第11話 由里は、カルメラの死の真相を知る

卓也たくやは、由里ゆりと猫のキンジを怪訝そうに見ていた。

本当に会話しているのか?信じられないが、口を挟まず、様子を見る事にした。信雄のぶお文太ぶんたも、俺と同様に黙って見ている。


しばらく見守っていると、妻から声をかけられた。

卓也たくや!」

由里ゆり、どうした。」

「お願い!」

「なに?どうしたんだ。そんな焦った様な・・・」

「今から言う事を、中学校の用務員さんに確認して。」


信雄のぶおは、現在、中学校周辺を縄張りにしているボス猫で、今は、ヴィトーと名乗っているそうだ。ちなみに、その名前は、中学校の用務員さんがつけてくれたとの事だった。

ある日、中学校にメス猫が住みつき、信雄のぶおはそのメス猫が好きになった。そして、信雄のぶおの子を妊娠した。そのメス猫はカルメラと言い、用務員さんから名付けられたそうだ。


だが、雨が強く降ったあの日、住処で死んでいた。


キンジ達はカルメラの死の原因について、調べているらしい。なお、カルメラの遺体について、用務員さんが、埋葬したとの事だった。


信じられない。だが、今言った話しを、中学校の用務員さんに確認すれば、真実かどうか、確認できる。


由里ゆり、今から確認してくる。ちょっと待ってて。」


俺は、急いで中学校に向かった。


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ヴィトーは、由里ゆり卓也たくやが話しているのを見ていた。

由里ゆりがキンジと話しをしたらしいが・・・。普通、猫と人間が話す等、有り得ない。だが、キンジは普通じゃない。そして、キンジは嘘を言う奴ではなかった。

文太ぶんたを見たが、理解できず、固まっていた。

二人の会話が終わると、卓也たくやが走って何処かに行った。あんなに急いで、どうしたんだ?と思っていたら、由里から声をかけられた。


「ヴィトー」


俺は由里ゆりを見た。文太ぶんたも信じられないと言った顔で由里ゆりを見ていた。


この一言だけで、由里ゆりとキンジが会話出来ている事を悟った。文太ぶんたもそうなんだろう。俺は、由里ゆりとその家族には、信雄のぶおと呼んで欲しかった。キンジにその旨を伝えてもらうと、由里ゆりは笑顔になり、改めて「信雄のぶお」と呼んでくれた。


由里ゆりが何か、俺に言っているので、キンジに通訳してもらう。カルメラが死んだ事への慰めの言葉だった。


由里ゆりが涙を流してくれたのが、余計つらかった。「近くに来て欲しい」と言われたので、由里ゆりに寄って行くと、手が、自分を探る様に近づいてきた。由里ゆりは目が見えないので、自分の方から、その手に顔を擦り付けると、優しく顔や背中を撫でてくれた。


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由里ゆりは、信雄のぶおの背中を撫でていた。

この子は、何て辛い目にあったんだろう。そう思うと切なくなった。


背中を撫でながら、キンジの言葉を思い出す。

「首を絞められたと思われる索条痕さくじょうこん」「腹が裂かれた傷跡」「用務員さんとは違う足跡」「殺害された場所が違う」そして、おぞましい話しだが「腹に居た胎児が攫われている事」、キンジの考えている通り、人間による犯行だと思われる。


警察に通報しようと思ったが、キンジからは、自分達でケリをつけたいと言われた。


どうする?このままで良いのか?


そんな事を考えていると、信雄のぶおが鳴いた。


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ヴィトーを撫でていた由里ゆりの手が微かに震えていた。

俺は、由里ゆりの顔を見た。


なんて、思い悩んだ顔をしているんだ。


由里ゆり、お前は思い悩むな。俺がカルメラの仇をとる。」

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