問いかけ




「エドワード! クリス! よくつれてきてくれたね!!」

 スーツ姿の女性が明里達を視認すると、駆け寄ってきた。

 それをみてアルフレートは不機嫌そうに口を開いた。

『なるほど、授業があるのを無視してよんだのは貴様か』

「え」

「……明里ちゃん基本来の肉体の持ち主、今吸血したアルフレート公に乗っ取られているんだよ……」

「え゛」

「メリア、この女はあの悪夢に乗っ取られている気をつけろ」

「えええ?!」

 女性――メリアは素っ頓狂な声をあげた。

 その声にアルフレートはうるさそうな顔をする。

「なんで、どうして?! てか、つれて来ちゃって良かったの!?」

『喧しい女だ、少しは私の明里を見習うといい』

「いや、私の方でも調べたけど、明里ちゃんってそんなに大人しいの?」

「少しだけ話したけど、大人しい子ではあったなー」

「そ、そっかー……というか授業終わる前に連れてきてよかったの?」

「貴様が急いで連れてこいと言ったのだろうが」

『なるほど、明里の時間を無理矢理削ったのは貴様か、次はないと思いたまえ』

「イエッサ!!」

「……とりあえず座ろうか」

 エドワードは応接室にアルフレートを案内した。

「本当は明里ちゃんに質問するはずだったけど……」

『私がすべて答える、安心したまえ嘘はつかないとも』

「吸血鬼の言葉なんぞ信じられるか」

『それはネメシスのことも指しているのかな? 彼女程貴様等に優しい同胞はいないぞ』

「……」

「ま、まぁまぁ……それじゃあ明里ちゃんは吸血鬼として生きたいんですか?」

『現状はNOだな。正直これは不満だがいずれ私が変えていくとも』

「う、嘘はないっぽいですね、では次は――」

 メリアの質問に、アルフレートは明里の気持ちを素直を伝えていった。

 その姿にクリスは不満げな表情をしていた。

「――では、アルフレート公にお聞きしたいのです。貴方はこの間のヴァンピールの事件に関与しましたか?」

『一応関与したとも、組織に新しい吸血鬼が生まれたと伝えてその戦闘能力を調べるために僅かに手をかしたとも、いずれ組織は潰すがね』

「貴方は組織を利用するのですか」

『勿論。明里が私の花嫁として相応しくなるためには丁度いい。時間は無限に等しいいくらでも時間をかけよう』

「相応しいとは」

『そうだね、すでに私の好みには仕上がっているが、力不足だからね明里は。その力を補ってもらおう、それで精神がこちらによればなお良し』

「――有り難うございます、質問は以上です」

『では、家まで帰してもらえないかね? この姿で力を使うとエレナにしかられそうでね』

「――すみません、もう一つ。ネメシスと貴方は敵対しているのですか?」

『敵対――はしていないとも、ただ思想や思考の対立はある』

 アルフレートはそういうと、鞄をもって立ち上がろうとしたが、突如動きをやめ、椅子に崩れるように座り込んだ。

「明里ちゃん!?」

『五月蠅い、騒ぐな。落ち着いた状態になったため私が弾き飛ばされそうなんだ、後は任せる』

 アルフレートはそういうと、首をくたりとさせた。


 しばらくすると、呻き声とともに明里が目をさます。

「ああれ? ここ、どこですか?」

「……貴方が明里ちゃん? 外崎明里ちゃんよね?」

「は、はい……」

「良かったー! お話できた!」

「あ、あの何が合ったんでしょうか」

「まず貴様何が合ったのか話せ」

「何が合ったって……その急にアルフレートの声がして、『すべて私に任せなさい』という声がしたら意識がなくなったんです」

「なるほど……」

「あの、一体どのような用件だったのですか?」

「明里ちゃんの身辺調査だよ、吸血鬼になったからいろいろ不具合とかあるだろう、私達君のようなタイプの吸血鬼を保護する役目もある」

「保護する役目……?」

「エドワードとクリスを近くに住まわせるから、何かあったら話してちょうだいな」

「え?!引っ越すの確定!!」

「何か起きる前に対応するなら家が近い方がいいのよ!」

 自分がいない間に時間がことがすすみ、明里は不安感を感じた。

『明里、安心したまえ、彼らは君を傷つけない。傷つけるのならば私が手を下そう』

「!?」

 アルフレートの声が耳に響いた。

 明里は混乱しながらもアルフレートの言葉に耳を傾ける。

『君はこれから多くの事に巻き込まれていく、望む望まざる関係なく、だから私の忠告はよく聞きたまえ――ネメシスに頼りすぎるな、私を頼りたまえ』

 アルフレートの声はそこでとぎれたが、明里の心に不安の種を芽吹かせるには十分すぎた。

 明里は不安を抱えながら、メリアに引き連れられ車に乗らされる。

「……はぁ」

 明里は揺れる車の中で深いため息をついた。

「何でこんなことに……」

「明里ちゃん吸血鬼になっちゃったからね、でも安心して、人に紛れて生活していくならばっちりサポートするから!」

「本当……? 良かった……」

「とりあえず普通に生活してくれてると助かるからね」

「頑張ってしてますけど……この間の事件みたいなことがまた起きるんじゃないかと不安です……」

「それはこっちで調査するよ、だから明里ちゃんは普通にしててね」

「はぁ……」

 エドワードの言葉に何ともいえない返事をする。

 先日の事件、どうみても人間の手にはおえないものだと解っているからだ。

 あんな手のあまる化け物をどうやって人間が退治するというのだろうと、明里は不安になった。

 またそれを僅かだが倒すことができた自分が人間ばなれしている――基吸血鬼に近づいて言っていることにも不安を覚えた。

 自分の手のひらを見る、今までと変わらない手だが、ヴァンピールを倒した感触は確かに残っていた。

 今後もあのような事態になることを考えるとぞっとした。

 明里のそんな気持ちを察したのかエドワードは明るく振る舞う。

「大丈夫、そういうヴァンピール退治も私達の仕事だからそこまで深く考えないで」

「そう、なんですか……」

「そうですよ、外崎さんは普通に暮らしていてください……おっともう少しで家につきますよ」

 家の前につき、明里は車から下りた。

「くれぐれも妙なまねはするなよ」

「クリス! ……でもそうだね、アルフレート公のところに行こうなんて考えないでね、今回は大人しかったけども彼は危険だから」

「……はぁ」

「それじゃあ明里ちゃん、今日はじゃましたね。では……」

 車が走り去っていくのを見て、明里はなんともいえない表情で見送りそして自宅に戻る。

 鍵をかけ、ふうと息を吐いて座り込むと耳元に声が響く。

『私が何もしないとなると好き勝手に言ってくれるなあの人間共は』

「!!」

 明里はアルフレートの声に飛び上がる。

 明里が飛び上がると、アルフレートの笑い声が明里の耳に響く。

『相変わらず小心者だね、明里は。嫌いではないとも』

「い、いつも私の事を見てるんですか?」

『だいたいはね、だがいつも見てる訳ではないとも、たとえば入浴する時は終わるまで切っているからね』

「わ、私のプライバシーはどこに……」

『ははは、じきになれるとも』

「な、慣れませんよぉ……」

 自分のプライベートやプライバシーがアルフレートに土足で侵害されていることに、明里は半分泣きそうになった。

「……もう勉強しよう」

 明里はなんとか元気をふりしぼり、自室に戻って教科書とノートを開く。

「今日の宿題……あ、葛葉先生がメールでよこしてくれたや……嬉しいな……」

『……知っていたことだけど、君は本当に友達がいないんだね』

「う」

 アルフレートの言葉が明里の心に突き刺さる。

「だっていじめられていたし……いじめっ子怖かったですし……」

『もう居ないけれどもね』

「う゛」

 アルフレートの言葉が更に明里に突き刺さる。

「いいですもん……生まれてこの方ぼっちだったし……今は葛葉先生が仲良くしてくれるから……」

『エレナは昔から面倒見がいいからね、過保護とも言えたけど』

「……葛葉先生、本当に吸血鬼なんだ……」

『夜の一族と呼んで欲しいな。まぁ血を吸うのは当たってるけども』

 アルフレートは威圧的な口調ではなく、とても穏やかな口調と声を明里に送り続ける。

『明里、君は思い悩んでいるけど、そんな必要はないんだよ。私達の側にくれば悩みは解決だろう?』

「その……私……」

 明里はそうじゃないという言葉を上手く伝えられなかった。

 だが、明里の思考を理解しているアルフレートは深いため息をつき、声を発した。

『まぁいい。まだまだ時間はあるのだ、ゆっくりと考えればいいとも』

「……」

 そして声が途絶えると、明里は大きなため息をついた。

 そして教科書とノートを開き、今日の出来事を忘れるように勉強を開始した。



 これからの事を思い悩むのがつらかった。

 できれば、穏やかに過ごしていたかったが、それができないことは、私にとって不安で、今後の事に思い悩むには十分すぎた。





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