始動-2

 長四郎は女性から依頼を受け、華金の夕方に対象の追跡を開始した。

 対象の男は、遠山とおやま 彪雅ひゅうが。21歳。都内の某有名大学に通う大学三年生。

 その日に登校するとの情報を依頼人から受け、長四郎は大学生のふりをして大学構内に紛れて遠山の行動を追っていた。

 遠山はセンターパートの髪型にシャツをズボンにインした服装をして、今時という言葉が似合う男子大学生であった。

「あ~涼しい」

 長四郎は学食のエアコンの下で、涼んでいた。

 対象は学食で学友とワイワイとしながら、レポートを書いていた。

 勿論、その場に女の子の姿はない。

 長四郎はその光景を見ながら、本当に浮気調査で良いのかと自問自答していた。

 依頼人は、どう見てもDVを受けているようであった。

 長袖Tシャツの袖から痣が見えたり、顔も髪で隠してはいたが額に絆創膏をしていたからだ。

 長四郎は眉間に皺寄せながら、アイスコーヒーを飲む。

「う~ん」

 そんな時、制服姿の女子高生が、遠山が座る真後ろの席に座ったのが見えた。

 オープンキャンパスなのかと思い、辺りを見回すが似たような高校生の姿はなかった。

 長四郎は特に気にせず調査を続行していたのだが、あることに気づいた。

 女子高生もまた、遠山の事を調査している事に。

 どうやら遠山達の会話に聞き耳を立てているらしく、遠山が発言をするたびに身体をわなわなと振るわせるのだ。

「ストーカーか?」

 長四郎は一応、その女子高生の姿を写真に収めた。

 そして、撮った写真を確認すると女子高生の視線がこちらを向いていた。

「怖っ!!」

 長四郎は、すかさず撮影した写真データを消す。

「あの」

 その一言受け、顔を上げると目の前に例の女子高生が立っていた。

「はい。何でしょうか?」

「私の事、撮ってましたよね?」

「滅相もない」

「ウソ。スマホ見せてください」

「え~」

 面倒くさい事になった。長四郎がそう思っていると、遠山が動き出した。

「あ」

 長四郎が遠山を目で追っていくと、女子高生もまたそれに気づいたのか。

「また、今度!!!」

 長四郎にそう言い残して、去っていた。

「忙しいJKだなぁ~」

 長四郎もまた遠山の調査を再開するのだった。

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