童話転生

スクール  H

プロローグ

1.平凡は死んで・・・話

平凡。


それがこれまでの人生だった。


別に何か事件が起きてほしいわけではなかった。


ただ、憧れてはいた。


いつもの会社帰り。


本を片手に家に帰る。


普通の会社、普通の生活。


そんな人生に飽き飽きしていた。


夜。


いつもの横断歩道。


車はおろか、人もほとんど通らないのに明滅し続けている信号。


まるで俺のように、同じことを繰り返している。


ふと、考えてしまった。


もし今、この赤信号を無視したらどうなるか、と。


いつものように静止していたが、突然、子供心がくすぐられた。


俺は赤信号を無視して、そのまま突き進んだ。


横断歩道の真ん中あたりまできた。


むろん、何も起こらない。


奇跡なんて…。そんなわけない。


と、思った瞬間。右側から何かが向かってくる音が聞こえた。


まさか……。期待を込めて右の方を振り向いた。


しかし、俺は何も見ることなく、暗闇に落ちた。


交通事故か? 俺は死んだのか?


何も聞こえない。


でも、全身が何かに包みこまれた感覚がする。痛みではない。


俺は、ゆっくり目を開けた。


視界には、真っ白い空間が広がっていた。

凹凸も影もなく、どこまでも白く無限に続きそうな無機質な場所に俺はいた。

あたりを見渡すが俺の他には誰もいない。


ー やぁ〜、平凡な男よ。 ー


どこからか女の声が聞こえた。


ー そうか。君には私が見えないんだね。 ー


言葉の主がそう言った途端、目の前に一人の少女が現れた。


白い袴を着ており、その背中には羽が…。


見た目は10代。黒縁メガネをかけていて、いかにも生意気そうな少女だった。


ー な、生意気とは無礼な!!!…まあいい。 ー


 言葉は発っしていないはず…俺の心が読めるのか?


少女は、俺をじろじろと吟味するように観察しなながら言葉を続けた。


ー それにしても、私を見て驚かないとは。意外だな。 ー


 ん?平凡な俺は、この状況では「モブ」を演じるほうがよかったのか?


ー …いいや、そのままで十分だ。 ー


 じゃあ〜、このままで。


ー ただ、私の存在を君は不思議に思わないのか? ー


 どうせお前は、神か天使なんだろ? わかりきったことを言うな。


ー ははは。さすが私が見込んだ男だ。この状況に、慌てふためきもしないな。君がどうして平凡な人生を歩んだのか不思議でならない。 ー


 平凡だろうが何だろうが、それが俺の人生だ。あんたらが不思議がることじゃないだろう?


ー それもそうだな。それより本題だ… ー


少女は一呼吸おいて、言った。


ー 君は、君の大好きな”転生”に興味はないか? ー


 ほ〜う。唐突ですな。しかし、なぜ俺なんだ? 人間は他にも沢山いるだろう。


ー 決まっているだろ。君が平凡な男で、転生に興味を持っているのだから。 ー


 ごもっとも。ただ、魔王退治とかはやめてくれ! 


ー なぜだ? 君たちの世界の定番と言えば、魔王討伐ではないのか? ー


 いやいや。平凡な奴の考え方は違う。冒険には憧れる。だが、実際にやろうとは思わないんだ。


ー ははは。本当に面白い男だな。では、何を望む? ー


 そうだな……。王国だったり、領地の再建系がいいかな。


ー なるほど。叶えてやろうじゃないか。 ー


 まじで!


ー ああ。神は嘘はつかぬ。ただし… ー


ただし…何?


ー 試練をクリアしてからだ ー


 試練? クリア?


ー ああ。タダではない。君には ”童話” の世界に行ってもらう ー


 童話って、あのシンデレラや白雪姫とかのことか?


ー そうだ。君には、その世界線へ行ってもらう ー


楽勝な気がするが…。


ー 実際、その世界でのんびり暮らしていい。ただ、自ずと試練の意味を理解するだろう… ー


 つまり、今は試練の中身については教えられないということか?


ー そういうことだ!死なないかぎり、試練はいつでも受けられる。 ー


 …いろいろ疑問はあるが、まあいい。あっちの世界に行けば分かるということか。


ー そうだ、そういうことだ。話が早くて助かる。 ー


 で、俺が行く世界は?


ー 最初に君が行くのは、シンデレラの世界だ。 ー


 ちょっと待った! ”最初”ってことは、複数回、試練を受けるのか?


ー それも秘密… ー


 わかった、聞かないよ。でも一つだけ教えてくれ。俺が行くシンデレラの世界は、原作グリム版の童話世界か? あれは”R指定”というか、コンプラなしのハードコアな残酷描写満載ストーリーだったような気がするが…。それとも、普及版の方か? つまり、ディズニー版とか絵本版とかソフトな方か?


ー ほほう。君はシンデレラに色々なパターンがあるのをよくご存知で。でも、それも秘密… ー


 はいはい。おとなしく行きますよ。ともかく、最後に俺の願いを叶えることは忘れるなよ!


ー よろしい!では、行ってらっしゃい! ー


体が急に重くなり、眠気に襲われる。意識が遠くなる中、


ー そうそう。これだけは忘れないで!!! ー


          ー 絶対に物語の流れは壊さないこと! ー

               ー それだけは、ぜっっったいに守ってね!! ー


そ…れは…どう…い…う…こ…と…。


俺はそのまま眠りに落ちていった。

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