第1章ー2話 鳥王国のにわとり地区

 スマホで作り方を調べたり、慣れない料理をしたり、にわとりの面倒を見たり、全て同時進行。結果、3時間かかった。

 やっと完成した。そうゆったりしている暇はない。だってもう、夜10時だから。

「壱鳥。鳥空。美味しい?」

「コケー!」

「美味しいって」

「なんでわかるの?」

「にわとり語勉強した」

「嘘だろ」

「もちろん」

 でも、美味しいって言ってくれた気がした。だって、明るい声で鳴いてくれたから。

 今日はいい日かもしれない。“もしかしたら”、いい日かもしれない。

「おやすみ……」

 そのとたん、煙が近づいた。火災報知機に……。

 ピピーピーピー、ピピーピーピー。

 繰り返しなる音に、僕も大地も気づかない。そのまま、壱鳥と鳥空だけ追い詰められていく。


    ◆壱鳥◆


 ピーピー五月蠅いうるさい

 そう思っているのもつかの間、すぐに火災が起きていることに気づいた。

 掛と大地はどれだけ鳴いても気づかない。大事に育ててくれたのに、恩返しもできない。

 でも今は自分の安全が優先だ。すぐに鳥空と逃げる。炎のない方へ。所詮にわとりだ。鳥だけど飛べない。


 ※ここからはにわとりが喋ることは、日本語に翻訳されて記されます。


「鳥空。もう無理だよ」

「壱鳥、確かにそうだ。だけど考えてみて。あの世に行けば掛と大地に会える。恩返しするチャンスだぞ」

「鳥空もそう思っていたのか。恩返ししたいって」

「もちろん」

「それなら確かにいいかもな」


 その時にはもう既に追い詰められていた。歩みを止め、炎と向かい合う。現実からいなくなることを決心して。


「鳥空、いつまでも一緒だよ」

「うん。壱鳥ありがとう。そしてよろしく」


 しかしその後見た光景は異常だった。

 僕の視界に広がったのは、


 “真っ白な光”


 だった――。




 僕は、壱鳥。

 火災が起きて、炎に巻かれて、天国とやらに行ったと思っていた。だけどそれは違うと思った。何故そう思ったかって? 視界に白い光が差し込んできて、火に当たっていないまま“現実世界”からいなくなったから。

 重くなっていたような気がした瞼がだんだん軽くなっていった。少し視界が開けたときに見た光景は、目の前に知らないにわとりと、隣に鳥空がいた。

 数秒経ったらすぐに視界が戻ってきて、ぼやけていたのが回復していく。

「こんにちは」

 不意に声をかけられたので、少し体が跳ね上がってしまった。

「こんにちは。ここはどこですか」と、すぐに返事を返した。

「それはもちろん……」

「“鳥王国とりおうこく”の“にわとり地区ちく”だ!」

 もちろんではない。まるで僕が既に知っているような口調だ。

 その答えに対して鳥空は「壱鳥、あの伝説の鳥王国だぞ。まさか本当にあるとは」と言った。

 いやなんで鳥空は知ってんの?

 その後、鳥王国について色々話してくれた。

 聞いたところ、鳥王国とは

 “〇にそうになっている鳥を白い光とともにこの世界に入場させ、その鳥ごとの地区に振り分けられる。鳥にとっての第ニの鳥生セカンドライフのようなもの”らしい。

 因みに記憶は残るとも言っていた。もし記憶が残っていなかったら、今頃どうなっていたか、想像したくもない。

「鳥王国はすごく広いのさ。ここはにわとりだけの場所」

「あっ! 申し遅れました。僕はこのにわとり地区のリーダー、鳥三郎とりざぶろうといいます」

 鳥三郎か。とてもいい名前だ。侍みたいで強そう。

「君たちの名前はなんだ?」

 名乗り忘れていたことに言われながら気づく。

「壱鳥です」

「鳥空です」

 ハモった。

「君たち仲がいいね」

 兄弟なのか親友なのかわからんけど、生まれた時から一緒にいたから当然だ。(多分)

「君たちに地図をあげよう」

唐突に渡された地図を、僕は凝視した。初めて見る地形で面白かった。

「僕たちは飛べないから、にわとり地区までの地図しかない」

「にわとり地区の海岸線が世界の最果てだね」

「船はないの?」と、鳥空が訊く。

「船はあるけど、ちょっと事情があって使えないんだ」と、すぐに鳥三郎が少し悲しそうに答える。

 これは深堀しない方がいいやつだ。(多分だけど)

「その事情って何?」鳥空が躊躇なく訊く。

「……」

 鳥空、なんでそんなに躊躇なく聞けるの?

「カラス」低い声で鳥三郎が言った。

「カラスに制限されている」

「カラス?」

「どういうこと?」


 それから詳しいことを教えてもらった。


 カラス地区にいるカラスと仲が悪く、逃げ出さないようにするため船を出さないか監視されていること。

 これはまだ序の口。もっとひどいことをされていた。

 毎年、カラスに襲撃され鳥口(人間界で言うと、人口)の半分以上がいなくなっていること。

 聞いた瞬間ぞわっとした。

 因みに〇ぬと本当に天国に行ってしまうことも教えてくれた。

 だけど聞いて一番いやになって事は、“今日カラスの襲撃がある”ということ。

 幸い、僕らは参加しなくていいということ。

「こんな悲しい話してごめんね。いつかは話さないといけないから、話せてよかった。じゃあ、もうそろそろ時間だ。行かないと」

 僕と鳥空は怖くて家の中にこもっていた――窓の外をのぞきながら。


 よく見てみると、悲惨な姿になったにわとり達を見て

 悲しんでいるように見えるカラスの姿があった。

「壱鳥、怖いよ」

「もう少しで終わるだろ。嫌なら見なければいいじゃん」

「見たい」

「鳥三郎を見たい」

「なら怖がるな」


 数時間後……

「鳥三郎、大丈夫?」

「大丈夫だ」明るい声で答えてくれた。

「怪我した直後に襲撃が終わってよかったね」

「病院にすぐ行けたから、本当に良かった」

「毎年、こんな感じなの?」と、鳥空が聞いた。

「そうだ。なんで負けるんだろうな」とすぐに鳥三郎が答えた。

「考えてみようよ。なんで負けるのか。そして、“勝つため”にはどうすればいいのか」

 沈黙が流れた。その沈黙に焦る。

 え? 自分変なこと言った?

「その発想があったか!」と、鳥空と鳥三郎が同時に言う。

 変なことは言っていなかったと、安心した。

 その後、僕ら3匹で話し合った。

「カラスはくちばしが鋭いから、勝てないよ」とか、

「よける技術、身につければよくね」とか。

 話し合いを進めていったら、鳥三郎が言った。


「“飛べないから負けるんじゃない?”」


 いつもカラスに空からの奇襲攻撃をされているそうだ。

 この手段をつぶしたら勝てるんじゃないかって。

 鳥三郎によって勝てない理由が分かった。

 飛べないからだと――。

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