作戦会議~他の誰かを好きになる⁈~




 明里は夢を見た。

 花嫁姿の明里をアルフレートが抱きしめる夢。

 明里はアルフレートを突き飛ばして、逃げた、逃げた先で誰かに抱きしめられた、それは──





「……」

 夢は肝心な所で目を覚ます。


──いつだって続きが気になるものばかり──


 明里はそう一人思い、着替える。

 着替え終えると、学校に行く支度をする。

 日焼け止めクリームを塗り、血液パックから血をもらい、しっかりと準備をする。

 そうして曇り空の天気の下を歩いて行った。


 学校に着くと、自分の席に座り、授業の準備をする。

 当たり前の光景。

 これがいつまで続くんだろう、明里はそう不安になった。


 授業が終わり、吸血鬼の身体能力をごまかして体育をして、そして保健室に向かう。

「葛葉先生」

「明里か、ちょうどいい」

「?」

「お守りをこちらに」

「はい」

 とお守りを渡すと、葛葉は別のお守りを差し出した。

「より強固なものだ、アルフレートに対抗できるくらいの」

「何から何まですみません」

「精神にもう二度と干渉できないだろうし、影でわめくのも長時間は不可能だろう」

『全く余計なことを』

 明里の影がアルフレートの影になる。

『それほど私の花嫁になりたくないのかね』

「ないです!」

 きっぱり言うと葛葉は爆笑した。

 アルフレートの影は不機嫌そうに揺らめく。

「私にだって誰かを好きになる権利はあります! 貴方に決められたくありません‼」

『ぐむむ……そのタリスマンの所為か! 干渉がしづらいのは!』

「だから言っただろう、貴様の思い通りにはさせんとな」

 葛葉は影を見て鼻で笑った。

 明里は、影をにらみつけている。

「ですから、私は貴方から解放されて自由になるんです!」

『自由になって、どうするのだい? 君は吸血鬼なのだよ?』

「吸血鬼でも葛葉先生みたいに生きられるのでそうします!」

『幾度も場所を変えて、名前を変えて、姿を変えて生きなければならないのに?』

「それでもです」

 明里はきっぱりと言い切った。

 葛葉はにやりと笑い影を見つめる。

 影は不服そうだ。

「という訳だ、首を洗って待っていろ」

『仕方あるまい、君とは決着をつけねばな』

「そのときが来たらな」

 葛葉がそう言うと影が元の明里の影に戻った。

「やはり効果は抜群だな」

「ど、どういうお守りなんですこれ?」

「アルフレートのような吸血鬼らしい吸血鬼には効果が絶大な奴さ」

「な、なるほど」

 明里はお守りを鞄にしまい、葛葉を見る。

「ここでは何だ、奴が絶対口出しも干渉もできない私の家で話しをしよう」

「は、はい!」

 明里は葛葉が帰宅する時刻に共に学校を出た。

 そして葛葉の運転する車に乗り、葛葉の家に着く。


 明里は少しばかり息苦しさを感じた。


「明里はまだアルフレートの支配下にあるから苦しいだろうが、我慢できるか?」

「……はい」

 明里が頷くと葛葉は家の扉を開け、明里を招き入れた。

 どこか息苦しいのに、気が楽になるという矛盾した空間に明里は戸惑っていた。

「アルフレートの支配から一時的だが逃れてるから気が楽だろう」

「はい」

 そう言って、リビングに案内されると、血液パックを出される。

「クォート」

「はい」

「クォートさん、いつから此処に?」

「少し前に此処につきました」

 家にいるであろうクォートが居ることに明里は少し驚きつつも納得した。

 葛葉は真剣な表情で二人を見る。

「さてアルフレートの件だが、奴は腐っても真祖の一人だ」

「真祖の一人……」

「だから力も強大だ、が隙はあるはず」

「三人がかりで戦いますか?」

 クォートが提案する。

「それは前提だ。奴の平常心を揺らすところからだな」

「平常心を揺るがす?」

「そう」

 明里はしばし考えた。

「平常心を揺るがす……他の誰かを好きになるとか?」

「それは大いに期待できるが、そいつが狙われる可能性がある」

「ですよね……」

 明里は葛葉の言葉にクォートをチラ見して視線をそらした。

 クォートは首をかしげていたが、葛葉は何か察したようだった。

「いや、クォートお前囮になれ」

「え⁈」

「囮ですか?」

「明里、嘘でもいいからクォートに抱きついて好きな人はこいつだと言ってやれ」

「で、でもそうするとクォートさん狙われるんじゃ……」

「そこは」

 葛葉が指を鳴らすと、黒い姿の品の良い貴族服の男性が現れた。

「あ、あの、先生。こちらの方は」

「ワラキア、クォートの父だ」

「え⁈」

 葛葉の言葉に、男性ワラキアとクォートを見比べてしまう。

 確かに両方とも美丈夫だが、ジャンルが違う。

 クォートの方が中性的だ。

「クォートは妻に似たのだ」

 ワラキアが口を開いた。

「娘よ、アルフレートに一矢報いたいのだな」

「……はい、そして自由に」

「自由になるという事は、其方は夜の一族の一人として生きていくことになる、庇護を得られるかわらかぬまま」

「それは……」

「安心しろ、明里は私が庇護する。可愛い生徒だしな」

「そうか、ならいいだろう。私も微力ながら力を貸そう」

「い、いいんですか?」

「あやつの行動は鼻について好かん、此度の行動も気に食わん」

「あ、有り難うございます」

「父上、有り難うございます」

「しかし、エレナよ。何故、我が子を囮にするのだ」

「今は葛葉だ。ちょっと耳貸せ」

 二人は明里達から離れ、ごにょごにょと何かを話し合っていた。

 ワラキアは何度か明里を見て、すごい顔をしていたが、明里には理由は分からなかった。


「父上と葛葉さんは何を話しているのでしょうね?」

「わかりません……」

「古代語まで使ってしゃべってるので私にもわかりません」

「古代語?」

「ええ、その名の通り古代の吸血鬼の言葉です」

「そんなのまで使って話しているなんて、一体何事?」

「さぁ……?」


「クォート」


 二人が話し合っていると、葛葉がクォートを呼びつける。

「はい、何でしょう」

 クォートは二人の元へ行く。

「明里、そこから動くな」

「は、はい」

 葛葉に言われ、明里はその場に座ったままになった。


 すると、音が全く入ってこなくなった。

 先ほどまでは何かの音が入ってきたが、今は全く入ってこない。


 時折クォートが明里の方をチラチラと見てくるのが気になるが、聞こえないものは聞こえないので仕方ないと諦めた。


「話がまとまった」

「本当ですか」

「ああ、そのためにはまず──」

 葛葉は明里の頭に手を置いた。

「お前が強くならなければならない」

「や、やっぱりですか」

「そうでなければ計画はご破算だ」

「でもどうやって強く」

「幸い、連中はヴァンピールを作った組織を放ったと言っている。昼間動けるがやはり寄るが活発的だ、だから──」


「ヴァンピール狩りをする」





 葛葉の提案に、明里はうんと頷くことも出来ず、あの危険な目にまた会うのかと憂鬱になった。






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