第7話 円満解消狙います!

 午後の授業のチャイムが鳴ったので、リリーとはその場で別れた。ありがたい事に、アリアナはリリーやディーンとは別クラスなのだ。


 1学年のクラスは3つに分けられている。これは入学の時に無作為に分けられるらしい。2年に進級する時には、成績や、資質によってクラスが再編成されるのだ。


 私は授業を受けながら、先ほどの事を思い返していた。


 (さっきは、ヤバかった。マジでヤバかった。リリーが庇ってくれなかったら、完全に破滅ルートだった・・・。)



 ゲームでは、アリアナに虐められていたヒロインをディーンが庇う。


 そしてヒロインが涙を浮かべてお礼を言う。


 たったこれだけのイベントでお互い好感度爆上がりなのだが、どうやらそれは潰れたらしい。


 なんかちょっと愉快な気持ちになり、私はニンマリと悪い笑みを浮かべた。ディーンめざまぁみろ!



 (そもそも、ディーンのアリアナへの感情って、好感度マイナスなんじゃない?ってくらい冷たいのよね。仮にも婚約者だってのにさ)


 先ほどの私に対するディーンの冷たい顔を思い出していた。


 (やっぱ、学園入るまでのアリアナって、色々問題あったのかなぁ~?我儘娘だったみたいだし。)


 ゲームの設定や、屋敷に居た時の周りの態度から、普段のアリアナが高慢ちきでいけ好かないガキだったのは想像できた。身の回りの世話をしてくれたメイドのマリアに「ありがとう」って言った時など、彼女は数秒固まって動けなくなったぐらいだ。


 (多分事故の影響で頭がおかしくなったって思われてたかな?)


 でも良い方に変わったんだって理解してくれた後は、皆とはとてもいい関係になった。両親も前にも増して、溺愛してくれるようになり、「アリアナはなんて素晴らしい娘なの」などと言うようになった。(ほんと親ばかだが・・・)


 でも、それまでにお茶会やパーティーなどで出会った人たちは、昔のアリアナしか知らないのだ。恐らくディーンの態度が冷たいのもそのせいであろう。


 1年生の終業式でヒロインが誰と一番仲良くなっていても、ディーンはアリアナを皆の前で断罪し、婚約を破棄する。それはディーンがどうしてもアリアナと結婚したくないからだ。


 公爵家同士の婚約だ。一方から婚約解消を申し出る事は、どうしても相手に借りを作る事になる。だが婚約相手に瑕疵がある場合はそうではない。


 終業式のパーティーで、ディーンはアリアナがリリーに対してしてきた事を、全て証拠を出して突き付ける。皆の前でそれをする事により、『アリアナ・コールリッジは婚約者としては不適格だ』と皆に印象付けたのだ。



 (なんか、セコくない?)



 結婚したくないなら、結婚したくないって、例え相手に借りを作ってでも言えば良いじゃないか!


 (そりゃ、学園で色々可愛い子見りゃね、自分の婚約者なんてかすんで見えるでしょうよ?)


 少々やさぐれた気持ちで私は「ふんっ」と溜息をつく。


 アリアナは不器量では無い。どちらかと言えば可愛い方だ。というか、結構可愛い。ふわふわのハニーブロンド、顔は小さくて抜けるように色が白い。エメラルドグリーンの大きな瞳に、小さめだけどふっくらした紅を差さなくても赤い唇。ゲームではかなり意地悪そうに描かれていたが、容姿は整っていた。だけど・・・、


 (小さくて幼児体形なのは、絶対エンディングのロリコンオヤジ合わせだ!)


 授業中なのに机を叩きそうになってしまった。


 そう、アリアナは誰よりも背が低くて、色々育ってない。


 周りはまだ13歳なのに、みんな結構大人っぽく見える。ヨーロッパっぽいこの世界だからだろうか?。ヒロインのリリーなんて、清純派ながらも、育つところはしっかりと育っている。


 アリアナは周りと比べると、2,3歳幼く見えた。


 (ええ、ええ、ええ、ディーンにとってはアリアナなんて、物足りないでしょうよ!。こっちだって、自分が結婚したくないからって、婚約者をボコスコにする奴となんて、誰が結婚したいもんですか!)


 だから、ディーンとは円満に婚約解消しなくてはいけないのである。


 お互いの気持ちで婚約解消するのであれば、貸し借りは無いだろうから、自分としてはそう持っていきたいのだが、いかんせんアリアナが嫌われすぎてて、話し合える状態では無い。


 とにかく今は、ディーンにアリアナが不利になるようなネタを与えない事!それが大事なのだ。


 そんな事を授業中うだうだ考えていたら、


 「次の問題、アリアナ嬢お答えください」


 先生に当てられてしまった。


 (やっば!全然聞いてなかった)


 でも私は落ち着いて、先生の指し棒の先を見つめた。


 「はい、答えは5πr」です。


 「素晴らしい!正解です。」


 先生は私を褒めて、にっこりと笑った。難しい問題だったので、周りからもほーっと言う感嘆の声が小さく聞こえた。


 ふふふ、元のアリアナは劣等生だったようだが、この私は違うのだよ!。


 アリアナの地頭のままだったらどうしようかと思ったが、どうやら私が目覚めた時点で、脳も開花したらしい。元々人間は脳の能力を数%しか使えていないのだ。


 私は遅れて入学したが、その間の授業の分は休みの間にしっかり勉強し、実は教科書は全て読破している。


 目立つのはアウトだが、そこそこ良い成績で卒業したいのだ。これもディーンに隙を与えないためにも必要な事だと思っている。


 成績悪いのを理由に断罪される可能性は・・・まぁ無いかもしれないが、ディーンに有利な理由をちょっとでも作りたくないのだ!


 リーンゴーン


 「はい、今日の授業はここで終わりです。皆様また明日お会いしましょう。」


 白い髭を長く伸ばした年配の先生はそう言って、教室を出ていった。


 (ふう、学校生活二日目終わり)

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