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A子舐め舐め夢芝居

第1話 翔ける

 星の見えない街だった。無機質なビルがそびえたつ間隙にはすすけた中華料理屋やパン屋が潜んでいた。ナカノはビルの間を縫うように車を走らせた。メーターは80の少し手前を指していた。ドブのような川に架かった橋を渡り、2つ目の交差点を右折して大通りに出た。はるか前方で長方形の巨大なシルエットがビルの上にのしかかり、触手でビルを抱え込むように潰しているのが見えた。

 ナカノは助手席に目をやった。隣では黒い防御スーツ姿の少女がうつらうつらとしている。ナカノはため息混じりに声をかけた。

「イイヅカさん、起きてください。ターゲットのところに着きました」

 イイヅカはハッと顔をあげ、フロントガラスを覗きこんだ。ナカノは昔の自分も含めて、大抵の人間があの異様な存在感を放つ怪物を見ることができないということを考えると未だに不思議な感覚になった。本当にビルがバキバキとひとりでに潰れていくようにしか見えないのだろうか。そんな想像を裏付けるかのようにイイヅカの顔に恐怖と困惑の混じった表情が浮かび上がった。それからバツの悪そうな表情に変わり、イイヅカは俯いて「すみません」と呟いた。ナカノは返事をしなかった。

 今日イイヅカは既に1体の怪物を倒している。疲れるのは当然だ。仕事にまだ慣れていないのだからなおさらだ。頭では分かっていても、もっとしっかりしてほしいと思ってしまう。

 怪物付きのビルが建つ区画の手前の交差点で車を止めると、二人はビルの下へ歩いていった。辺りにはガラスが散乱し、月光を浴びてキラキラと光っていた。百メートルほど先でガラスやビルの破片がグシャリと落ちるのが見えた。これ以上近づくのは危険そうだった。ナカノは怪物を見上げた。イイヅカもつられて上を向いた。怪物は数十本の足を持つイカのような姿だった。ただし、イカと聞いて思い浮かべる三角形はない。長方形の胴体の三辺から大小さまざまな触手を生やしており、体表は粘液に覆われヌメヌメと光っていた。触手の生えていない一辺はアサリの吸水管のように収縮している。恐らく口だろう。

「潰れていっているビルは見えますよね。その屋上の一番手前の角に胴体があります。胴体は長方形で縦15メートル、横8メートルほどです。触手をいれたら全長30メートルを超えるでしょう。触手でビルに掴まっているみたいです。まずは確実に当たる胴体から攻撃して動きを封じましょう」

「…あの壁が少し崩れている場所ですか?」

「そうですね。イイヅカさんにはあのビルの上側五階部分がひしゃげているように見えるはずです。そのひしゃげている部分が触手が建物を掴んでいる場所で、その右側の空間8メートルほどが胴体です」

 イイヅカはおずおずと右手を鉄砲の形にしてそこに向けた。

「1時の方向に30度修正」

「逆です」

 手はよろよろと逆の方向に向かっていっていた。ナカノは咄嗟に間違いを正したものの想像以上に自分の物言いがきつく聞こえて反省した。イイヅカはまだ子どもでメンタルの状態がパフォーマンスに影響しやすい。あまり萎縮させたくはなかった。とは言っても大事なオペレーションをもう何度もやっているのにまだ間違えるのかと呆れてイラついているのも本心だった。そうやって思いあぐねているナカノの表情に気付くと、イイヅカはハッと息を吞んで「すみません」と小声でつぶやき正しい方向に手を動かした。ナカノはイイヅカの手と怪物を鋭い目つきで見比べた。方向は直ったが少し下に落ちていた。ナカノはそれを指摘して修正させた。こうしている間にも怪物は建物を壊している。落ち着かなければならないとナカノは自分に言い聞かせた。スポッターが的確な位置を伝えなければ攻撃は当たらないのだ。焦ってイラついている場合ではない。ナカノはイイヅカの顔を見て合図した。イイヅカは力を放った。

 しかしその瞬間、突風が吹き荒れ二人はよろめいた。そして、次の瞬間にはビルの上から5階分のあった空間にぽっかりと穴が空いていた。ビルと一緒に触手の先端を何本か失った怪物の甲高い悲鳴が闇に響きわたった。もちろんナカノにしか聞こえていない。ナカノは脳がはじけ飛びそうな大音響に顔をしかめ両耳を塞いだ。イイヅカが不安そうな眼差しをナカノに向けた。

「…失敗です。触手しか削れてません」

 ナカノは苦々しく言った。ナカノには自分の声が怪物の絶叫に塗りつぶされて聞こえなかったが、イイヅカには怪物の悲鳴が聞こえていないので声を張り上げる必要はなかった。それよりあの突風はなんだ、とナカノは周囲を警戒した。ビル風とは違う。示しあわせてきたかのようなタイミングで吹いてくるなんて。

 怪物は痛みにもだえ始めた。傷口から黒いスライム状の体液がボトボトと落ちてきた。咄嗟にナカノはイイヅカの手を引いてその場から離れた。スライムが地面のガラスの上に落ちてくるのが見えた。イイヅカはガラスの砕ける音に息を呑んで目を見開いた。

「傷口から体液が落ちてきたんです。奴はまだ上に…」

 轟音がした。手負いの怪物が暴れだしたのだ。触手が近くのビルを手当たり次第になぎ倒していく。怪物がしがみついていたビルの上半分がこちらに崩れかかってきていた。おびただしい量のガラスとコンクリートの雨が降ってきた。ナカノとイイヅカは車に向かって走った。イイヅカ側のビルがドミノ倒しに崩れていく。怪物が触手をひきずりながら移動しているのだ。イイヅカは走りながら二人の頭上に落ちてきた破片を片っ端から消していた。周囲でガラスやコンクリートが砕けていく。その瞬間また突風が襲いかかってきた。今度はナカノを狙ってきたらしくナカノはイイヅカから引き離される形で吹き飛ばされた。

「ジュリア!」

 ナカノが叫ぶとフランカーが起動し、ナカノの防御スーツの硬度があがった。ほぼ同時にナカノはガラスの扉と激突した。ガラスは砕けてナカノは無人のホールに転がった。ジュリアの機械音声を無視して身を起こすとイイヅカがこちらに駆けてきているのが見えた。さらにその後ろで怪物がこちらを振り向いた。

「逃げなさい!」

 イイヅカは反射的に足を止めたが、ナカノに従うべきかナカノを助けるべきかで迷っている様子だった。

 その時ナカノとイイヅカの間にビルが倒れた。砂埃が舞い、何も見えなくなった。


「ナカノさん!」

 イイヅカは悲鳴混じりの声で上司を呼びながら必死に走った。後ろのビルが次々と潰されていき、破片が数メートル後ろで砕けた。破壊のせいでオフィス街は見る影もなく、ニュースや映画の中の戦場のようになっていた。土地勘がないことに加え、異常事態による混乱もあってイイヅカは完全に方向感覚を失っていた。ナカノの居場所どころか自分がどこにいるのかも分からず、ただ破壊から遠ざかろうといたずらに走り回っていた。先ほどのビルの倒壊の衝撃で倒れたときにできたふくらはぎの打ち身が接地の度にズキズキと脈打った。砂埃の中を走り回ったせいで喉がひりつき空咳が止まらなかったし、脇腹にはナイフを入れられたかのような痛みがもうずっとあった。乳酸菌が出過ぎると脇腹が痛くなるんだったっけと関係のないことを考えて気をそらそうとしたが無駄だった。前方に一階部分が駐車場になっているビルが見えて、イイヅカは駐車場の奥に逃げ込んだ。立ち止まった瞬間、全身が水でも浴びたかのように汗みどろで、心臓が破裂しそうな勢いで動いているのに気付いた。こめかみを流れる汗を拭うとべっとりと赤いものがついた。頭の脇を怪我したらしい。このまま死んでしまうんじゃないかという突拍子のない、しかし切羽詰まった思考が頭をよぎった。まだ地鳴りはしていたが怪物がイイヅカのところに来る様子は今のところなかった。イイヅカはフランカーで連絡を取ろうとしたが応答がなく、本体を見るとランプが点いていなかった。イイヅカは喉の奥がつまるのを感じた。私は一人じゃ何もできない。親に言われるままにスナイパーの仕事につき、その仕事ではただスポッターの手足になるだけで、どうせ自分は誰かのマリオネットにすぎないんだとふてくされていたが、いざその操り手がいなくなると途方に暮れてしまう。結局自分はシャボン玉のように周りの景色を映すだけの空っぽな存在なのだ。それはこれまで実生活にあまりリアリティを感じてこなかったイイヅカの自己感覚だった。イイヅカは全て現実だと理解していてもどこかで嘘らしさを感じていた。制服姿の同級生と別れてから黒スーツのスポッター達や超能力を使いこなすスナイパー達に会うと、知らない間に世界が切り替わったみたいな変な感じがする。特に怪物が見えないというのは自分が怪物を倒して街の平和を守っているという実感を湧かせなかった。今の状況も不安や恐怖はあるものの、どこか悪夢を見ているような感覚があった。

 突然左側から物音がしてイイヅカは全身を強張らせた。最初は聞き違いかと思った。緊急封鎖された街に人がいるわけがないのだ。しかし今度は左側に停まっている車の窓に人影が映った。

 イイヅカは固唾を飲んで恐る恐る車に近づいた。手を銃の形にして見よう見まねで構えた。空いている方の手で後部座席のドアを開けた。

 奥の席で少年が目を丸くしていた。紺のブレザーに同じ色の短パンを履いている。

「何でこんなとこにいるの?」イイヅカは少年に尋ねた。

「その手、何?」

「…マジシャンなの」

「こんなときに?」

「そっちには関係ないじゃん。で、何でこんなとこにいるの?」

「そっちには関係ないじゃん」

「さようなら」

 イイヅカは背中を向けた。少年はちょっと待って、スミマセンデシタ!と泣きべそをかいた。

「学校の社会見学で来て、トイレに行ってたら避難命令が出て、みんな先に出てっちゃって、怖くてずっとここにいたの」

「…いじめられてるか嫌われてんの?」」

「はああ?」

 少年が怒りの声を発した瞬間、大きな何かが墜落する音が響いた。振り返ると正面の道路に案内標識が突き刺さっていた。青地にくっきり浮かんだ白文字の「秋葉」まで読み取れたところで、標識は巨大な何かに踏みつぶされたかのようにぐしゃりとひしゃげた。それから聞きなれた地響きが数度響き止まった。

「あれ―」

「静かに!」

 車から出ようとした少年を押しとどめて息をひそめた。さっきの騒音が嘘のように静かだった。何も見えなかったが、イイヅカの頭に『ジュラシックパーク』のティラノサウルスのように怪物が低音で唸りながら二人のいるところを覗き込んでいるイメージが浮かんだ。しばらく二人は息をつめて石膏像のようにその場に固まっていた。風に吹かれて空き缶が転がっていく音がやけに大きく響いた。そうしていたのが30秒なのか、10分なのか、半時間だったのか分からなかった。音のない圧力にとうとう耐え切れなくなってイイヅカは標識よりやや上あたりの空間に向けて力を放った。一拍おいて向かいのテナントビルが重い何かに押しつぶされているかのように崩れた。どうやら攻撃が当たって怪物が態勢を崩したらしい。イイヅカは急いで車から少年を引っ張りだし、駐車場を飛び出して潰れるビルと反対の方へ走った。しかしこれまでと比べ物にならない轟音が響き、大地が揺れて二人は地面に投げ出された。振り返るとイイヅカたちが先ほどまでいたビルの上に隣のビルが倒れていた。両足がズキズキと痛み、半身を起こそうとすると妙な違和感があった。見ると左腕がねじれて右腕と同じ方向を向いていた。動かそうとしても肩より上にあげられず、無理にあげようとすると鈍い痛みが駆け抜けた。右手の方は手首が妙に外側に曲がって腫れ上がりはじめていた。無茶な受け身をとったせいだろう。脱臼か骨折か、最悪両方だろうなとイイヅカはぷらんとして力の入らない手をさすった。

「痛い…」

 隣で少年が膝を手で押さえていた。手の下の傷口からは血と白いものが見えた。後方ではドミノ倒しのようにマンションやビルがなぎ倒されていた。

「立って!走って!」

 自分でも無茶苦茶を言っているのは分かっていた。それでもせきたてずにはいられなかった。

「無理だよ!」

 少年はかんしゃくを起こして喚いた。怪我の痛みと怪我をしてしまったことへの焦りで興奮しているようだった。イイヅカは少年の心情を推察しながらも、キンと響く泣き声にカッと血がのぼり、こんな奴さっさと置いて逃げてしまいたいと思った。自分一人で逃げるだけでも精一杯なのに小学生の、それも怪我人の面倒までみていられない。イイヅカも子どもなのだ。責任など負えるわけがない。それにイイヅカが一般人を見つけたことはイイヅカしか知らないのだから、見捨てていっても誰にもバレない。そもそも避難命令が出ているのに避難せずにいた少年が悪いのだ。自業自得だ。

 しかし、その苛立ちに満ちた思考も鞭を振るうような音と少年の悲鳴で吹き飛んだ。次の瞬間には少年は見えない何かに上へと引っ張り上げられていった。

「え!?ちょっと!」

 イイヅカは少年を追いかけた。たしか怪物には触手があるとナカノは言っていた。それに捕まったのだ。

 イイヅカは近くのアパートの入り口のドアを消して中に侵入すると外階段を駆け上がった。少年は隣のアパートの屋上付近で左右に振り回されているようだった。イイヅカは息を切らしながら屋上に通じるドアの錠前を消して屋上に走りこむと、近くの地面に目を走らせた。イイヅカがいるアパートと少年が振り回されているアパートが面している広めの路地に丸い形の地割れが続いており途中で止まっていた。地割れが怪物の足跡ならそこが怪物の立っている場所のはずだ。右手で銃の形を作ろうとしたが薬指と小指が曲がらなかった。左手で薬指と小指をつかんで無理やり折り曲げると、痛みでひとりでに涙があふれて頬を伝った。涙が肌の表面の汚れを流していくのを感じてはじめてイイヅカは自身が全身埃だらけであることに気が付いた。屋上の縁を取り囲むフェンスの上に手を固定して、胴体と触手が繋がっているであろう部分にあたりをつけた。自信はまったくなかったが、そのときのイイヅカは何かをしなければならないという使命感で意を決した。

 一発目。少年を振り回す動きは止まらなかった。少年の悲鳴は段々と枯れておりもがく動作も緩慢になっているようだった。二発目。路地を挟んで向かいのスーパーの壁に穴が開いた。どうして私には怪物が見えないのとイイヅカは苛立って無茶苦茶に力を放った。轟音ととも地震が起こり、イイヅカはバランスを崩して倒れた咄嗟に肘で受け身をとったところゴリっと嫌な音がした。無理やり立ち上がって轟音の方を見ると、丸い地割れが二つ増えていた。やはりあの地割れは怪物の足跡で間違いないようだった。そして、イイヅカが力を放ったあたりに胴体と触手を繋ぐ部分があるはずだった。しかしただの予測では動き続けている触手の正確な位置も距離もつかめないのが現実だ。ナカノがいれば攻撃すべき場所を的確に指示してくれるのにとイイヅカは歯ぎしりした。いつの間にか悲鳴がやんでいることに気が付いてイイヅカは顔をあげた。少年はぐったりと動かなくなっていた。死にかけているとイイヅカはドキりとした。そして何も根拠はなかったが、次の攻撃で人が死ぬという確信めいた直感が頭をよぎった。その責任を思い出した瞬間、逆にそれまでの苛立ちと焦りがすっと引いていくのを感じた。

 不意にナカノがいつも言っている言葉が脳裏をよぎった。確実に当たるところから攻撃して動きを封じる。これまでの経験が具体例を伴った知恵に変わる感覚が頭を駆け抜けた。 

 イイヅカは立ち上がると手の銃を構えた。


 ナカノの隣で彼はメーターをうんざり顔で眺めていた。

「女は皆スピード屋なのか。それとも俺の周りにスピード屋の女しかいないだけなのか」

「スポッターなんて緊急封鎖された街を走ることがほとんどなんだからスピードを出して当然でしょう」

「現場つく前に事故んなよ」

 彼は人差し指で自分の頬をとんとんと叩きながら、どうしようもなさそうな顔でナカノの方を見た。それが彼の癖だった。その妙な愛嬌のある仕草をナカノはもっと見ていたかった。

 意識を取り戻したときには崩落は収まっていた。頭がズキズキと痛んだ。気絶していたようだ。ナカノは頭をさすりつつ辺りを見回した。終末を迎えたような惨状だ。自分の失態の結果を見てナカノは顔をしかめた。フラッカーが受信を示す緑のランプを示していた。出ると副支部長が固い声で「ナカノだな?」と念押しした。「どうしたんです?」とナカノは聞いた。

「時間がないから単刀直入に言う。〈孔雀の家〉関係者からリークがあった。そっちに少年の自爆者を潜入させたらしい。イイヅカから目を離すな」

「その情報は信頼できるものなんですか?」

「ああ。その少年の母親が自首してきたらしい。他の爆破事件の関与も認めていて事実確認ができている。自分の息子が特攻に行くのは見ていられなかったんだろう。小学5年生で制服を着ているらしい」

 ナカノは何から報告するか考えをめぐらせた。副支部長はわずかな沈黙ににじみ出ていた迷いを見逃さなかった。

「すでにトラブルか?」

「申し訳ありません。今イイヅカとはぐれているんです」

「なんだと?」

「スナイプの瞬間、突風が吹いて攻撃がズレたんです。それで仕留め損ねた手負いのターゲットがビルを倒壊させた拍子に」

「突風か」

「恐らく〈葦の笛〉かと」

「了解した。既にアイハラたちを送っている。ターゲットはそっちに任せてイイヅカの捜索を最優先しろ。少年に関しては第一に生け捕り、無理なら射殺だ。〈葦の笛〉も同じだ」

「かしこまりました」

 通信が切れるとナカノはゆっくりと立ち上がった。イイヅカに電話をかけた。出ない。ナカノは電話を切るとフランカーに呼びかけた。

「ジュリア、5060番通信」

「私は5060番通信じゃありません」

「いいから」

 ジュリアは無線モードに切り替わった。腰の黒い筐体の付属品のヘッドフォンを取り出すとマイク部分を口元に近づけた。

「こちらナカノ。応答ください」

 応答を待ちながら車のあった方へ歩いていると「こちらアイハラ」とフランカーから聞き慣れた声が聞こえてきた。

「なんだ大丈夫そうじゃナイ。ヅッカー、元気?」

 アイハラはイイヅカをヅッカーと呼んでいた。イイヅカという名前が長いからだと本人は言っているが、そのくせ自身のスナイパーであるサクマにはサクマンという名前より一文字多いあだ名をつけている。

「今はぐれてる」

「はぐれてるゥ?何があっタノ?」

 アイハラが突然素っ頓狂な声をあげたのでナカノは顔をしかめてフランカーから耳を離した。それから状況を説明した。

「〈孔雀の家〉に〈葦の笛〉までいルなんテ、大変ねあンた」

 アイハラの話し方は外国人が話すカタコトの日本語を連想させる。子音の発音が独特なのだとナカノは思う。前を見ると瓦礫の下で乗ってきた車が潰れているのが見えた。ナカノのため息を聞いてアイハラが「そンなに悲観してもしょうがナイわよゥ」と笑った。

「車が潰れてる」

「あらァ、何ヶ月ぶンかシらねェ?ドンマ~イ」

「え?これ、保険おりるよね…?」

「さあ。あたしの知り合い、スナイプ中の負傷で左腕切断したケド、一部自己負担だったらシイわよ」

「……転職しようかしら」

「ん?やっぱり元気なイ?」

「今日だけで3年分の失敗をした気分よ…」

 ナカノは車の横を通り過ぎて真っ直ぐに進んでいった。辺り一面建物が崩落し、見晴らしが良くなっていた。1キロほど先に高速道路が横切っているのが見えた。

「ねェねェ、どコで合流すルー?」

「街の東にある高架下の高校。イイヅカさんともはぐれたらそこで落ち合うことにしてる」

「用意周到じゃン」

 ナカノが口を開きかけた瞬間、左の方から轟音と怪物の叫び声が聞こえた。

「見えタ。触手生えたハンペンの化け物みたいなやつネ」

「三角のないイカでしょ」

「三角なかったラ、イカじゃないっショ」

「うるさいな。触手生えたハンペンもハンペンじゃないよ」

 ナカノはコンクリートの残骸の山をよじ登りはじめた。手をついた瓦礫がぼろりと崩れて危うくバランスを崩しそうになりながらモゾモゾと進んでいく。3分か5分ほど黙々と格闘していたがふと向こうが何も話さないのを不審に感じて声をかけた。

「アイハラ?」

「…ヅッカー、一人で戦ってルみたいネ」

「嘘でしょ!?」

「なかなか攻撃が当たラなくテ、あちこち穴ぼこにしてるケド」

「なんでそんな無茶―」

「〈葦の笛〉に妨害さレタとはいえ、無茶をしなキャいけない状況に追い込んだノは、あンたにも責任がある」

 ナカノは何も言い返せなかった。アイハラは知ってか知らずか変わらぬ調子で話を続けた。

「あたしタチも怪物より高校の方が近いから先にソッチ向かうワ」

「だめ、イイヅカさんの救援に向かって!私はいいから!副支部長だって―」

「あンな現場わかってないオッサンなんかほっとキなさいヨ。大体ヅッカーがいるあたり、ぐちゃぐちゃすぎて車ジャ行けないシ、あの状況じゃイツ死んでもおかしクない。あンた回収する方がまだ早クて確実なノ。まだ〈葦の笛〉がどコかにいるんでショ。今あンたにいなくなられたら困る」

 つまりまだ新人のイイヅカは替えがきくが、現場慣れしているナカノの方はそうでもないぶん優先順位が高いという考えなのだろう。ナカノは同僚としてアイハラに一目おいてはいたが、こうした潔さというか割り切りのよさは受け入れがたかった。

「お願い、アイハラ。元はといえば私の失態なの。あんたの言う通りよ。私のせいでイイヅカさんは一人で戦ってる。お願いだから助けに行って」

 ナカノはこの必死さが純粋にイイヅカを心配する気持ちからきているのか、自身の責任で部下が死ぬという罪悪感を背負いたくないという自己中心的な欲求からきているのか分からなかった。恐らく半々といったところだろうと頭の片隅で冷静に自己を分析していた。その間も口は懇願の言葉を吐き出しており、いつの間にかあまり尊敬できない大人になってしまっていたなとナカノは内心自分にがっかりした。そして、いつの間にか例の合流場所の高校が目の前に立っており、自分だけ一抜けしようとしているかのような後ろめたさと失望が腹の底からわきあがった。

 そのとき後ろからナカノめがけて突風が吹き荒れた。


 イイヅカの指先は丸い地割れの真上の空間を指していた。イイヅカは迷わず一発撃った。少年の身体がスローモーション映像のように隣の建物の屋上に落ちていった。それから向かいのアパートとテナントビルが轟音とともに空き缶のように押しつぶされていった。イイヅカはそこに大きめの力を放った。アパートとテナントビルの瓦礫が消えて、黒い大穴ができた。触手が落ちていく鞭のような音を背に外階段を駆け下りて少年が落ちたアパートの屋上へ向かった。鉄の階段を駆け上がると甲高い音が響いた。錆びたドアを消して屋上に入ると、貯水槽の傍に少年が倒れていた。少年は真っ白な顔で血を流していた。イイヅカは駆け寄って声をかけつつ、私この子の名前知らないなと場違いなことを思った。少年の半身を抱え起こすと、ずっしりとした重みが両手にかかった。鎧でもまとっているかのような妙な固さがあり、もう死んで硬直が始まっているのじゃないかと思いついて、反射的に手を放しそうになった。ぎりぎりでこらえて首に手を当てるとゆっくりと脈打っているのが分かった。イイヅカはほっと息をついて少年をおろした。怪我の具合を見ようとブレザーの前ボタンに手を伸ばすと小さな手で払いのけられた。少年が弱々しくもはっきりとした意志のある目で見上げていた。

「それ…何」

 少年の指はイイヅカの右手首に浮かび上がった青黒い点のようなものを指していた。イイヅカはぎくり心臓が脈打つのを感じた。

「ケガだよ…見たら分かるでしょ…」イイヅカは点からにじんで垂れている血をぬぐった。

「……変なケガ。印みたい」

 少年の見透かすような視線に耐えられずイイヅカは手をおろして目をそらした。

 少年が動けるようになるころには怪物の立てる音はなくなっていた。しかし、死んだのか一時的に動けない状態なだけなのか分からなかったのでイイヅカは早くその場を離れたかった。イイヅカは少年のブレザーの一部を包帯代わりにして少年の膝の傷に巻いた。そのあいだ少年は周りの景色を見渡し、顔を引きつらせて「ゾンビ映画みたい」と呟いた。

「いや、それいうならエイリアン映画じゃない?」

「同じじゃん」

「全然ちがうって」

 イイヅカはぎゅっと布を縛った。

「痛い!」

「ごめん。でも、あの怪物がどうなってるか分からないからここを離れないと」

「はなれてどこ行くの?」

「向こうの高架下の高校。そこなら大人がいるはず、たぶん」

「たぶん?」

 少年はあからさまに不安そうな表情をした。不安なのはこっちだと言いたいところを我慢してイイヅカは少年の手を引いて立ち上がらせた。

 地上は足場がグラついたので一歩一歩慎重に進んでいった。瓦礫の向こうには大通りとその奥に石造りの立派な建物がそびえたっていた。市役所か何かだろう。そっちの方向には怪物は行かなかったらしい。黒い川のような道路を境に破壊された街と何も変わらない街が並んでいる光景は妙ちきりんでおもしろかった。

「痛いよ。超能力でなんとかして」

 少年は足をさすってふてくされたようにつぶやいた。

「私は消すしかできないの」

「傷消してよ」

「傷は消すんじゃなくて治すもんでしょ」

 イイヅカは辛抱強く少年のペースに合わせようとした。しかし、イイヅカと少年が先ほどまでいたアパートはまだ見えていてさっさと先に進みたかった。

「…助けてくれてありがとう」

 文句を言うときと同じふてくされた口調で唐突に感謝の言葉が放たれたためにイイヅカはあやうく聞き流しそうになった。それから戸惑いながらも「いいよ」と返した。そんな場合ではないのに達成感で口元が思わず緩むのをおさえられず、イイヅカは周りを警戒するふりをして少年に顔を見られないようにしばらく反対の方を向いていた。

 車が通るわけでもないので道路の真ん中を歩いても問題なかったが、イイヅカはいつもの習慣で道の端のほうを歩いた。少年はイイヅカの後ろを歩いてついてきた。イイヅカは後ろを振り向いて少年に話しかけてみた。

「なんかべとべとさんみたい」

「何?」

「夜道に人の後をついてくるっていう妖怪」

「それだけ?」

「うん。あとビジュアルがかわいい」

「妖怪って人に悪いことするんじゃないの」

「違うよ。そもそも妖怪は昔の人がよく分からない出来事を理解するために使ってた仕組みみたいなもので、まあ今でいう科学みたいなものだったんだって。だから人を傷つけるものもいれば、ただそこにいるだけのようなやつもいるの」

「うーん、わかんない」

「例えばつむじ風が吹いて痛くはないのに見ると足に傷がついてるってことがあるとするでしょ。昔はその現象を妖怪かまいたちの仕業だと解釈してたけど、今は知らない間に傷ができたのを寒さで気付かなかっただけって解釈してることが多いでしょ。目の前で起こったことに対する説明の仕方が今と昔で違うって話。説明しようとすると難しいなあ」

「あの見えない生き物に対してみんな違うこと言ってるのと同じ感じ?」

「へ?」

「だってあれのこと怪物とか人類の敵とかっていう人もいるけど、神の遣いっていう人もいるし宇宙人だっていう人もいるじゃん」

「まあ怪物派が多いと思うけど」

「でもそれって正しいとは限らないよ。人間が勝手に騒いでるだけであいつらにとっては人間はアリンコみたいなものなのかも」

「でも怪物が故意に人間を殺したり食べたりしたこともあるよ」

 さっき殺されかけていたのに何で怪物の味方みたいなこと言うんだとイイヅカは訝しんだ。これだから小さい子どもの考えることは分からない。

「僕も遊びで虫殺すもん。同じだよ」

「同じかあ。同じなのかな。でもその歳でそういう考え方ができるって、将来大物になりそう」

 イイヅカが少年の方を見ると少年は横を向いて何かを見ていた。そこにはいくつかのテナントが入っている小さなビルが建っていて、一階から三階には中高生を対象とした塾が入っていた。少年の視線を辿ると、夢へ翔け!というキャッチコピーの塾の広告がガラスのドアに貼られていた。イイヅカが「どうしたの」と尋ねると少年は「これ僕の名前の漢字なんだ」と言って「翔」の字を指差した。

「名前なんて呼ぶの?しょう?かける?」

「かける」

「かける君ね」

「お姉ちゃんは?」

「……イイヅカ」

「それ苗字じゃん」

「呼び方が一個分かったらいいじゃん」

「お姉ちゃん変だよね」

「よく言われる」

「あの字は何て読むの」

「はばたけだよ」

「ふうん。じゃあ僕もしかしたら、はばたっていう名前になってたかもしれないの?」

「さあ、普通いないけど」

「よかった。はばたってださいもん」

「かけるって名前は誰がつけたの」

「お母さん。殉教者みたいに立派になれって意味だよ。人って天国に行くとき翔けるんだって」

「すさまじいネーミングだね」

「殉教者は天国で祝福されるよ。みんなに褒められるし」

「でも子供に殉教者になれって…」

「人はみんな神様が作ったシャボン玉なんだよ。中には神様の息吹が宿ってるけど脆いし、生まれた時から空に向かってる。」

「それもお母さんが言ってたの?」

「うん」翔は満足気に頷いた。

「神様の息吹か…」

 シャボン玉の中が空洞ではなく何かで充満しているという考え方は素敵だとイイヅカは思った。

「僕たちどこに行ってるの?」

「あの高架下の高校。そこで…ナカノさんっていう私の……上司的な人と合流する」

 イイヅカは前方に見えている高架を指差した。その瞬間、高架近くのマンションの避雷針がぐしゃりとひしゃげた。


 ナカノは高架下を抜けてフェンスに囲まれた高校の敷地に入った。グラウンドの真ん中を駆け抜けながら後ろを振り返ると、砂塵が舞い上がり渦を巻いてナカノの方に向かっていた。その奥の入口の門あたりで黒い影が立っているのが見えた。やはり〈葦の笛〉はまずナカノを狙ってきた。ナカノは校舎へ向かった。何もない所より屋内の方が時間稼ぎできると思ったのだ。入口の錠前を銃で撃ちぬいて壊すと体当たりする形でドアを開けてぬるりと黒い闇に包まれた屋内に踏み込んだ。

 質素な玄関ホールを抜け、左手にある階段を登っていった。2階に着くと正面には自習用の椅子や机がいくつか置かれていた。右側には教室が並んでいる。

「へえ、意外に若いじゃん」

 後ろからの声にナカノは振り向いて銃をかまえた。明るい緑のパーカーの青年が立っていた。ゆったりした足取りで近づいてくる。ナカノは安全装置を外して後ろに下がっていった。

「俺、銃きかないよ。弾き飛ばすから」

 青年はおどけた調子で両手をあげた。窓の前を通った時に月明かりで姿がはっきり見えた。茶髪を一つにまとめており女のような顔だちをしていた。黒縁メガネで見えにくかったが左の目元に橙色の点が三つ並んでいた。

「お前、〈葦の笛〉の畑中か」

「え、なに俺あんたらの中では有名なの?サインあげよっか?」

 そう言って畑中はナカノに掌を向けた。真正面から大きな塊のような突風が吹きつけてきてナカノは後ろに押し飛ばされた。コンクリートの壁にぶつかり、背中と後頭部に衝撃が走ってすぐに激痛に変わった。ナカノは咳こみながら視界の端の階段に走りこむタイミングを見計らった。

「J・S・ミルは『自由論』で判断能力のある大人は他人を傷つけない限りどんなバカなことをしてもいいって言ってる。なのに俺たちは変な能力を持っているばっかりに大人になっても自由になれない。判断能力が無いって見なされてるんだぜ。ちなみにここでいう判断能力は何が自分にとっていいかを決める能力のことだ」

 畑中はナカノの方へ歩いて来ながら話した。

「社会は怪物を倒す力のことしか頭に無くて使い手である俺たちの人格も思考も考慮しない。あんたはスポッターだがどうやって折り合いをつけてるんだ?」畑中は無表情にナカノを見下ろした。「俺はそれを聞きたくて今日ここに来た。自分で見聞しなきゃ気が済まない質なんだ」

「あんたらはただあいつらと戦いたくないだけよ」

 自分で言いながら、じゃあイイヅカはどうなのだろうとナカノはふと疑問に思った。いや、今は余計なことを考えている暇はない。ナカノは畑中の真上の蛍光灯を撃つと、フランカーのスイッチを押して脚に瞬発強化殻をまとわせ階段の方に走りこんだ。防火扉で入り口を閉じると上へ駆け上がった。2階ほど上がったところで廊下を走った。掃除道具入れを倒し蛍光灯を割って破片を撒き散らした。こんなもので時間稼ぎになるとは思えなかったが、何もしないよりマシだと思った。窓から敷地内に車が入ってくるのが見えた。ナカノは通信機の電源を入れると「車が見えた」と伝えた。

「ヨカったわ。合ってたのネ」

「〈葦の笛〉の畑中に追われてる」

「聞こえテタ。ナカノ、カッコよかっタヨ~」

「うるさい」

 ナカノは教室に入ると奥の席に隠れるようにうずくまった。目の前の窓は紺の空を切り取っていた。ナカノは畑中の言葉を反芻した。怪物が見える者も倒せる者も怪物駆除に従事することを社会から期待され、当然果たすべき責任と義務とされている。それが嫌なら自分の能力を隠して生きればいい。畑中のいう自由が何なのかナカノには理解出来なかった。ただ怪物に対する不安や恐怖から逃げているようにしか見えない。「どうやって折り合いつけてるんだ?」ナカノは苦笑して「そういう発想にならなかったわね」と呟いた。不意にイイヅカはどう感じているのだろうと再び不思議に思った。そして今までイイヅカが何を考えて自身の隣に立っていたのか真剣に考えてはいなかったのではないかと気が付いた。私はイイヅカを生き残らせること、彼女の能力を引き出すための努力はしてきたつもりだったが、彼女の人格や思考とまともに向き合おうとしてきただろうか。それよりイイヅカは無事なのか。自爆犯と遭遇していなければいいが。彼女にはまだ咄嗟に能力を使いこなす柔軟性がない。イイヅカが予想外の出来事にぶつかった時、冷静に対処できるとは思えなかった。それともこういう心配も実はイイヅカの自由を制約しているだけなのだろうか。

 ナカノはふと顔をあげた。隣の教室のドアが開く音がした。もう来たのか。焦りで舌打ちしそうになった。教室を出て廊下を歩いてくる。黒板側のドアの開く音がした。続いて足音。ナカノは四つん這いで畑中の対角線上になるように移動した。壁を白い光の円が滑った。ライトを持っているらしい。ナカノは息を殺してじっとしていた。黒板の前の段差を踏む音がした。もう見つかるのは時間の問題だろう。どうやって時間稼ぎをするか。不意に白い光に照らされたと思うと、見えない塊のような風に壁へ叩きつけられた。衝撃で手から銃とフランカーが落ちた。ナカノは銃に手を伸ばしたが、今度はその手が風で床に打ち付けられ、銃は見えない拳に殴りつけらたかのようにひしゃげて真っ二つに割れた。

「アニメとかゲームのかまいたちみたいにスパッと切れたらカッコいいんだけど」

 畑中は銃の破片を蹴り飛ばすと、まだ咳き込んでいるナカノに向けて力を放った。ナカノは教室の中央へ吹き飛ばされ、一緒に机と椅子が乱雑な音をたてて倒れていった。ナカノは机や椅子、教科書の山から身を起こして口元の傷から流れる血をぬぐった。何度も打ち付けられた衝撃で何本か指の骨が折れており、背骨と腰の痛みで息がしづらかった。フランカーを囲むように小さな竜巻が起こり黒い筐体は渦の中に巻き込まれた。畑中はナカノの腰のフォルスターとフランカーを結ぶ革紐を風で断ち切ると、手のひらを前に差し出した。フランカーを巻き込んだ小さな竜巻はその上に移動した。

「これもらっていい?」畑中はフランカーをつかんだ。

 ナカノは畑中と向かい合う形でゆっくりと立ち上がり、窓の方を向いた。

「お仲間さんはまだ来ないんじゃない?車が入れそうなところは壊してきた」

「あんた結局なにがしたいわけ?」ナカノは太ももの隠しナイフがまだついていることを確認した。しかし出すタイミングを間違えれば逆手にとられることも分かっていた。

「スポッターやってる人の話を聞きたくて。やっぱりさ、みんな正義感とか使命感で働いてるのか不思議でさ」

 畑中は半笑いで話したが、なぜか侮辱されているとは思わなかった。その目の奥に切実な何かがあるように見えたからかもしれない。

「聞いてどうするつもり?あんたたちが〈百の目〉を邪魔するのに変わりはないんでしょ」

「俺たちの人生の邪魔してんのはそっちだろ」畑中の顔から一瞬笑みが消えた。それからまたいつもの調子にもどり畑中は続けた。「でも元々はあんたも人生を邪魔された側だ。なんで〈百の目〉に入った?」

「死にたくないからよ」

 畑中は虚をつかれてポカンとした顔をした。月明りに照らされたそのあどけない表情を見てナカノはまだ子どもなんだと少しだけ相手をあわれんだ。

「…全然わからん。死にたくないから死亡率の高い職につくって何?」

「あの怪物たちを見れば分かる。あいつらはいつだって私たちをひねりつぶせる。あんなのがひしめいている世界で何も知らないふりして、あいつらのことも自分がいつあれに殺されるかも皆目見当つかないまま過ごす方が無理。少しでも敵のことを知っている方が生き残れる可能性が高いと思ったの」

 ナカノは顔を背けるふりをして窓の外を向いた。まだだめだ。

「…なんだ。あんたスナイパー歴はないんだな。あれか、見えるようになって気付いた系?」

「そうだよ」

「そのほうがいいかもな」

 ナカノは再び畑中の方に視線をうつしたが、畑中はちょうど影の中に立っておりその表情は見えなかった。ナカノは窓の外を確認すると、じりじりと窓から離れるように移動した。畑中は怪訝そうに「何?」と尋ねた。

「怪物がいる」

「は?」

「あんたが邪魔したせいで仕留めそこなったやつよ」

「へえ。気付かなかったな。地響きも何もなかったから」畑中は挑むような口調で返した。

「分裂して小さくなってる」

 畑中は小首をかしげてまっすぐにナカノの目を見た。ハッタリだと思っているのは一目瞭然だった。しかし、どんなに小さくても本当かもしれないと疑惑の種を植え付けられればいいのだ。実際、畑中はナカノの発言を嘘だと一蹴できないでいる。そうできるだけの証拠を相手は持ちえないのだ。

「まあいいや。あれがまだこの街にいるのは変わらないわけだし。付き合ってやるよ。で?俺にどうしてほしいわけ?あんたのスナイパーにでもなれって?ひっでー冗談」

「子どもだって戦ってるのよ。それともあんたは女子どもしか攻撃できないわけ?死にたくなかったらさっさと手を窓に向けなさい」

「煽るじゃん」

 畑中は半分笑いながらナカノに近づいた。ナカノは動きを止めて畑中を睨んだ。

「だって窓の近くは怪物がいて危ないんだろ?」畑中は肩をすくめてみせた。「俺を使いたいなら対象と離さないと威力出ないよ」

「私を吹き飛ばしたくらいの出力があれば十分よ」

「あんなんでいいの?人間すら殺せないレベルだけど」

「窓から剝がせば墜落して死ぬ」

「あれってそんなにもろいんだ」

「強度には個体差がある。今回のは強い衝撃に弱いタイプなの。納得いただけたら窓に手を向けてもらえる?」

 畑中はナカノの指示に従った。

「十時の方向」

「十時…こっちか。なるほどね」

「上に25度修正」

「スナイプっていつもそんな分かりづらい指示してるの?見えてる奴がスナイパーの腕動かした方が早くない?」

「スナイパーのエネルギーの放出に耐えられるのは本人の腕だけなの」

「ああ、それ本当なんだ」畑中は片目をつぶって手で銃の形を作ってみせた。「さっきあんたといた女の子、こんな感じで狙い定めてたよね。怪物ってでかいんだろ?でかい力を当てた方がいいんじゃないの?」

 以前コンピュータが弾き出したイイヅカの予想最大出力を考えればそんな無茶はできないとナカノは心の中で答えた。しかし馬鹿正直に答えるやる義務はない。

「…あの子はああしないと力の向きを調整できないのよ。上にいきすぎ。下に5度」

「5度なんて誤差じゃん。どっちにしろ当たるだろ」

「一撃で急所を突けなかったらどうなるか、さっき見たはずだと思うけど」我ながらここまで口達者にべらべらと喋れるとはとナカノは内心驚いていた。「そこで止まって」

 今この瞬間、畑中が気を変えて矛先を自分に向けたらと気が気でなかった。こめかみをいやに冷たい汗が落ちていくのが分かった。畑中の表情は相変わらず見えなかった。

「今よ。撃って」

 畑中の目の前の窓が吹き飛んだ。ガラス片が月光と街燈に照らされて煌めきながら落ちていった。

「どうなった?」

「吹き飛んだ。でも早くここを離れないとまた来る」

「吹き飛ばされた方が速く移動できると思わない?」畑中が掌を向けてきた。「それとももう時間稼ぎ終わり?」

 そのとき隣の窓がガシャンと割れて何かが畑中に飛びかかった。ナカノには1.5メートルほどの三角のないイカが畑中の胴に巻き付くのが見えた肉が潰れて骨の折れる音が響き、畑中の口から血がこぼれた。同時に畑中の立っているところから暴風が吹き荒れ再びナカノは吹き飛ばされた。背骨と頭に衝撃が走り、次に意識を取り戻したときには目の前に壁をぶち抜かれた教室が4つ続いていた。先ほどまでナカノたちがいた教室は四方の壁が完全に吹き飛ばされてなくなっていた。畑中はナカノがいる教室の一つ手前でぼんやりとナカノを見下ろしており、その背後にマンションのひしゃげた避雷針が見えた。足に濡れた感覚があって見ると、イカの怪物の触手と胴の端切れが落ちていた。

「…やってくれたね」

 畑中が口を開くと血まみれの歯が見えた。ナカノは息をのんでナイフに手を伸ばした。

「それゆけサクマン!」

 突然、女の号令が響いたかと思うと、ナカノの背後から黒い防御スーツの青年が現れて、青白い稲妻が空中を走った。次の瞬間には畑中の右半身の大部分がなくなっており、焦げた匂いが空気に漂った。

「走れサクマン!」

 滅茶苦茶に巻いた包帯で顔を隠している女が背中を叩くと反射的にサクマは走り、くずおれる畑中を受け止めた。

「重い!汚い!生臭い!これ支える必要ありました!?」

「女の子だったらよかったのにネ」

「アイハラさん、セクハラです!」

 サクマは季節に似合わぬ汗をダラダラと流していた。

「助かった、アイハラ。ありがとう」

「無事でよかっタ。畑中つかまえるなんてお手柄ネ」

「アイハラさん、それ俺のお手柄です!てか、こいつまだ生きてます!殺さなくていいですか!?」

 サクマは畑中を半分背負ってずるずると引きずってきていた。アイハラは両手をあげるジェスチャーをしてみせた。外国人でもここまで戯画的な動きはしないだろうとナカノは思った。

「サクマ~ン。この子は怪物じゃなクテ人間よ。コミュニケーションができル!つまり情報がとれルっ。だからまだ残ス!もしかしたらうちに転職してクれルかもシレない」

「それはないと思うけど…」

「でもさっきまでノリノリでスナイプごっこしテタじゃない」

「〈葦の笛〉は何でこんなとこに?イイヅカさんを仲間にしようとでも思ってるんですか」

「ヅッカーは無名のスナイパーだから目をつけられルはずない。今回は避難命令発令から避難終了まで半日以上かかったかラ、潜入しやすかったンじゃなイ?まあ嫌がらセでしょ」

「イイヅカさんは?」

「見てナイ。でも怪物も動きナイし、こっちに分裂体が出たってことは本体は死にカケなンじゃなイ?」

 そこで初めて怪物の咆哮も足音もやんでいることにナカノは気が付いた。

 ナカノは再びイイヅカの携帯にかけた。やはり出ない。アイハラが横から「携帯が壊れたカ、落としタカ、もう死ンでるカ、ね」と静かに言った。サクマが不安げに「でも爆発音とかしませんでしたよ」と返した。足元では畑中が血を流して転がっている。

「いつも爆弾とも限らないでしょ。ナイフでひとサシっ!かも」と言ってアイハラは白い手袋をした手で刺す身振りをした。それからナカノの方を向いて「まあみんなでがん首揃えて待っててもなんだから私とサクマで街を見てクル。あンたはナウシカでも見ながらここで待っておキな」

「でも…」

「デモもヘチマもないわよゥ。あンたみたいな疲弊シタ人間に来られテモ邪魔なのよ。ほらあたしのフランカー貸してあげルかラ」アイハラはフランカーの装置を外すとナカノに投げてよこした。「ジョン、あンたはぶっ壊レテも別にいいカラ、何があっテもナカノを守りなサイ」

「アイハラさん、パワハラです」ジョンはナカノの手の中で抗議した。

「けどナカノさんだけ置いていくのもどうなんでしょう?もしかしたら畑中の仲間がまだいるかも」

 畑中が呻いて目を開いた。顔色が真っ白で目の下に隈ができていた。アイハラは連れ帰る気でいるらしいが、それまでに死ぬんじゃないかとナカノは内心思った。

「あンた復活早いねェ」とアイハラが珍獣を眺める観光客のような口調で言った。「若いってイイワア~。元気満点だもノ」

「変なしゃべり方だな。あんたがアイハラか」畑中は顔をしかめつつアイハラが手にした銃を見て口元に嘲ったような笑みを浮かべた。「そんなに隠してどんな顔してんだか」

 アイハラは両手を腰にあてた姿勢のまま精巧な人形のようにピクリとも動かなかった。包帯の隙間から覗くガラス細工のような瞳は揺らぎもせず畑中を見据えていた。サクマが畑中に掌を向けた。

 次の瞬間、畑中の真上に張り詰めた表情の青年が突然現れた。右腕のない畑中を見るとその顔からサッと血の気が引いて瞳孔が開いた。青年は何も言わず口を引き結び、片手をさっと畑中の胸にあてた。アイハラはすかさず畑中の頭に向かって銃を撃ったが、青年と畑中はふっと消えて、先ほどまで畑中の頭があった床に銃痕ができた。

 アイハラは舌打ちして銃をおろした。こういうときが一番怒っている。ナカノはどうフォローするか迷ったが、先にサクマがおろおろした様子で口を開いた。

「どっちみち畑中は死にますよ。あれで生き残ったやついませんもん」

「死ぬ奴に対シテ見せル焦りじゃなカッタ。まだ助かる見込みがあルからあンなに急イでタ」アイハラは不服そうに一瞬口をつぐんでから続けた。「やっパりいるンだ。治せルやつが」


 高速道路の高架下を抜けるとフェンスで囲まれた校舎の横側とグラウンドが見えた。フェンスに沿って右方向に進むと正門があった。門は既に開けられておりイイヅカと翔は中に入っていった。入ってすぐ左に車が停められていた。「誰の車?」と翔が車を指差した。ナカノのものとは違うが見覚えがあったので、同じ支局のスポッターのものだと分かった。

「大丈夫。知り合いのだよ」

「仲間?」

「そう、マジシャン仲間」

「その人はどんなマジックするの?」

「翔君には刺激が強過ぎるかな」

「何それ?でも何でここにいるの?」

 私が失敗したから応援に来たのだと思い、気恥ずかしさと申し訳なさでイイヅカは顔を赤らめた。高校はイイヅカの通う学校より新しくきれいだった。都会の限られた場所に建てられている割には大きいと思った。校舎もきれいだし新設の私立とかかなとイイヅカは思った。

「夜の学校って怖くない?」翔が手を握る力を強めた。

「それって学校の七不思議のせいだと思うんだよね。翔君の学校にもそういうのある?」「知らない。そんな話しないもん。あ、でもテケテケは知ってる」

「へえ。そういえば一時、テケテケの動画流行ったよね。知ってる?ゴキブリみたいにめちゃくちゃ速いんだ。確かにあの腕力は人並み外れてると思う」

「やめてよ」

「ごめんごめん」

 翔の手を引いてグラウンドを歩いていると突然3階の真ん中から左にかけて窓ガラスが破裂するように割れた。イイヅカも翔も立ち止まった。

「何?」翔が怯えたように言った。「本当に中に入るの?外で待ってようよ」

「危ないからここで待っておいて。私はちょっと行ってくる」

 イイヅカは翔の手を離して一人で校舎に向かおうとした。翔はその袖をつかんで引き留めた。

「大丈夫だから」

「僕が大丈夫じゃないよ」

「ああ、私の心配じゃないんだ…」

「イイヅカは強いからいいじゃん」

「強くないよ」

 強かったら二人ともこんなに怪我していないと思ったが口にはしなかった。もっとうまくできたんじゃないかとイイヅカはここまでの道中ずっと悔やんでいた。

 校舎から足音と声がしてイイヅカは身を構えた。口で右手の指を無理やり押し曲げて銃の形にした。人影の見えたドアに照準を合わせて待ち構えたが、出てきたのはナカノたちだった。目が合った瞬間、ナカノが心底ほっとしたような表情を見せたのが目に焼き付いた。

「お、ヅッカー。探しにいくとこだっタンだ!ちょうどよカッタ!」

「すみません。ご迷惑おかけしました」

 イイヅカは頭を下げた。

「無事でよかった」

 サクマに支えられて脇腹を押さえながらナカノがポロリと言った。

「すみません」

「その子ダレ?」

 アイハラが銃でイイヅカの後ろを差した。翔は後ろで俯いてブレザーのボタンを外していた。

「あ、この子は―」

「穢れた盗人が3人もいる。ついてきてよかった」

 突然破滅を予告するかのような重苦しい沈黙がおちた。それを破ったのはアイハラが撃鉄を起こす音だった。まるで見えない直線が結んでいるかのように銃口は翔の眉間を向いて寸分も動かなかった。その直線をぶち切るようにイイヅカが間に入った。

「ドキなさい。当たるワヨ」

「いやです!」

 アイハラは黙って一発撃ったが銃弾はイイヅカたちに当たる前に消えた。ナカノはサクマを振り切って駆け寄ると、アイハラの腕を掴んで無理やり銃を下ろさせた。アイハラは「何すンのよ!二人ともどうしちゃったノ!?」と叫んでナカノを殴り倒した。翔はその声に弾かれたようにブレザーの前を開いた。ズラリと筒形の爆弾が巻き付けられていた。翔はその中の一本のピンを抜くと、イイヅカに駆け寄った。

「爆弾を消して!」

 ナカノが叫んだ。サクマの手からバチバチと青白い光が現れた。イイヅカは何も考えられないまま反射的に腕をあげた。

 翔がふっと消えた。全員がそのままの状態で動けずにいた。イイヅカは自分で何をしたか分からなかった。ただ左手には翔の小さな手の感触が残っていた。


 一同はアイハラの車に乗り込んだ。サクマが助手席に座りナカノとイイヅカは後部座席に乗り込んだ。サクマは少しでも気晴らしになるような話題はないかと考えたが、大人の女性二人、女子高生一人と盛り上がれるような会話のネタなど思いつかなかったので結局共通の話題を切り出すことにした。

「〈孔雀の家〉って怪物を崇めてる宗教団体ですよね」

「30点」

「違うんですか」

「〈孔雀の家〉が信仰するのは唯一絶対神で怪物はソノ神の遣イ。神の正義の名の下で罪深い人間達に鉄鎚を下しニきてルらしいワ。世界を汚染してルように見える腐海が実は世界の浄化を行なっているようナものよ」

「本当にナウシカ好きですよね」

「ナウシカは私にとっテはマリア様みたいに尊いからネ」

「キリストじゃないんですね」

「キリストはオーマ」

「オーマ?」

「前も言わなかっタッケ?ナウシカが手懐けタ巨神兵」

「ああ、言ってましたね」

「ソうよ。この前名前の由来教えタじゃない。エフタル族の言葉で『無垢』って意味だっテ。でもオーマはその名前を与えられタ時から無垢ではなくなっテ、裁定者としてノ使命を果たシテいくの。面白イでしょ」

「…エフタル族はなんでしたっけ?」

 アイハラは相手を自分のペースに乗せるのが得意だとナカノは思う。ナカノはコミュニケーションにおいて自分の場を作ることが苦手だ。今もイイヅカに何と声をかければいいのか、そもそも何か言うべきかそっとしておくべきかも分からない。イイヅカは窓の方を向いていた。左手が何かを握っているような形で固まっていた。窓越しに欠片のような三日月がぽつんと輝いているのが見えた。今夜はイイヅカにとって初めての任務失敗だったとナカノは気付いた。

 まだまとまっていなかったがナカノは小さく息を吸い込み口を開こうとした。

「ナカノさん」

「なに?」

 先を越されてナカノは面食らった。アイハラとサクマは相変わらずナウシカの話で盛り上がっている。

「あの男の子を助けたときにできたんです」

 そう言ってイイヅカは手首の内側を見せてきた。小さなほくろと空目してしまいそうな青黒い瘢痕ができていた。

「…何個目ですか?」

「五人目です」

 イイヅカはきっぱりと言った。自分に言い聞かせるようでもあった。

「人を助けるためだからと思って使ったんです。でも……結局…無駄遣いにな…」

 突然イイヅカの声が切れてナカノはイイヅカの顔を見た。少女は小刻みに震えて目に涙を浮かべていた。

「イイヅカさんだけのせいじゃないです。私の責任でもある。私たちの失敗なんです。次は一緒に一人でも多く助けましょう」

 思いついたことを率直に言ってみたが、こんな浮ついた綺麗事で納得してくれるだろうかとナカノは不安だった。イイヅカは静かに涙を流しながらこっくりと頷いていたが、その内心までは分からなかった。

「初めて人に見せました」

 イイヅカは手首の瘢痕を見ながらぽつりと言った。

「そうなんですね」ナカノは内心驚いていた。「見せてくれてありがとうございます」

 イイヅカの開示に対してこちらも何か返さなければとナカノは頭を巡らせた。すぐに思い浮かんだのは妙に愛嬌のあった昔の相棒だった。イイヅカが背負っているものに比べれば見劣りするかもしれなかったが、彼はナカノが今の仕事を続けている理由であり、一生背負っていくと決めている存在だった。

「イイヅカさん」ナカノは口を開いて自分が緊張していることに気が付いた。イイヅカも瘢痕を見せるとき同じように緊張していただろうかとも思った。「聞いてくれますか?」

 イイヅカは涙をぬぐってナカノを見上げた。一行を乗せる車は瓦礫だらけの道なき道をぐらつきながら進んでいった。

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