銀のナイフは錆びつかない

鮎河蛍石

銀の花

 あんたァ作家を目指してるんだってな。


 都から取材旅行でこんな片田舎にわざわざ来たって、さっき大将に聞いたぜ。

 あんたァ相当なモノ好きと見込んで、俺のとっておきの話を聞かせてやんよ。


 俺はこの街でしがない金物屋をやってんだ。扱ってるのは只の金物じゃあねぇ。

 化物狩人ハンターの得物さ。


 物書き見習いってんなら化物狩人ハンターくらい知ってんよな。

 そういう血生臭ぇ荒事を生業にする、曲者相手ばかたれどもに商売してんだよ俺は。


 おっ一杯奢ってくれるってか、若ぇのに関心なこった。

 礼儀知らずの荒くれ者ばっかり相手にしてっからよ。

 目頭にじんと来らぁな。

 それは俺が歳だからって?

 あんたァなかなか言うじゃあねぇか。


 それでだ俺のとっておきってぇのは、珍しく礼儀をわきまえた上得意のことだ。

 上得意てのもそいつァ俺の爺さんの代からウチの道具を使ってやがったなんだが…………。

 良い貌するなあんたァ。


 驚くだろ?

 婆さんが足しげく得物を買いにやって来るんだからよ。

 そうさ化物狩人はヤクザな男の汚れ仕事だと相場が決まってる。


 それにあぶねぇ仕事だ。

 化物狩人ハンターは短命さ。

 どいつもこいつもケツ追っかけてた化物えものにてめえのケツを齧られてパッと引退しやがる。


 だから俺の店ではツケが効かねぇ。

 ロクでもねぇ仕事に就いてる手合いなんざおっんだらそれきりよ。

 天涯孤独ひとりみばかりの手合いが死んだら、次は誰にお銭々ぜぜをもらおうもんかって頭抱えることになる。

 

 話がそれちまったいけねぇいけねぇ。

 その婆さんてのは強者バケモンでな。

 あるとき聞いたんだ。

「あんたなんで吸血鬼しか殺らねぇんだ」てな。

 すると「恋人の仇を探しているのよ」ときた。

 あの時の目つきなんてギッて感じで鋭くてよ、俺が鍛えたナイフの肌よりも冷たくかった。


 口調は柔らかくって穏やかなんだが、言葉の端々に的への憎悪だの憤怒だのを滲ませて。

 そのチグハグな様子とくりゃまぁおっかねえたらなかった。


 おっかねえといったらその姿もだ。

 俺より背が高いその婆さんは、黒い毛皮の外套をいっつも着込んでやがるんだが。

 まるで枯れた柳にボロが絡みついてるみたいで、化物じみてやがる。


 なにより目を引いたのは婆さんの白髪を結い上げてる髪飾コームよ。

 銀の土台に血みてぇに真っ赤なルビーを嵌てやがる代物で。

 ありゃかなりの値打ちもんよ。

 アレ一つでちょっとした屋敷が建つにちげぇねぇ。


 それがこの髪飾コームなんだが…………。

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