女王様な彼女による、罰ゲームの執行




 ******



 ―――放課後。


「さぁ~て、どれがいいかしらね~」


 学校から少し離れた場所にあるショッピングモール。授業が終わり、放課後を迎えた僕は一条さんに連れられてこの場所に来ていた。


 ちなみに、学校が終わってからすぐに電車に乗ってここへ来たので、僕も一条さんも制服のままである。


 まあ、今はそんなことどうでもいいんだけど。それよりも問題は今現在の状況だ。というのも、現在僕らはとあるお店の中にいて、その店内にあるものを物色している最中なのだ。


 その店というのが……まぁ、何というのか。アクセサリーショップと言えばいいのだろうか? あまり、こういったお店には近寄らないので良く分からないのだけど、シルバーのブレスレットやら、ネックレスやらが置いてあるのを見て何となくそう思ったのだ。


 うぅ……落ち着かないなぁ……周囲を見回しながらそう思う僕。何せ周りはカップルとか、女性客ばかりなのだから。そんな中、僕の存在は場違い以外の何者でもないように思える。


「ねえ、ポチ」


「はっ、はい」


「あんたさー、さっきからキョロキョロし過ぎ。こういうお店に慣れてないの、丸分かりなんだけどー」


「えっ?」


「だーかーらー、キョロキョロするなって言ってるの! もうっ、恥ずかしいじゃない!」


 あ、ああ、そういうことですか……すみません。でも仕方ないじゃないですか。こういう場所って慣れないんですよ……なんて言えるはずもなく、黙って俯くことしかできなかった。


 するとそれを見た一条さんがやれやれといった感じで溜息をつくと、そのまま歩き出してこちらに近付いてきた。そして僕の傍まで近寄ると、急に彼女は僕の腕に抱きついてきたのだ。


「ちょっ、ちょっと、一条さん!?」


「うーるーさーいー。静かにしてなさい」


「いや、だけど……」


「そんなに周りが気になるなら、アタシだけ見てればいいのよ。わかったー?」


「は、はい……」


 有無を言わせぬ迫力があった。ここで逆らうような真似はできないと思った僕は素直に従うことにする。


 しかし、それにしても……一条さんめ、さり気なくなんてことをしてくれたんだ……。まさかこんな場所で、僕のカップル腕組み童貞を奪われることになるなんて……。


 酷い、酷過ぎるよ……。僕の初めての経験が、こんな悪魔みたいな女に奪われてしまうだなんて! どれだけ僕のことを弄べば気が済むんだろうか!? 僕は心の中で悪態を吐きながら、この屈辱に耐えるしかなかった。


「ほら、ポチ。これなんかどうかしらぁー? あんたに似合うと思うんだけどぉ~」


 そう言って一条さんが見せてきたのは、銀色のピアスだった。それを彼女は僕の耳にあてがいつつ、言葉を続ける。


「うーん、やっぱりこっちの方が良いかなぁ~? それともこっちの方が似合いそうかしら~?」


 などと言いつつ、面白げに、そして楽しそうに吟味する一条さん。しかし、そんな彼女とは正反対に、僕の心情は穏やかではなかった。


「え、えっと、これ……もしかして、僕が付けるんですか?」


「当たり前でしょー。だから、こうして合わせながら決めてるんじゃない」


「マジすか……」


「マジよ。何? あんた、ピアス嫌なの?」


「嫌って言いますか、その……これを付けるのに、耳に穴を開けなきゃいけないんですよね……? そう考えると、どうしても怖くて……」


「あー、なるほどねー。ビビりのポチには、ピアスはハードルが高過ぎるかー。痛いの嫌だもんねー」


 納得したように頷く一条さんだったが、そこでふと何かに気付いたようにポンッと手を叩くと、こんなことを言ってきた。


「それじゃあさ、これならどぉーお?」


 そう言って一条さんは別の物を手に取って、僕に見せてきた。それはなんと、首輪だった。黒色のベルトに、正面に当たる部分に銀色の装飾がされている。


「く、首輪もちょっと……」


「はぁ? 首輪? あんた、これは首輪じゃなくて、チョーカーって言うのよ!」


「す、すみません……」


「まったくもう、しょうがないわねぇ……」


 呆れたように溜息を吐く一条さん。それから彼女は僕の首に手を回すと、慣れた手つきで首に巻き付けていく。そしてにっこりと微笑んだ。


「ほら、似合うじゃない♪」


「そ、そうですかね……?」


「えぇ、そうね。いいじゃないの♪ これで名実共にー、本当のポチになったわね♡」


 ニヤニヤしながら言ってくる彼女に対して、僕は何も言い返せなかった。というか、何を言い返したらいいのか分からなかっただけなんだけど。


「あー、でもぉー、これよりもこっちのチョーカーの方が似合うかもぉー?」


 そう言いながらまた別の物を手に取り始める彼女。僕に付けた物を外して、新たに手に取ったものを巻き付けていった。


「これなんか、どうかしらー? 装飾のデザインがー、四つ葉のクローバーになっているんだけどー」


「四つ葉ですか……」


「えぇ、そうよ。これを付けたら、ポチも少しは幸せにでもなれるんじゃないかしらー♪」


 一条さんはニヤニヤとした意地の悪い笑みを浮かべつつ、そう言ってきた。僕の気持ちとしては、こうしている時間がとても不幸だと彼女に言いたいけれども、ここで機嫌を損ねられたら後が怖いので、黙っていることにした。


「じゃあ、これにしようかなー?」


 そして一条さんは僕の首に巻き付けていたチョーカーを外し、ご機嫌な様子でお会計に向かっていく。その後ろ姿を眺めながら、僕は深い溜息を吐いたのだった。


 ちなみにこの時に買ったチョーカーは、一条さんからの罰ゲームとして、今後は外しては駄目だと命令されてしまったので、常に付けておかなければいけなくなってしまった。


 正直言って、こんな物を付けていないといけないというのは、恥ずかしくて仕方がない。本当に一条さんのペットにでもなったような気分だ。


 しかも、今回の一件で……僕の放課後デート童貞と、女の子と二人で買い物に行く童貞が彼女によって無惨にも奪われてしまった。あっ、女の子からのプレゼント童貞も奪われてしまっている。


 何てことだ。これだけで、四つもの初めてを奪われているじゃないか! それだけに、僕は彼女に対してやり切れない怒りを抱く結果となったのだ。


 なので、僕は復讐を決意する。今は無理でもいつか彼女に仕返しをしてやると心に決めたのだった。そうして虎視眈々と機会を窺い、来るべき時に逆襲をして彼女を屈服させてやる。


 だからこそ、今に見てろよ、一条さん……!  お前をいつか、僕が絶対にわからせてやるんだ!!













 ――――――――――――――――――


 Q. 有栖ちゃんはどうして彼を呼び出したのでしょう?


 A. 放課後にポチと一緒にどこかへ遊びに行こうとしていたのに、飼い主に予定も告げずに無断でどこかに行って、無駄に探させて見つからなかった上に、時間を浪費したことを怒っていたから


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