魔導兇犬録:Streets of Fire

@HasumiChouji

プロローグ

Nowhere Fast

「被害者の胸から腹に彫られてる文字は、諜報部門で使ってる簡易暗号だ。ただし、暗号強度はクソ低いんで、緊急時以外の使用はNGになってる」

 中隊付きの参謀少尉は、そう説明した。

「解読出来たんですか?」

 スクリーンに解読後の文字列が表示される。

 ああ、たしかに、俺が気付いた事が偶然じゃなけりゃ、暗号強度はクソ低い。

 

 表示された解読後の文字列は……。

『これからにほんのだざいふにむかう』

『せいぜいおまえらのふろんとをまもってみろ』

「あの……これ、どう見ても罠でしょ……」

 俺は、中隊付きの参謀少尉と上司である「第9駄犬小隊」の小隊長である海森龍雄に、そう言った。

 会議室のスクリーンに映し出されてるのは、韓国の釜山プサンで何者かに殺された「シン日本首都」の諜報員だ。

 死体が発見されたのは、「シン日本首都」のフロント企業が入っていた雑居ビルの屋上。

 両手両足は無理矢理引き千切られた挙句に、近くに置いてあった大型のバーベキューコンロで、こんがり炭火焼きにされていた。

 死体のそばには、北海道土産の鮭をくわえた熊の木彫り。

 頭にはバカデカくてブ厚い刃物を叩き込まれたらしい傷。

 表示されている画像では死角になってるが、背後の首筋にも同じ刃物によるモノと思われる傷が有り、それが致命傷になったようだ。

 口には……正体不明の器具で切り落された自分のチ○コを咥えさせられている。なお、局部の傷は、肉食動物の牙か爪によるモノとしか思えず……とりあえず、現地の警察の発表では「正体不明の器具で切り落された」となっている。関係ないが、あと数ヶ月はフェ○○オのシーンが有るポルノを観たら、俺のチ○コは、次の瞬間、縮み上がるだろう。

 そして……胸から腹にかけて……彫りたてホヤホヤと見られる……平仮名の羅列のタトゥー。

 ただし、日本語だと意味が通らないモノ。

 それが……中隊付きの参謀少尉が言ってた「簡易暗号」だ。

「罠だろうと何だろうと、福岡の太宰府に行って、そこに有る我々のフロント企業の社員を守れ」

 中隊付きの参謀少尉からは冷たい返答。

「あの……向こうは博多に有るウチのフロントの倉庫にモノを送ってたんですよね? 何で、フロントのオフィスが有るのが太宰府だって知ってたんですか?」

「疑問が有れば、敵を捕えて吐かせろ。『准玉葉』を同行させる」

 玉葉とは、皇族の意味。

 約一〇年前に富士山で歴史的大噴火が起き、旧首都圏は壊滅した。

 その結果、3つの自称「日本政府」が生まれた。

 3つの内、外国からテロ組織扱いされてる2つが、大阪を支配する「シン日本首都」と「本当の関東」を拠点にしている「正統日本政府」だ。

 テロ組織扱いの理由は、この2つの「日本政府」が日本の秩序を回復する為に取ろうとした手段が、あまりにアレだったからだ。

 「シン日本首都」は、旧宮家の人間と先天的精神操作能力者のDNAを組合せて、最強の精神操作能力と行方不明になった皇族の「血統」を兼ね備えた「シン天皇」を生み出し、それを使ってを支配しようとした。

 その「シン天皇」を作成する為の研究にDNAを提供した先天的精神操作能力者どもの再就職先が、「シン日本首都」の警察組織・軍事組織に配属される政治将校「准玉葉」だ。

 一方、「正統日本政府」は、一部のエリートを除く、ほぼ全に脳改造を施して国に逆らわない堅実な人間を作ろうと計画した。もちろん、「正統日本政府」の支持者は、自分達だけは、その脳改造を免除されると思ってる大馬鹿か、脳改造されて元に戻れない奴隷人間と化すのも悪くないと思ってる、もっと酷い大馬鹿だけだ。

 そして、色々とマズい2つの自称「日本政府」が超管理社会の実現による日本の秩序回復を夢想してる間に、3つ目の自称「日本政府」である㈱日本再建機構は、別に「異能力者」がワラワラ居る事が明らかになる以前の特撮ヒーローものの悪の組織みたいな真似をせずに(多分だが)、あっさりと日本の大部分を一応はマトモにしてしまい、経済発展だけなら富士の噴火の前より遥かにマシな新しい日本社会を作り上げやがった。

 今や、「シン日本首都」こと旧・大阪府は……日本の残りの大部分から取り残された悪夢のディストピアだ……。

 そして……俺達「駄犬部隊」は「シン日本首都」が夢見る理想の日本にとっての異分子……ある者は精神操作能力が効きにくく、別の者は精神操作の実験の結果、脳味噌や人格がアレな事になった奴で……しかし、処分するには、チと惜しい戦闘能力を持った連中の掃き溜めだ。一応表向きは「異能力者を中心とした特殊部隊」だが。

 多分、「シン日本首都」が日本の他の大部分を支配したら、俺達は真っ先に殺されるだろうが、そんな事は、まず無いので、とりあえずは生かされてる。

 俺だって、男の子の成れの果てだ。中学生ぐらいの頃は「悪が滅びた時に社会の敵と見做されるのは、悪を葬った者達」みたいな話は大好物だった。

 だが……自分が、そんな事態に巻き込まれてみれば……何だ、この、みみっちくて、格好良さは無くて、ただただ陰惨だけど笑える……一九七〇年代に当時のヤクザ映画ファンの夢想を打ち砕いた「仁義なき戦い」を始めとする「実録系ヤクザ映画」みたいな事態は?

「あ〜そうだ……。あと……今回の任務では、銃弾が不足しとる。可能な限り銃器は使わんでくれ」

 どうせ、どんだけゴネても……行かされんだろうな〜……とか思ってると、小隊長の海森が、とんでもない事を言い出した。

「へっ?」

「あ……あの……何を言ってんですか?」

 会議室に居る隊員達から驚きを通り越して……困惑の声が次々とあがる。

「だから……今回の釜山の『熊おじさんホールディングス』とのトラブルの原因は……『熊おじさんホールディングス』から購入したコンテナ1つ分の銃弾を積んだトラックが行方不明になったせいなんじゃよ……」

「はあ?」

「そのせいで、今、『シン日本首都』内では、軍・警察用の銃弾が不足してるんだ……」

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