助言者Guil 〜〇〇な子供達へ〜

ルシア オールウェイズ ハッピー スピカ

特別な子供

第1話 誕生

 これは俺の物語

八歳の頃の俺が……

そう僕が大人になるまでの……



 ここは何処どこにでもある小学校の、何処どこにでもあるような教室。

三年ニ組の教室に広がる空気は何故なぜか重苦しく、僕は息をするだけで必死だった。


 なぜ、こんなに苦しいのか。僕は知っている。

 なぜ、みんなは平気なのか?知っている。

 みんなは普通の人間だから大丈夫なのだ。


 もうすぐ一時間目の授業が始まる。僕はますます気分が悪くなってきた。お腹のヘソの辺りに重たい何かがずっしりと伸し掛かっている感覚があり、今にも限界を迎えようとしていた。


 もう無理だ! そう思ったと同時に僕は振り絞って声を出していた。

「先生、おなかがいたいです」

そう言って僕は教室を出て行った。


 長い渡り廊下を歩いて行くと他の教室では授業が始まったのかとても静かで居心地良いい。次第しだいに顔色が良くなっていくのが分かり、お腹の痛みも何処どこかに消えてしまっていた。


 普通の人間はあの教室とかいう閉ざされた空間で勉強を行うことに対して何も抵抗が無いのだろうか? そして、あの先生とかいう生き物に対してなぜ疑問を持たないのだろう? 分からない。


 クラスメイトは普通に学校に行き、普通に授業を受け、普通に笑っていられるのに……


 なぜ僕はその普通が受け入れられないのだろう? 


 そんな事を考えながら歩いていると保健室が見えてきた。僕の今日の仕事はこれで終わりだ。ミッションコンプリート! 


「せんせー!おなかいたーい」


 そう言いながら保健室に入っていくと保健の先生は呆れた顔でこう言った。


「そんな元気そうな顔でお腹痛いって言われても……」


「本当にいたいからしょーがないの」


 うそである。教室から逃げ出した僕はすでに元気でお腹も全く痛くない。しかし、教室に戻ればきっと息苦しさと共に腹痛も戻ってくるだろう。それだけは回避したい。


「とりあえず熱でも測ってみる?」


 すかさず僕は返事をする。もちろん元気よく。検温が終わると体温計は三七度三分を表示していた。


「あら、熱があるわね。心配だから今日はもうお家に帰った方が良さそうね。」


 僕は心の中でガッツポーズをした。

(ちょろいぜ!)


「担任の先生にはお話しておくけど、一人でちゃんと帰れそう?それともお母さんにお迎え来てもらった方がいい?」


 少し考えてから母親に連絡してもらうようにお願いした。


 多分甘えたい気分だったのだろう。自分でも分からないのだが、最近は何か理由が無ければ母親に甘えるのが恥ずかしいと思うようになってきたのだ。

昔はそんな事なかったのだが、小学三年生ともなると当然なのかもしれない。だからいまだに母親と一緒にお風呂に入っている事はクラスのみんなには内緒だ。


 ちなみに、検温の結果だが実は熱なんて無い。デジタルの体温計では不可能だがアナログの体温計なら可能な裏技があるのだ。その名も、


【秘技!先生にバレないように体温計を擦って温度ちょっと上げる!!】


 上級生が使っているのを一度見て覚えた非常に有難い技である。これさえあればいつでも家に帰る事が出来る。本当に有難ありがたい。僕は上下関係が苦手だが、これだけは先輩に感謝している。


 廊下の方から話し声が聞こえてくる。

どうやら母親が来たらしい。保健の先生と一緒に母親が保健室の入り口までやってきた。僕はお腹の辺りに手を当ててちょっと痛そうなフリをする。元気そうだと教室に戻されるかもしれないからだ。


「お腹大丈夫?」


 母親が声をかけながら保健室に入ってくる。


「うーん。あんまり。」


 僕は曖昧あいまいな返事をした。だって今は痛く無いからね…… 僕はうそが下手なのだ。まず顔に出る。そして説明してるうちに本当の事を話してしまう。だからうそを言うより曖昧あいまいな返答をした方が大体上手くいく。


「じゃあ一緒に帰ろうか。ランドセルは教室から持ってきたけど担任の先生に挨拶だけしてく?」


 僕は首を振って意思表示をする。さっさと家に帰ってのんびりしたい。とは言えないのでそのまま黙っている。


 この日は母親と一緒に家まで帰った。




 僕の名前はひかる

 親はニ人。父親と母親。

 兄弟は僕を含む三人。弟が二人。

 一応長男だ。

 祖母も一緒に住んでいるが、祖父は物心付く前に他界している為記憶には残っていない。


 家では僕が王様で弟達は決して僕には逆らわない。ただ父親がいる時は別だ。あいつがいる時僕はなるべく大人しくしている。なぜかって? とにかくあいつはやばいんだ。分かりやすく説明すると本物の王様なんだ。あいつが白って言えばカラスの色も白になる。だからこの家のラスボスみたいなものだ。


 ちなみに今日は学校をサボっ……じゃなくて体調不良により合理的に学校を休んだんだけど、何をして遊ぼうか考えている真っ最中だ。


 弟達は学校や幼稚園にいるから暇なんだよね。我が弟達は真面目だなぁ。感心するよ。


 僕も本当は宿題とかやらないといけないんだけど、やる気がねぇ……出ないんだよねぇ。まぁ、やりたい事もないし今日は父親あいつもいないからのんびりするかな。


 気がつくとお昼だった。いつの間にか寝てしまっていたようだ。


 なんて平和なんだろう! 寝て、起きてご飯を食べて、また寝る。また起きてゲームして、またまた寝る。最高だ。今日はまだゲームしてないからお昼ご飯の後にガッツリ遊ぶ事にしよーっと。毎日こんな生活が出来たらいいのに。本気で、そう思っていたのだが……


 この日の夜、僕は今までの自分の行動に後悔こうかいすることになる。




「ひぃかるっ!!!」


 怒号どごうと共に身体中を痛みが駆け抜ける。何が起こったのか理解する間も無く僕の体は一瞬宙に浮いて、鈍い音と共に壁に激突した。さらに怒号どごうは続く。


「てぇめぇ!このぅやろぉ!!宿題全くやってないらしぃなぁー!!何回言ったら分かるんじゃぁ!!」


 父親あいつだ。

 最悪な事にかなり酔っ払ってる。

 終わった。短い人生だったなぁ。

 そう覚悟を決める前にまた痛みが胸を襲う。今度は視認出来たから分かる。右足によって胸を踏みつけられたのだ。


 地震、雷、火事、おやじ。って昔から言われてはいるが、余震があるのは地震だけにして欲しい。地震も大変だが、おやじも大変なんだよ。


 完全にマウントを取られているから勝ち目は無い。そもそも体格差があり過ぎて敗北する未来しか視えない。


 あぁ、、、いつ終わるのかな?

 今何時なんだろう?

 あいつがいるから午前零時ぐらいかな?

 あと二、三回は余震がありそうだな。

 なんか怒鳴ってるけど何言ってるか分かんないし。

 怖い。恐怖が心と体を支配して涙が溢れ出てくる。


 今日のお昼に、宿題さえやっとけばこんな事にはならなかったのかなぁ? いや、そんな事は無いのかもしれない。昨日も一昨日も、その前も、そのまた前の日も宿題なんてやってないからなぁ。全ての事柄はなるべくしてなるの典型的なやつだ。


 ようやく意味が分かる言葉が聞こえてきた。


「泣くなぁ!男やろぉ!!」


 僕は泣きながら頷く。


「明日からちゃんとやれよ。分かったかぁ!」


 僕は泣くのを我慢がまんしたが、涙は止まらなかった。そして、やはり泣きながらうなずいた。


 僕がうなずいたのを確認すると、あいつは自分の部屋へ戻っていき完全に余震はおさまった。


 この日の夜は、心の中にモヤモヤが残ったまま寝た。



 次の日、僕は学校に行き、ちゃんと授業を受けた。宿題はやってなかったので提出はしなかったが、授業を受けた……はずだった。


 家に帰ってきて自分の部屋のベッドに寝転がり、学校での出来事等を思い返そうとするが、思い出せない。

 授業の内容も、

 給食の献立こんだても、

 友達との会話も……、

 何も思い出せないのだ。

 目を閉じて考える。


 昨日の恐怖のせいで思考が誤作動でもしたのか? 分からない。


 それとも僕は本当に今日学校に行ったのか?

 実は行ってないんじゃないか?

 夢オチとか?


「学校行ってたよ☆」


 ふと頭の中から声が聞こえた。

 子供の声だ。

 優しい感じの少年を彷彿させるような声だ。


 誰だ?

 目を開けて部屋を見渡すが誰もいない。当たり前だ。この部屋には僕しかいないはず。


 気のせいか?


「そうだね。気のせいだよ☆」


 まただ。頭の中に声が響く……!?

 いやいやいや、気のせいじゃないだろ?返事してるし。自分の事は普通じゃないと思っていたけど、昨日の夜のあれか? 衝撃で頭がイカれちまったのか? 


「残念。不正解。君の頭は元々特別なんだよ☆」


 特別? 特別イカれてるって事?


「んー、ちょっと違うけど……、面倒臭いからそういう事にしといても良いかな?」


 こらこら。良くない。良くないぞ。


「じゃあどう言えば納得する?☆」


 そうだな。僕の頭が特別良くて、脳の稼働率を上昇させる事で不思議な力を手に入れた。とか?


「じゃあ、それで!☆」


 じゃあ、それで! って納得できるか!? 大体お前誰なんだよ? 


「君専用の助言者じょげんしゃだよ。名前はどうしようかな? うーんとねぇ……ギル! 名前はギルだよ☆」


ギルねぇ。ちなみにさっきの話だけど、ギルは自分の意思とか無いの? 流石にさっきの説明では納得出来ないし、納得する気もない。僕に合わせて話してるだけ感が溢れ過ぎ。


「ソンナコトナイヨ……

じゃあ逆に聞くけど昨日の夜、君はなんであいつの問いかけに対してうなずいたの? 暴力に負けたの? だから従うの? そこに君の意思はあるの?☆」


 僕は何も言えなくなった。

 そもそも助言者ってなんだよ。

 勝てない相手に歯向かっても負けるの分かってるんだからしょうがないじゃないか。

 喧嘩売りたいのか? こいつは。


「違うよ。君を助けたいの。だから助言者☆」


 心の中が全部見透かされるようで段々怖くなってきたぞ。


「ちなみに君。昨日一回死んでるからそんなに怖くないはずだよ☆」


 確かに怖いと言うより苛立いらだちの方が強い。でも不思議と嫌悪感は無い。


 ん? 昨日一回死んでる???


 ちょっとまって。僕死んでるの?

 えぇーぇーーー!!?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る