第2話 エピローグ②

「まぶしっっ・・・・・」


ドアを開けた途端、鋭い太陽の光が容赦なく俺の瞳を貫いた。その刹那の眩しさが、未だに沈殿している二日酔いの頭痛を刺激し、眉間に鋭い痛みを走らせた。


太陽の残酷な輝きが、二日酔いに苦しむ体を無慈悲に焼いてくる。部屋に戻ってクーラーをガンガンに効かせた部屋で惰眠を貪りたい。そんな一抹の誘惑が心をくすぐりながらも、俺は深く息を吸い込み、その太陽の下、前へと足を進める覚悟を静かに固めた。


季節は八月、夏真っ盛り。普段は別段嫌いじゃない夏の暑さも、二日酔いで苦しむ体には異常な重さとなって押し寄せる。


陽射しは容赦なく照りつけ、湿気は肌にじわりと張り付くし、息苦しさが胸を満たし汗が額を滴り落ちる。まるで見えない炎が身体を包み込み、熱を与え続けるかのようだ。


(これは、一刻も早く冷房ガンガンの講義室に行かないと死ぬかも知れんな)


俺は太陽に対して微かな怨みを抱えながら、環境経済学の講義ながら、何故か環境のことなんてクソ喰らえとばかりに冷房をガンガンにきかせる講義室に向かうためいつもより少し歩調を早める。


そしてそのまま勢いで、錆びつきと時の経過がはっきりと色濃く残るボロアパートの階段に足を踏み入れた瞬間


「ガタッッッン」


突如として、耳に届く見知らぬ音と共に、言葉にできない奇妙な感覚が俺を襲った。


(なんだこの感覚・・・浮いてる・・・・いや落ちてるのか⁉︎)


俺は一瞬パニックに陥ったが、すぐに状況を理解した。不安と焦りが心を支配する一瞬でさえ冷静さを取り戻し周囲の状況を冷静を判断できる。そういった謎の状況判断の良さは俺の長所の一つである。


まぁしかし、今回に関しては残念ながら、状況を理解できたところで手の打ちようがなかったのだが。 


不可解な力に導かれ、俺の身体は無情にも地へと引き寄せられていった。全身に無慈悲な重力が襲いかかり、わずかな抵抗も虚しく、数瞬後には「ドスン」という重たい音が宙を裂き、体は無常にも大地に押し付けられた。


「痛っっっっっっっっっっっった!」


体は一瞬にして痛みと衝撃に飲み込まれ、息を呑むような打撃を受けた。激痛が全身を走り抜け、思わず声を漏らしてしまう。頭部から滲み出る血が頭皮を伝い、顔を赤く染め、恐ろしい光景を作り上げた。


痛みが体を貫き、恐怖が心を覆う。俺はそれでもなお、出血を手で押さえようと試みたが、どうやら傷は深かった。血は絶えずダラダラと流れ落ち続ける。


(くそ・・・やばい・・・階段を踏み外したのか・・・このままじゃやばい・・誰か・・救急車を・・・)


ただ、部屋で寝ている友人たちは二日酔いのせいで、通常よりも深い眠りに落ちていたので、こんな音程度では起きてくることはなかった。


助けを求める声を周囲に投げかけようにも、この通りは普段から人通りがまばらで、どこを見渡しても人の姿はない。


静けさが空間を支配し、孤立感が俺を包み込む。


(ダメだ・・・何とか・・何とかしなきゃ・・・・)


この状況下で外部からの助けを期待することの難しさを理解した俺は、それでも希望を捨てず、自らの力で何とか打開しようと、決死の覚悟を抱きながら、ポケットに手を伸ばし、携帯を取り出して救急車を呼ぼうとした。


・・・がそれが叶う事はなかった。


ドシンッ! ガラガラガラガラ


遅れて追ってきた鉄製の物体が、荒々しい音を立てながら俺の体に容赦なく落ちてきた。それが俺の体を圧迫し、かろうじて繋がっていた意識をじわりと摘み取っていく。


意識が遠のく中、俺は横目で体を押し潰したものの正体を確認する。


(階段じゃねぇかこのクソボロアパート)


「家賃をケチるんじゃなかったな…」そんな後悔と共に、俺の意識は静かに現世からエスケープしていった。

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