9.親友を縛るモノ


──睦巳 View


気付いてしまった、駿が格好良いと言う事に。

駿はどんな顔だったかってのを確認するために、テスト勉強の時にじっくり観察したんだけど、確か男の俺より背が高くて178センチくらいで面長で端正な顔立ち、切れ長で二重、長い睫毛、通った鼻筋に細マッチョ体型、髪型は茶髪にニュアンスパーマ風、そしてサッカー部。

黙ってれば普通に格好良かった。


となるとやっぱりモテるのだろうか、ちょっと女子にそれとなく聞いてみるかな、話題作りにもなりそうだし良いかも。


そして気付いてから写真を撮ってたんだけど、一番良く撮れたのを壁紙にした。

スリープ解除時に駿が映って安心できるし、ポケットには駿から貰った髪留めを入れておけば触っていられるしで、まるで安心グッズに囲まれてるみたいじゃないか。


そして今日はただの膝枕から一歩進んでさらに甘えられた。

手を握って、頬を撫でてもらって、本当にそのまま眠れそうに感じた。

テスト期間終わったら絶対に駿の膝枕で眠らせてもらうからな、覚悟しておけよ。


その日はグッスリ眠れた。ちょっと眠りすぎた。


◇◆◇


「睦巳、まだ寝てるの!早く起きなさい!」


お母さんに布団を剥がされて俺はやっと目が醒めた。


「おはようお母さん」

「おはようじゃないの!もう余り時間無いからね!」


えー?そんな時間なのー?

時計を見て、サーッと一気に血が引いていく音がした。


身体をガバっと起こし、時間の計算をした。

えーと身だしなみに20分掛けて、急いで着替えて、うん、ご飯は食べられないし走って行かないと電車はギリギリだ。

部屋を飛び出し、顔を洗って身だしなみを整えて、歯磨きして、着替えて、いってきまーす!


◇◆◇


電車にはギリギリ間に合った、これにさえ乗っちゃえば後は大丈夫。

でも久しぶりに全力疾走したので息を切らしている、なんで起きれなかったんだろう、全く……あ。

しまった!スマホを忘れたし髪留めも忘れた!

やらかした~、俺の安心グッズが~。

今日は髪留めを留める余裕も無かったのでそもそも着けてない。


あ~、どっかで駿成分、いやシュンニウムを補給したい。

こういう時にクラスが違うと厳しいな~、休憩時間に様子を見にいくのもな、中々厳しいかな。


◇◆◇


教室に入ると向こうから挨拶をされた、男友達の一人だ。


「よ、おはようさん、今日は遅いんじゃないか」

「うん、ちょっと寝坊しちゃってね、ギリギリだった」

「そりゃ大変だったな、なんだ、昨日は遅くまで起きてたのかあ?」

「いやあ、そんな事は無いんだけどなあ、なぜかグッスリ眠れちゃって……」

「眠れたんならそりゃ良かったじゃん、……ところでさ」


う、相手から話しかけてくるし、昨日と違ってやけにフレンドリーだしで何かあるんだろうなーと思ってたけど、やっぱ何かあるのか。

ちょっと身構える俺。


「うん、何?」

「前見たいにさ、一緒にお昼食べないか、よく一緒に食べてたじゃん」


確かに男の時はそうだったけどさ、やばいな、断りにくい所から攻めてきたか、いや、本心で前みたいに食べたいだけかもしれないじゃないか、しかし、うーん。

なんて断ろうか。


「ダメだよー、お昼は私達と一緒に食べる約束だったじゃん」


ん?隣の席の昨日一緒にお昼食べた女子だ、もしかして助けてくれるのか。助かる。


「あー、ごめんね、そういうわけだからさ、またその内にね」

「そっかー、じゃあしょうがないな、またその内な」


引き下がってくれた、良かった。


「困ってそうだから声掛けたんだけど、迷惑じゃなかった?」

「ううん、ありがとう、少し困ってたんだ」

「良かった、あっと授業始まるや、席戻るね」

「うん、ありがとう」


でもちょっと心も痛む、彼も先週まではちゃんと男友達だったんだ、今は立ち位置が違うだけで、もしかしたら先週までと同様に話をしたかっただけかも知れない、本当に、どう接したらいいんだろうか。


◇◆◇


休憩時間になり駿のクラスを覗いてみたけど、どうやら居ないみたいだ、クラスの人に声を掛けるのもなーと思ったので直ぐに戻った。

そしてお昼ご飯の時間、予定通り昨日の女子達と一緒のご飯。


あ、そうだ、ちょっと駿がどう思われてるか聞いてみるとしよう。

でも直接は避けて和香お姉さんのネタで切り出してみる。


「そういえば、A組の宗清くんって知ってる?」

「知ってる知ってる、結構女子の間で人気あるよね、カッコいいし優しいし、あれ?矢内さんって仲良かったんじゃ無かったっけ、なんか一緒にいるイメージあるけど」

「うん、小学校からの幼馴染なんだよね、そこのお姉さんと仲良くなってね、おしゃれとか身だしなみとか色々教えてもらったんだ」

「あ、もしかしてそれで最近急に綺麗になりだしたとか?いいな~私も教えてもらいたいな」

「でも良いよね宗清くん、矢内さん付き合ってるんじゃないの?」

「あー、うん、凄く仲いいけどまだ付き合うってほどじゃないかなあ、あはは」


流石に付き合ってるなんて嘘はつけないけど、仲が良い事は嘘じゃないし言ってもいいだろう、牽制にもなるだろうし。

ってなんで牽制する必要があるんだ?俺は駿の好きな人を祝福するつもりなんだぞ。


──でもまだ、俺の心が安定するまでは、そうだ、落ち着くまではこのままで居たい。

だから駿には悪いけどまだ恋人を作って欲しくない、だから牽制する、そういう理由だ。


「あーあ、今の矢内さんじゃ勝てる気しないなあ、私も宗清くんのお姉さんにおしゃれとか教えてもらったらワンチャンあるかな?ないかー」

「でも駿って人気あるんだ、なんだか意外だな」

「あ、駿だって、親密さアピールかよー」


あ、しまった思わずいつもの調子で名前を出してしまった、まあいいか。


「だって宗清くんって多分学年でTOP5に入るくらいカッコよくて人気あるからね、矢内さんもうかうかしてると盗られるかもよー」


まじかー、そんなに人気あるなんてな、マジでちょっとアッピールしないと危険かも知れないな、俺が落ち着くまでは恋人を作られたら困るし、さっきそういう理由に決めたからな。


「幼馴染が負けヒロインじゃない所見せてよねー、頑張って」

「あー、うん、頑張るよー」


なんだ負けヒロインって、幼馴染は強い立場だと思うけどなあ。

そんな感じで今日のお昼ご飯は駿をネタにまあまあ盛り上がった。


その後の休憩時間は朝の男友達が心に引っかかっていたので少し話をした。

話をした感じだと男友達の時と同じように話をしたいだけに感じたけど、悪い事しちゃったかなあ。


◇◆◇


さて放課後、駿を迎えに行くか。シュンニウムも補給しないといけないしな。

荷物を纏めてA組に向かう、席にいるだろうから堂々と教室の扉を開けた。そう、これも牽制!アッピールだ。ガラッ!

注目を浴びる、あれ、駿が居ない。


「あのー、宗清くんは?」

「あー、なんかどっかいったよ」


うん、なんの参考にもならない答えだ、答えてくれただけありがたいけど。


「君さ、昨日駿太朗と一緒に帰った娘だよね、駿太朗ね、なんか女の子に呼び出されたみたいだよ」

「え、それってもしかして」

「うーん、多分そうじゃないかな、結構良い雰囲気だったけど、帰ってくるかなあ?」


どうやら他の女の子に告白かなんかで呼び出されたっぽい、1年の時ならともかく2年になってからの女の子との交友関係なんか分からない。

実は仲が良い女の子とか居たらどうしよう、彼女は居ないはずだ、はず、多分。

もし付き合い始めたなら決めておいた通り祝福して身を引こう、いや身を引くってなんだ。そういうのじゃない。

だけど彼女が出来たのに俺みたいな見た目女が近くをウロチョロしていたら彼女は絶対嫌だと思うから駿から離れるしかない、本当にそれはいやだ。俺の居場所が、存在が。


「駿の席って何処?」

「ああ、そこだね」

「うん、ありがとう」


駿の席には鞄が無く、そのまま帰る可能性があった。


駿の席に座って、突っ伏した。

今は悪い考えしか浮かばない、スマホは忘れるし髪留めもしてないし、駿は居ないし、本当に最悪だ。

しかも場合によってはもっと最悪な事が起きるかも知れないんだ。

ああ、嫌だ、嫌だ。


駿、早く帰ってきてくれ。

ここで待ち合わせしてたはずだろう?



暫くして、20分ほどだろうか、長い長すぎる、もしかして彼女を作ってもう帰ったとか?

誰かが教室に入ってきた音が聞こえた。


「なんだ、此処にいたのか、探したぞ、てかなんで俺の席に」

「おい、睦、お前もしかしてスマホ忘れてないだろうな」


駿の声だ、あれなんで此処に?

顔を上げる、そうしたら目の前に駿が居た。


思わず駿に抱き着いた。

ちょっと汗の匂いがして、でもそれは全然嫌じゃなくて、その後に駿の匂いが頭一杯に広がって、俺はくらくらして、駿の匂いにとても安心出来た。

ああ、駿だ、俺はここが良い


「なんだよう、遅いぞ、何処行ってたんだよう、心配したんだぞ」

「は!?いや何度もメッセージは送っただろ、まさかマジでスマホ持ってないんじゃないだろうな」


僅かに教室に残っていた人達が囃し立てる音が聞こえる。

スマホ……?うん、忘れた。


「スマホは家に忘れた、貰った髪留めも家に忘れた、でも駿は俺の事忘れないでくれよ、置いてくなよお」


もう俺は泣いていた。

そして他人がいるのに"俺"と言っていた、"私"の事など考える余裕が無かった。

寂しさと悲しさの反動でこの時の言葉はいつもより理性が働いていなかったと思う。


「彼女なんか作るなよなあ、俺がいるのに、駿が彼女作ったら俺はどうなるんだよ、まだ駿と離れたくないんだよ、俺が落ち着くまでは彼女作るなよなあ、我慢していてくれよお」


「おいおい、随分一方的で勝手だなあ。我慢してくれって、本当にわがままだな睦は」


その言葉の後、駿は俺を強く抱き締めて言ってくれた。


「まあでも暫くはそのつもりはないから、ちゃんとお前の側にいるから、だから安心しろ」

「本当だな、絶対だぞ、約束だからな」

「ああ、本当だ、約束だ、俺が信じられないか?」

「──お前それは卑怯だろう、俺は信じるしかないんだぞ」

「はは、じゃあ俺を信じるしかないな」


「ちょっと座ろうか」


駿はそう言って自分の席に座り、俺をお姫様だっこのように膝の上に横向きに乗せて駿の首元に俺の顔を寄せた。俺はその体勢で駿の首に抱き着いた。

そして駿は背中を優しくポンポンと叩いて落ち着かせてくれた。まるで子供をあやすように。


そうやって暫くあやされて。


「どうだ、少しは落ち着いたか?」

「──うん、少し落ち着いた。ゴメン、取り乱して」

「まあ気にするな、と言いたい所だけどな、もうちょっと俺を信用してくれよな、睦巳が居るのに彼女を作るわけがないだろう」

「うん、ごめん」

「今の俺が彼女を作ったら睦がどうなるかくらい、分かってるからさ、まあ睦巳の事がどうでも良くなるくらいイイ女が現れたら分かんないけどな」

「うん、分かってる、ちゃんと女を磨く、誰にも負けないくらい、だから……」

「安心しろ、今はダントツで睦巳がイイ女で最高の親友だ」

「うん、ありがとう」


「それにしてもあれだな」

「ん?なに」

「睦巳は本当におっぱい大きいな、どれくらいあるんだ」

「バカお前、……Gカップだ……」

「G!?そりゃデカいな、俺も気持ち良いはずだ」

「ほんとエッチだな駿は」

「男なんだからそれくらい当たり前だろ、今は俺がGカップを独占してるってのも優越感があるな」

「──そうだな、今はお前が独占してるな」


照れていたけど何故か嬉しくもあった。


「そろそろ帰るか?それともまだこのままが良いか?」


気付いたら駿が戻って来てから30分近く経っていた。いつの間にそんなに……。

そして教室内にはもう俺達しか居なかった。


「誰も居ないんならもう少しこのままが良いな」

「分かった、もう少しこのままな」


そして今、俺の目の前には駿の首筋がある、凄く美味しそうで舐めたい欲求が出ていて、俺はゴクリと喉を鳴らし、舌を出してそーっと、しっかりとペロリと舐めた。


「うわっ、なんだいきなり!?舐めたのか?」

「うん、美味しそうだったから、つい。」


駿の首は少しのしょっぱさと、何だか甘く、実際には甘く無いんだけど、そう感じる何かがあって、とても美味だった。


「いや美味しそうって、……そんなわけないだろ」

「でも美味しかったよ」

「睦、お前な、せいぜい汗の味くらいのもんだろ、もう止めろよ」

「えー、もっと舐めたい、良いだろ?」

「んー、ダメだ、また今度な」

「美味しかったのにな、残念。でも本当に今度だからな」

「またな、また」


段々と冷静になって落ち着いてきて、周りが見えてきた。


あれ、そろそろ6時になりそうだ。


「駿、もう大丈夫、そろそろ帰ろうか」

「そうだな、帰るか、でもその前に顔は洗おうな」

「あ、そっか、そうだね」


涙が乾いた顔を洗って、帰り道は駿の腕に絡んで帰った。


改めて理解した、駿は俺の事をちゃんと考えてくれていて、俺が困るから彼女を作れないという事。

駿はモテるから彼女だって作ろうと思えば出来る、今日だってそうだっただろう。

いつまでも駿に迷惑を掛けたくない、だから早く俺が落ち着かないといけないんだけど。


俺との関係は親友で良いと思ってるし親友が良いんだけど、駿に彼女、それは何だか嫌だなあ。

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