顔がニヤけていますね」

「え!? お、お恥ずかしいです……」


 やだ……わたしってば表情に出ちゃったみたい。

 うぅ、恥ずかしすぎるっ!


 爆発するくらい顔を真っ赤にするわたし。はしたないところを見せてしまった……。



「さて、さっそく森林ダンジョンへ向かいましょう。ユグドラシルの根をゲットしないとですからね」

「そうですね! がんばりますっ」


 気持ちを切り替え、冒険者ギルドを後にした。

 外に出るとゼフィランサスが大型化。でも、馬車がない。どうするのかな?


「このままゼフィランサスに乗りますよ」

「え! 乗っちゃっていいんですか?」

「二人くらいなら大丈夫です。ゼフィランサスは、特殊なフレイムフェンリル。火属性魔法の力を借り、重い荷物を運んだり、移動速度を高めたりできるんですよ」


「そうだったんですね。なんだか神秘的ですね」


 イベリスの手を借りてゼフィランサスの上に乗った。モフモフのモコモコっ! なんか座り心地も凄くいい……。油断していると眠ってしまいそう。


「私につかまってください」

「わ、分かりました。こうですか?」

「もう少し近寄ってください。そのままだと振り落とされちゃうので」


 これ以上はイベリスとかなり密着してしまう。

 ……ど、どうしよう。

 ただでさえ顔が熱いのに、密着なんてしたら心臓が破裂してしまう。なんでこんな変な感情になるんだろう。わたし、ヘンすぎっ!


「…………ぅ」

「アザレアさん? ああ、なるほど。分かりました。では、私が後ろになりましょう」


 ぐるっと器用にわたしの後ろに回るイベリス。背後から包み込まれるような状況になり、わたしは心の中で叫んだ。



(ひゃあああああああああああああ!!)

 ※嬉しい悲鳴



「ぷしゅ~~~~~~~~~~~……」

「む? アザレアさんの頭から白い煙が……! 大丈夫ですか!! って、気絶しちゃってますね……。仕方ありません、このまま目的地まで進みます!」



 * * *



 ふと目を覚ますと、目の前は森しかなかった。……あれ、わたし。

 あ、そっか。気絶していたんだ。


 それにしても、最高の寝心地だった。三日分は寝た気分。疲れはすっかり取れたし、ゼフィランサスの背中は天国でしかなった。


「おはようございます、イベリスさん」

「お目覚めですね、アザレアさん。ヨダレ、垂れていますよ?」

「ひゃう!?」


 直ぐにヨダレを拭いた。

 わ、わたしってばさっきからダメダメすぎるぅ……。もうちょっと、しっかりしないと!


 とにかく『森林ダンジョン』の前に到着したみたい。この緑一色の大自然しかない場所こそ、ダンジョンなんだ。


 ゼフィランサスから降り、さっそくダンジョンへ進んでいく。

 ちょっと寒気がした。

 日が当たりにくい場所だから、気温が低いんだ。いったい、この先に何がいるのかな。

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