第一章・寝たら死ぬ、デスゲーム

ゲームの始まり

 この空間にいるみんなは、怒りが込み上げてきたようで、主催者に対して暴言を吐いている。この状況におちいった人なら、みんなそうするだろう。

 しかし、僕は冷静に沈黙を貫き通していた。理由は簡単だ。僕には生きる希望がないから、別にこのゲームで死んだっていいと思っている。それなら、無理にわめいているより、冷静に過ごした方が最期を気持ちよく終われるだろう。

 僕は主催者の進行を待っているわけだが、みんなが喚くせいで、主催者もそれを楽しんで進行させていない。

 つまり、今僕は暇だということ。

 そんな暇をつぶそうと思い、あたりを何度も見まわしていた。さっきまでは冷静というより、困惑の方が強かったため気づかなかったことがたくさんあった。

 さっき頑丈そうと思った木目の入った壁に触れると、実は柔らかことが分かった。だから何だということだが、ある程度の衝撃は吸収してくれるようで、自分のこぶしを強くぶつけても然程さほど痛くはなかった。もし、この部屋で争いが起きて暴力の勝負になっても、壁に突き飛ばされて重傷を負うことにはならないだろう。

 ちなみに、病室のような床はしっかりと硬かった。

 天井にも触れたかったが。ここで立ち上がると――何してるんだあいつと、白い目で見られることだろう。僕は百七十センチメートル以上あるので、身長的には問題ない。そのため、天井はあとで確かめることにした。

 他にも窓が複数、規則的に配置されていることが分かった。

 中から開けることはできそうだが、窓の前には檻のような柵が設置してあるため、窓から脱出することはできなさそうだ。

 この施設は円形になっており、向かい合うように各参加者がいる。

 参加者は椅子に座っており、隣にはベッドがある。もちろん僕もだ。何故ベッドがあるのかはわからないが、何かに使うのだろうか。まあ、何日にも及んでゲームをするなら必要だと思うが。(そもそもこのデスゲームは何日にわたってやるのかは知らない)

 そんなこんなで冷静にあたりを観察していたが、ついにみんなが喚くのをやめ、主催者が進行を再開させた。

『皆さん落ち着いてください。今からルールを説明する』

 落ち着いたから進行したんだろというツッコミは心の内に留めておいて、主催者の言葉に耳を傾ける。

『一つ、このデスゲームは最長七日間行われる』

 ――ベッドは寝るためにあるんだろうな。

『二つ、毎日一人を投票によって追放できる』


『そして三つ、ジジッ――――以上だ』


 前言撤回(言ってはいないけど)する。誘惑のためのベッドだ。

 みんな主催者の言葉に衝撃が隠せていなかった。僕も同様だ。よく考えてみてくれ。七日間、寝れないんだ。死にやしないかもしれないが、とてつもなく辛いだろう。

 昔一度調べたことがある。人間は三日くらい寝ないだけで大幅に記憶力が低下する。その後も、イライラし続けたり、白昼夢のようなものを見たり、簡単な計算すらできなくなる。

 そんな恐怖に怯えてこの七日間を過ごさなきゃいけないと思うと、胸が苦しくなった。

 みんなは喚くことすらできないくらいになっていた。声が出ないんだろう。

 そんな中、主催者は続けて言った。

『追放について説明する。この七日間、毎日投票ができる。タイミングはその人しだいだ。各椅子にある紙に追放したい人の名前を書け。そして中央にある投票ボックスに入れろ。そうすれば投票完了だ。開票は一日の終わりに行われる。票数が一番多い人が追放される。票数がゼロの場合や、最多票数が同じ人がいるときは、誰も追放されない。私からの説明は以上だ。皆さん、ぜひこのゲームを楽しんでくださいな。それでは私はこれで――』

 しばしの沈黙が流れた――いや、声が出ないだけかもしれないが。

 ボイスチェンジャーの変な声に嫌悪感を抱きつつ、説明された内容を振り返る。

 そしてよく考えてみると、普通のデスゲームにはない真実があった。


 ――誰も死なずにゲームを終わらせることができる。


 沈黙が流れるこの部屋に僕は言葉を放った。

「これから、どうする?」

 この空間にいる全員に対する質問だ。もちろん僕自身にも問いかけている。

「とりあえず、誰に投票するかの話し合いをしようよ」

「待って、投票なんてしなくていい。このゲーム、七日間何もしなかったら誰も死なずに終わらせられる」

 投票なんてものは争いを生む種だ。わざわざそんな種を蒔くなんてことしたくない。

「確かにそうだ。が、寝ないなんてきついじゃないか! さっさと皆を追放して終わらせようよ」

「じゃあ最初の投票はお前な」

「は? ふざけんなよ。他の奴にしようぜ」

「早く終わらしたいんだろ?」

「……」

 投票を促進させた者は黙り込んでしまった。

 そもそも投票は一日に一度しか行われない。毎日投票したところで、一日早くなるだけである。結局全然寝れないのには変わりない。それを加味しただろう、早く終わらしたいんだろ? の発言は黙り込ませるには十分だった。

 また、沈黙が流れてしまった。ただ、そう思った数秒後にはとある人物が言葉を放った。

「みんな落ち着こう。まずは自己紹介からしていかないか?」

 僕が最初に話した二~三十代くらいの男性だ。

「確かに。お互いのことは知っておきたいもんな。名前も知らないのはいろいろと不便だし」

「じゃあ、発案者の私から自己紹介していこう」

 そう言って自己紹介を始めた。僕らはそれに聞き入った――。

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