千里眼殺し

織部泰助

第1話 千里眼の家

 その家は、町を切って流れる川が直角に折れた一隅にあった。


 外壁をぐるりと囲っているモッコクは、赤と緑の斑模様をつけ、そこが川魚を狙うカワセミたちの桟敷席となっていて野鳥をみるにも面白い通りであった。


 そのような様子だから、町内では絶好の散策路になりそうなものだが、昼でも通りがかりの人というのはまったく見かけなかった。


 さもありなん。

 

 と、出雲秋泰いずもあきやす青年は苦笑をもらした。


 モッコクの生垣から濡れたタオルを振るように、バタバタとはためく赤い幟がざっと五本ほど、こちらを覗いている。


 さながら厳めしい稲荷の幟旗だ。


 その民家の生垣からずらりとならぶ赤い幟旗の奇景もさることながら、それ以上に目をひくのは、赤地に白抜きの文言である。


 『千里眼』


 目を模したマークの下に記されたその文言は、通りを行く人に、鋭い視線をなげかけていた。

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