女子寮

１

　今日は13日の金曜日だ。

　13日の金曜日には『人をいくら怖がらせてもいい』のよね。今日は、同じ女子寮に住む綾乃（あやの）を怖がらせてやろう。私は作戦を練った・・

　私の名前は七海（ななみ）。東京のＳ女子大の学生だ。Ｓ女子大の学生寮に住んでいる。Ｓ女子大の学生寮はね、東京郊外にある白亜の２階建てで、小さくて、かわいらしくて、とっても女の子好みのする瀟洒で素敵な建物なのよ。

　女子大の学生寮なので、もちろん女子寮だ。昔は寮生で一杯だったらしいが、今は、私と、私と同学年の綾乃の二人だけが住んでいる。あっ、実はもう一人、私たちと同学年の遥香（はるか）が女子寮にいたんだけど、何故か遥香は去年から学校に来なくなって・・女子寮からもいなくなって・・いまでは音信不通になってしまった。

　前回の『13日の金曜日』は数カ月前だった。そのとき、私は女子寮の中で、綾乃にとっても怖い思いをさせられたのよ。

　私たちの女子寮はトイレとお風呂が共同になっている。トイレはもちろん女子トイレで、１階と２階に一つずつあるのよ。トイレの中にはきれいな個室が３つ並んでいる。トイレの中はモスグリーンで統一されていて、備え付けられている最新式の洋式便器もモスグリーンなの。

　私と綾乃と遥香の部屋はすべて寮の２階にある。トイレが廊下の一番端の階段の真ん前にあって、トイレから順に遥香、私、綾乃の部屋だ。だから、私たちはいつも同じ２階のトイレを使っていた。

　でも、そのうち、２階のトイレの中の、私たちがいつも使う個室が決まってきたの。いつの間にか、私は３つの個室のうち真ん中を使って、綾乃は一番入り口に近い個室を使って、遥香が一番奥の個室を使うようになったのよ。でも、遥香が急にいなくなって、トイレを使うのは私と綾乃だけになってしまったの。

　さて、前回の『13日の金曜日』のことだ。

　学校から女子寮に帰って、夜中に私はトイレに行ったの。いつものように、３つの個室の真ん中に入って、用を足していると、誰かがトイレに入ってきた。誰かと言っても、この寮には綾乃と私しかいないので、綾乃に決まっている。

　「あっ、綾乃もトイレに来たのね」って思っていると、私の個室のドアの外で、ガチャガチャって音がしたの。あれって思って、ドアの鍵を外して、中から揺すってみたんだけど、ドアが開かない。これって・・私は綾乃によって、トイレの個室の中に閉じ込められてしまったのよ。

　トイレの個室のドアや壁って、よく天井部分や床の部分が開いているでしょう。でも、私たちの女子寮のトイレの個室のドアや壁は、そうではないのよ。つまり、ドアと壁は天井までつながっていて、天井部分には隙間がない。また、床にもつながっていて、床にも隙間がないのよ。いわゆる、トイレの個室のドアと壁の隙間から痴漢や盗撮をされないように、上下の隙間を無くした『痴漢と盗撮防止用のドアと壁』なのね。

　女子寮といっても、消火設備の点検とか、ガス漏れのチェックなんかで、外部の男の人が結構中に入ってくるのよ。だから、トイレの個室が、こういった上下の隙間を無くした『痴漢と盗撮防止用のドアと壁』だと、私たち女子寮生は本当に安心できるのよね。

　だけど、このときは違ったわ。ドアと壁がこういった隙間のない構造だから、個室の中に閉じ込められると、もう中から絶対に外に出られないのよ。

　綾乃のヤツめ、なんだか閂（かんぬき）みたいなものを準備していて、私がトイレに入るのを待って、個室のドアの外からその閂（かんぬき）を掛けたってわけ。おまけに、綾乃は閂（かんぬき）を掛けた後、トイレの照明を全て消したのよ。そうして、私を真っ暗な個室に閉じ込めておいて、自分はさっさとトイレを出て行ったのよ。

　こうして、私は真っ暗な中でトイレの個室に閉じ込められてしまったというわけなの。私と綾乃の二人だけしか女子寮の中にはいないじゃない。綾乃がトイレから出て行くと、急に寂しさが私の胸を締め付けたのよ。寂しくなって・・私は思わず叫んでしまった。

　「綾乃、お願いだから・・ドアを開けて・・お願い・・ここから出して・・」

　そう言って、私はドンドンと個室のドアを内側から何度も何度も叩いたのよ。だけど、綾乃からは、なんにも返事はなかった。途端に、私の心を恐怖が締め付けたわ。

　怖くて・・心細くなって・・私は真っ暗なトイレの個室の中で、大泣きに泣いたの。もちろん、泣きながら、綾乃に聞こえるように大声を出したわ。

　「綾乃、お願いだから、ここから出して・・お願い、綾乃。もう許して・・ここから出して・・お願い・・綾乃、許して・・」

　だけど、綾乃はなかなか私を許してくれなかった。

　怖くて・・寂しくて・・そんな真っ暗なトイレの個室の中で、私は泣きながら一夜を過ごしたの。

　綾乃がやってきて、私を個室から出してくれたのは翌朝になってからだった。綾乃がトイレにやってきて、灯りをつけて、個室のドアを開けてくれたときには・・・私の胸に万感の思いが溢（あふ）れてきて・・私は思わず綾乃の胸にとびこんで、思い切り泣いたのよ。

　綾乃はそんな私を自分の部屋に連れて行ってくれたの。綾乃の部屋はピンクで統一されている。ピンクのカーペットにピンクの壁紙。それにベッドにはピンクの布団。かわいい部屋だ。綾乃は私をピンクの布団に横たえてくれた。そして、私をやさしく、そして強く抱きしめてくれたの。。。

　私は綾乃に抱かれながら、トイレの中の恐怖を思い出して、また泣いたの。でも、『13日の金曜日』だから仕方がないのよね。この日はどんなに怖い思いをさせられても怒らないのがルールだから・・。

　それに、なんだか、綾乃に強く抱きしめられて・・うれしかった・・

　だから、今日は私が綾乃をトイレの個室に閉じ込めてやる番なのよ。これは綾乃へのお仕置きだからね。私がされたように、綾乃がいくら泣き叫んで、許してって言っても、絶対に許してあげないわよ。そして、今度は、そんな泣き叫んだ後の綾乃をやさしく、そして、思い切り強く、私が抱きしめてあげる番なのよ・・

　私は学校の帰りにホームセンターでドアの閂（かんぬき）を買って、夜になるのを待ったの。