ようじょせんぱいが勝負をしかけてきた!

倉名まさ

第1話 ようじょせんぱい参戦!

【登場人物】

・小松あずき(話し手)……高校三年生。女子。見た目も言動も子どもっぽい

・後輩くん(聞き手)……高校二年生。男子。ふらりと第二用務室を訪れ、あずきと出会う


SE:チャイムの音

SE: 扉の開閉音


(用務室奥のソファであずきが居眠りしている)

すぅ……すぅ……ん~……むにゃむにゃ……


(後輩くんが近づき、あずき、目を覚ます)

……ん?


わっ、わわっ!?


SE: 椅子のガタガタと鳴る音

(椅子から転げ落ちるあずき)

ひゃうぅぅ!?


ご、ごめんなさいごめんなさい!


これは決してサボってたわけじゃなくて……


って……はぁ~、なぁんだ~、生徒さんでしたか


てっきり先生が見回りに来たのかと……


まあ、この部屋に先生が来ることなんて、滅多にないんですけどね


他の生徒さんをお見かけするのも珍しいです


……へっ?


「なんで中等部の生徒がこの校舎にいるんだ」……って


お~い! 誰が中等部ですか!


ち~が~い~ま~す!


この制服! あなたと同じ高等部のものですよね!


……お姉ちゃんのものじゃありません!


そもそもわたし、姉なんていません……


一人っ子です!


それは、優しいお姉ちゃんがもしいたら……


なんて思ったことはありますけど……


ああ~、でも妹も捨てがたいです……


かわいくって、人懐っこい妹ちゃん


憧れちゃいます


あっ、弟というのもアリですね


いっしょにゲームしたりなんかして……


……えっ、あれ? 


わたし、なんの話してましたっけ?


……ああ、そうです!


誰が中等部ですか!?


わたしは、れっきとした高等部の生徒です!


それに、見てください、この胸の赤いリボンを!


三年生の証です! えへん


あなたの胸のリボン、緑じゃないですか!


後輩です、一個下です


先輩をしっかり敬ってください


……なっ!?


変じゃありませ~ん、ふつうです!


むしろ成績で言ったらふつうより、けっこう上です


優等生です


先生からも一目置かれる模範生です


変なのはあなたのほうです


先輩に対してその態度、ありえないです


それにわたしたち、初対面ですよね?


いきなり中等部扱いされたの、初めてです


そりゃ、先生やクラスメートやお母さんやお父さんには


よく言われたりしますけど……


「やっぱり」じゃないです! もう!


子どもっぽいって言われるの、けっこう気にしてるんですからね


だいたい、この第二用務室になんの用ですか?


……へっ?


知らずに入ってきたんですか?


(あずき、ため息をつく)

はぁ、ここはですね、第二用務室


ふだん使わないような資料や


図書室に置き場のない本


捨てるには惜しい備品や体育用具


落とし主が見つからなくなって、そのままになっちゃった遺失物


その他、長い年月のなかで


なんでここに放ったんだかも分からなくなってしまったような


色んなものが置いてある……


まあ、物置きのようなものです


……知らなくても無理はありません


校舎の端の端ですからね


災害時のための、レトルト食品や缶詰なんかもしまってあるので、


なるべく、一般生徒さんには知られないようにもしてるんです


(後輩くん、物珍しげに部屋を探索する)

SE:棚をがさごそと漁る音

そこ~、棚を物色しない!


そういうことするから、秘密なんですよ!


もう……さすがに食料をお出しするわけにはいきませんけど、


コーヒーくらいは淹れてあげますから、おとなしくしていてください


SE:椅子から立ち上がる音

SE:電動コーヒーメーカーが稼働する音

(あずき、コーヒーを淹れる)

あはははっ


大丈夫ですよ、腐ってなんかいません


コーヒーメーカーは用務室に放り込んであったものですけど、


ちゃんと点検してますし、豆はわたしが買ってきたものなので……


これでも、わたし、コーヒー淹れるの得意なんですよ!


毎朝、お父さんのコーヒーを淹れてあげてるんですから


えっへん


SE:コーヒーを注ぐ音

SE:カップを置く音

SE:椅子に座る音

(あずき、二人分のコーヒーを机に置いて座り直す)

でも、なんであなたはこんな場所に?


暇だったから、なんとなくブラブラって……


なんですか、それ……


用のない生徒はとっくに下校すべき時間ですよ


えっ、わたし?


わたしはいいんです


先生方から、この第二用務室の管理を任されてますので!


資料の整理や目録の作成、部屋の掃除だってやってるんですよ


鍵だってほら、ちゃ~んと預かってるんです


信用されてるんです


えっへん


言ったでしょう?


わたしは模範生だと


……いや、お昼寝してたのは、その……


仕方ないじゃないですか!?


見てください!


窓から西日が差し込んでぽかぽか陽気です


こんな日にお昼寝しないなんて、もったいないです!


この部屋、ソファやクッションまであるので


誰も使わないのはもったいないですし……


ですから、ついウトウトと……


だ~か~ら~、子どもっぽくなんかありません!


わたし先輩ですよ、せ・ん・ぱ・い!


後輩くんは、もっとちゃんと年上のお姉さんを敬うべきです


なんで噴き出すんですか~!?


「むしろ小学生かと思った」って……


言ってはならないことを~!


む~、年齢詐称じゃありませ~ん!


小松あずき十八歳、ほら学生証も見てください


どうですか? 分かりましたか?


分かればいいのです


へっ? 名前がイメージにぴったり?


えへへ~、そう言ってもらえると嬉しいです


小さい……豆と書いて……あずきって


漢字で想像しちゃだめです!


あずきは平仮名であずきなのです


ちゃんと覚えて帰ってください


テストに出ますよ?


……サラリと聞き流されてしまいました


ショックです


(後輩くん「それじゃ」と部屋を出て行こうとする)

あっ、ちょっとほんとに帰らないでください!


……「なに?」じゃないです


あずきのこと中等部みたいと言ったこと


ちゃんと謝ってもらってないです


別によくないです!


「思ったことを言っただけ」って……


む~……分かりました


そこまで言われては、わたしも引けません


明日の放課後、もう一度ここに来てください!


「なんで?」って、決まってるじゃないですか


わたしがれっきとした先輩で


オトナの女だということを証明するためです


「どうやって?」と聞かれますと……


え、えっと……そ、それはまだ秘密です!


と・に・か・く!


逃げないでくださいよ?


ぜったいに「子ども扱いしてすみませんでした~」って


謝らせてあげるんですから


覚えておいてください!


分かりましたね?


分かったなら行ってよし、です


また明日です


(後輩くん、呆気にとられつつも部屋を出る)

SE: 扉の開閉音


(あずき、ひとり言)

もう、突然やってきてなんなんですか、彼は……?


見てやがれなのです


ぜったい、ぜ~ったい


わたしがオトナの女だと認めさせてあげるんですから!


ふ~んだっ

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