心理レスキュー!

桜田実里

希望の朝

玄関にある姿見で、恰好を一通りチェックする。

最後に、上の方で結んだツインテールに白いファーのついた髪飾りをつけて……と。


「おい千海ちうみ早く!遅刻するぞ!」

「あーはいはい、待ってってばーっ」


履きなれない茶色のローファーに足を滑らせ、立ち上がる。

私を急かす弟が、鍵を開けて玄関の扉を開けた。



この扉を開ける瞬間、人は何を思うだろう。

感じることはそれぞれ違くて、たとえそれがどんなものでもきっと素晴らしい。

何かを見たり、聞いたり、触れたり、感じたり。

その答えはきっと、百人に聞いたら百通りの答えがあって、一億人に聞けば一億通りの答えがある。

でもそれは、自分が世界にたった一人しかいない、大切でかけがえのない存在なんだってことを証明してくれている気がするんだ。

ちなみに私が扉を開けた瞬間は……。


この希望に満ち溢れた世界で、昨日とは違う“今日”を精一杯生きようって思うんだ!




青い空に、白い雲。よくあるセリフだけど、この言葉しか見つからないくらい輝かしい天気だ。

深緑のセーラーの制服、胸元には大きな白いリボンが太陽で光って見える。

それに、真新しいかばんとローファー。


桜の舞い散るこの季節、私、大川おおかわ千海は晴れて今年中学生になった。


「千海、入学二日目で忘れ物すんなよー?」

「ちょっと、さすがにしないってばー」


このちょっと生意気な新・小学六年生の弟、水樹みずきと玄関前の階段を降りる。


お父さんとお母さんと私と水樹で住んでいる一軒家は広い住宅街にあって、近くには赤ちゃんから高齢者さんまで幅広い年齢の人がたくさん住んでいる。私もその一人。

その一角には小さな公園があって、この辺の人たちが待ち合わせによく利用する通称『待ち合い公園』があるんだ。


「あっ、おはよーっ!」


そんな待ち合い公園に見えた一人の人影に向かって、私は思いっきり手を振る。

すると、こっちに気が付いたようで手を振り返してくれた。

長い前髪をセンターで分け、さらさらと揺れる後ろ髪は光で白くなっている。


「おはよう、美沙みさちゃん!」


目の前で立ち止まった私は、美沙ちゃん――西野にしの美沙ちゃんにもう一度あいさつをした。


「おはよう。朝から元気だね、千海ちゃん」

「こんなに天気が良ければ、つられて元気になっちゃうよ!!」


私の言葉にくすっと笑う美沙ちゃんは、私の小学生のころからの幼なじみ。同じこの住宅街に住んでいて、もちろん地域も一緒だから中学校も同じ。

クラスは違くなっちゃったけど、それでも仲良しなのは変わらないっ!


「じゃあ俺、こっちだから」


隣にいる水樹が三人の男の子たちの集団を指差した。


「うん、いってらっしゃーい!」

「声がでかいってば。うるせえよ」


そう言いつつ、美沙ちゃんに軽く会釈してから向こうまで小走りで走っていった。

あの子たちは水樹の同級生だろう。何回かうちに遊びに来たことがある気がする。


「千海ちゃん、わたしたちもそろそろ行こうか」


美沙ちゃんが笑って、私はその言葉に頷く。


「よし、しゅっぱーつ!」


私は空へ向かって思いっきり右手で作った拳を突き上げた。

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