第4話 セーニョ島

大隊長だいたいちょう、賊を全員、牢に入れました!」

「ああ。船の準備が出来次第、本土に戻る」

「はっ!」




 ここは、ガイヤ東部に位置するイストゥル王国。温暖な気候で、冬は一定の寒さはあれど、気温が氷点下になる事はない。海にも近いので湿気があり、雨期もある。気温や降水量が農業に適しているので、作物も豊富に取れる土地だ。人々も活気があり、明るく豊かな国である。

 その管轄内にある近海の島、セーニョとう。小さい島だが、美しいサンゴに囲まれており、サンゴは特産物としても価値がある。そして小さい村が一つあるだけのいたって平和な島だった。しかし、サンゴや海産物を狙い、そして本土への略奪りゃくだつ目的もね、最近、賊が根城をこの島に作ってしまった。

 村は一瞬で乗っ取られたが、村長達は、隙を見て村の若者を一人逃がした。彼は必死に小舟をこぎ、本土の港町リオマスを守る国王軍へ助けを求め、駆け込んだのだ。

 軍はすぐに賊の討伐とうばつと島の奪還だっかんへ向かい、あっという間に捕縛した。




「賊の人数は、まぁ多い方だったが、小物だったな。ジェイド大隊長殿、お前さんも戦い足りなかったんじゃないか?」

 大隊長と言われたジェイドは眉を寄せた。


 ジェイドは、イストゥル王国直属の国王軍に所属する軍人。第五団・特別警護隊、大隊長。緑の瞳、薄緑の短髪を無造作にかき上げている。普段、悪党を相手にしているので、するどく厳しい目つき。体も大きく、引き締まった筋肉。腰には両刃の剣をたずさえていた。


「別に。俺は、そんなに血の気は多くねぇよ。部下がしっかり賊を捕まえてくれりゃあ、それで十分だ。日頃の鍛錬たんれんの成果が出てるわけだからな」

「そうだね」


 ジェイドの隣に立つ男がふっと笑った。彼はルクス副大隊長。ジェイドが信頼している相棒だ。頭が良く、参謀さんぼうとしての能力も高い。茶色の短髪。背が高く、イケメン。人当たりも良く、物腰柔らか。目つきの悪い大隊長の横でニコニコ笑っている。同じ年で、軍の同期でもある彼らは、気の合う者同士だった。


「グレイスに早く会いたいんじゃないか?」

「あったり前だろ! 二日も会ってないんだぞ!? 二日もっっ」

「はいはい」

 グレイスとは、ルクスの奥さんだ。美男美女の二人は軍の中でもベストカップルと有名で、彼女は現在妊娠中。安定期に入る頃だ。そんなグレイスを、ルクスはとても大切にしている。

「お前も早くカミさんもらえ。俺の気持ちが分かるから」

「今は考えてねぇよ。仕事の事で手ぇ一杯だ」

 興味ないと言わんばかり。そんなジェイドを見て、ルクスは肩をすくめ、ぽつりとつぶやいた。

「お前の隣を歩いてくれる子なんて、いるのかねぇ……」

「何か言ったか?」

「いんや、独り言」



「出港準備、出来ました!」

 部下がジェイド達へ報告に来た。

「よし。帰るか」

 ジェイドがポケットに手を突っ込み、歩き出そうとした時――。




 どくんっ!




「!?」

 突然地面が揺れる。ただの地震ではない。空気が波打ったのだ。それが地面にも伝わり振動となった。周りの者達も、互いの顔を見て驚いている。

「なんだ……? 今の……」

 ルクスも眉を寄せ、辺りを見回し、耳をすませた。異様な揺れに、鳥達が木々から飛び立ちギャアギャアと騒いでいる。島に住む動物達も、森から出てきてウロウロしていた。


 そして、次の瞬間――。



 カッ!

 ドゴオォンッ!!



 強烈な光が上空から落ちてきて、ジェイド達がいる島に墜落したのだ。その物凄い轟音は、港から少し離れた場所からだった。地面が大きく揺れ、立っていられないほど。

「何だっ、攻撃された!?」

 ジェイドは部下達が無事かどうかを確認する。幸い、皆船の所にいたので、墜落に巻き込まれた者はいないようだ。

「あの土煙……、村の方だな」

 ルクスの言葉に、ジェイドは顔を上げる。落ちて来たモノが爆弾だったら、あの小さい村は一瞬で消し飛んでしまう。ただ、炎上している様子はない。それでも、村人の無事と現状を把握しなければ。ジェイドが指示を出した。

「救護班と小隊一班、村へ向かうぞ! 他の者はここで戦闘準備をして待機。用心しろ!」

「了解!」




 ジェイドとルクス、そして選ばれた部下達は、港を離れ森を抜け、島唯一の村へと急いだ。

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