長屋-17

 一週間後

 事件関係者が、警視庁の会議室へと集められた。

「どうして、俺も?」

 戸惑いを隠せない重則に「確かにな」と相槌を打つ一太郎とは別に、二太郎は不機嫌そうな顔で参考書に目を落としていた。

「お待たせしました」

 長四郎の後に燐、一川警部、絢巡査長が会議室へと入ってくる。

「なんで、俺が呼ばれたんですか?」真っ先に口を開いたのは、二太郎であった。

「その答えは簡単だ。君が有原幸信を殺害した犯人だから」

「何の証拠があって。名誉毀損で訴えますよ」長四郎を睨み付けて、無実を証明する二太郎に長四郎は「忘れ物」と言って学生証を投げ渡す。

 それを受け取った二太郎の目が開き、右往左往させる。

「これは、第一弾」

「第一弾? 探偵さん、どういう事ですか?」説明を求める一太郎。

「一太郎君にはこれから辛い話になるかもだけど耐えれるか?」

「はい」そう答える一太郎の目は覚悟をもった目をしていた。

「よし。では、お話しよう。今、有原幸信殺害容疑で捕まっている彼の母親は、二太郎君にそそのかされて敢えて逮捕された。そうだろ?」

「な、何を根拠に」

「根拠の一つは、その学生証ね。それを拾ったのは幸信君のお母さんが働く歌舞伎町のスナックで見つけた。勿論、君が店を訪れたという証言も取れてる」

「そうですか。で、僕がどうしてその店を訪れたから犯人になるんですか?」

「それはね、これが発見できたからったい」

 一川警部がパンパンっと手を叩くと、ゴミ袋を持って来た鑑識捜査員が会議室へと入ってきた。

「このゴミ袋に見覚えない?」

 二太郎は土汚れのついたゴミ袋を見て、ギョッとした顔をする。

「フフッ」二太郎のその様子を見て、嬉しそうに微笑む長四郎。

「次に見せるのが、幸信君のお母さんが捨てようとしていたゴミ袋です。そして、その中身は」

 絢巡査長はそう言いながら、ゴミ袋に入っていた物を取り出していく。

「同じヘアカラースプレー缶ですね。これが決め手で彼の母親は重要参考人として連行された原因です」

「じゃあ、もう一つのスプレー缶の意味って?」ここで何かに気づいた一太郎が質問する。

「良い所に気が付いたな。そう、この母親が捨てたスプレー缶はダミー。こっちの汚れたゴミ袋に入っているのが実際に使用されたスプレー」

「何で、そんなこと分かるんだよ」

「君、自分は賢いアピールする癖に、何も分かっていないんだね」

 燐が皮肉言うと、眉をピクピクさせる二太郎。

「内容量だよ」

「内容量?」首を傾げる重則に長四郎は説明し始める。

「ほら、使い始めたら内容量は減る訳じゃん。それってさ、個々千差万別あれど、使う量ってあまり変わらないでしょ」

「まぁ、そうですね」

「で、調べてもらったのよ。幸信君の頭のサイズから推定される使用量を調べてもらったんだよ」

「それで?」二太郎は何故か勝ち誇ったような顔でその結果を尋ねる。

「その結果、お母さんが捨てようしていたスプレー缶の量が多く減っていたことが分かったんですよね?」一川警部にそう確認すると、一川警部は黙って頷く。

「じゃあ、彼の母親が大量にかけただけの事でしょう」

「そうとも取れるよね。でも、被害者の頭に拭きかけられたであろうスプレーの量を推定するとつじつまが合わないし、いっぱいに振りかけたらこんな感じになるらしい」

 長四郎が指パッチンすると、会議室のモニターにマネキンの映像が映し出される。

「この映像は、被害者の頭に塗られたと量と同じ量を振りかけたマネキンと、全振りしたマネキンの比較映像」

 その映像が終わると「これで、何が分かるんだよ!」二太郎がバンッと参考書を机に叩きつける。

「そうカッカしなさんな。これ、現場の写真ね。見て、スプレーの飛び跳ねの量が全振りの状態とは違うでしょ」

 長四郎は被害者の遺体が発見された現場写真と比較しながら、説明する。

「確かに、全振りしている時の方が汚れてる」重則はうんうんと頷きながら、納得する様子を見せる。

「そんな事で、俺が犯人されるのか。たまったもんじゃない!」

 部屋を出て行こうとする二太郎の前に立ち塞がる燐。

「邪魔だ。どけ」

「最後まで聞いた方が良いじゃない?」

「くッ!」

 踵を返して二太郎は自席に座ると長四郎の話に耳を傾け始める。

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