第45話 目的の場所を目指して

「ここからどっちの方向へ行くんだ?」

「北へ真っ直ぐと進む。途中で目的の場所があるはずだ」


 出発の準備を終えた俺とセレナスは早速北へ向かって走り始めていた。


・・・


 神輪の祭壇のフロアから3つの区画を抜けたが、その間会話は一度も無く走り続けた。


 セレナスの奴、俺との会話は必要最小限にしかしてくれないな。

 基本目も合わせてくれないし、嫌われているのだろうか……!


 少し前を走るセレナスを見ながら俺はそんな事を考えていた。


「セレナス! そろそろ休憩しよう」


 かれこれ6時間程走っていた。

 辺りの暗くなっている為、無闇に走るのは危険だと判断した。


「わかった」


 セレナスはそう言って足と止めた。


 そうして少し開けた場所で、キーキューブからグリムホーフの肉の塊、下層に生えていたヤシの木の実みたいなミルクボールを取り出した。

 ミルクボールは割ると実は脱脂粉乳のような粉の塊みたいになっており、

 ナイフで削ぎ落し、水を混ぜるととろっとクリーミーなスープになる。

 そこにシナモンの様な味がする、ウッドスパイスを粉末にして混ぜた。

 このウッドスパイスも下層ではよく使われているようだ。

 作り方はシナモンと同じで、ウッドスパイスの木の幹を剥いで乾燥させるそうだ。

 そして、肉に十分火が通ったら完成だ


「よし、出来た」


 器にスープを入れ、セレナスに手渡した。


「……頂こう」


 そうして二人の静かな食事が始まった。

 だが、俺はそれに耐えられず、気になっている事を口にした。


「なぁセレナス、やっぱユニークリングは嫌いか?」


 その質問にセレナスは少しの沈黙した後、ため息交じりに話し始めた。


「……生理的に無理という奴だ。ずっとユニークリングは悪で醜い存在、区別すべき対象として教育されてきた」


 そう言いながら俺の目を見て、


「ロフル、お前を悪い奴だとは思わない。

だが、僕は心の何処かでお前がユニークリングという事で信用出来ていないんだ」


 と少し申し訳なさそうに言った。


「そうか……」


 俺は少し残念そうに呟いた。


「食べられないと教わってきた物を、突然食べられるから食べろと言われても難しいと思わないか?」


 セレナスはそう言ったが、俺は


「でも、グリムホーフの肉、食えたじゃん!」


 と答えた。


「それは命令で仕方なく! というよりそういう事じゃない……たとえ話が下手なんだ僕は……」


 そういって少し照れくさそうにセレナスは言った。


「まぁ、徐々に慣れてくれれば嬉しいけどな。気長に待つとしよう」


 俺は笑顔で答えた。


「善処はしてみよう」


 そう言いながらセレナスは肉を口に運んだ。


「慣れれば俺も、そのグリムホーフの肉みたいに案外いける(仲良くできる)かもよ?」


 とセレナスの肉を指しながら言った。

 するとセレナスは少し驚いた表情でこちらを見て、

 すぐに目を逸らした。


「……男色の趣味は無い」


 唐突な言葉に俺は少し理解が遅れたが


「は!? そういう意味じゃねよ馬鹿か!?」


 と大声を出した。

 それに対しセレナスは怒った表情で


「おい、馬鹿とはなんだ! 誤解が嫌なら分かりにくい言い方をするな!」


 と言い返してきた。


 しばらくそんな会話をしながら食事を続けた。


 少しだけセレナスの事が分かった気がする。


・・・

・・


「この区画が目的の場所……廃棄された区画・サンドカーペットだ」


 目の前には一面の砂が広がっており、まるで砂漠のような区画へとやってきた。


「暑そうな場所だな。エンハンスがあってよかった」

「この砂の世界の何処かに、不自然に真っ黒の場所があるらしい。そこが目的の場所だ」


 セレナスは本を見ながらそう言った。


「この中を探すのか……」


 俺はそう呟くも


「地道に探すほかない。行くぞ!」


 と先に走り始めた。


・・・

・・


 俺は右方向、セレナスは左方向を見ながら真っ直ぐに小走りをしているが、

 地面がサラサラな砂のせいで足を取られ、いつものように走る事が出来ない。

 砂嵐も発生している為、視界も悪い。

 既にその場所を見過ごしてしまっている可能性もある……。


「黒い場所ってどのくらいの広さなんだ?」

「詳しくは分からないが……この前戦った場所程度のようだ」


 この前戦った場所って……テニスコート二面分程度しかないってこと?!


「そんな小さな範囲をこの広大な砂漠から探すのか……!」

「文句ばかり言うな! とはいえ、上から周囲を見渡せられればいいが……」


 セレナスがそう言うと、俺は妙案を閃いた。


「セレナス! 魔装魂で上に上がってみようぜ」

「は?」


 そういうセレナスにその妙案を伝えた。

 まず俺が魔装魂になり、その俺に対してセレナスが下からブラストを放つ。

 その勢いで上空まで飛んでいくと言う方法だ。


「馬鹿な作戦だ……魔装魂が貫かれておわりじゃないか」


 そういうセレナスの俺は


「大丈夫。来る場所が分かればある程度耐えられる」


 と自信ありげに答えた。


「だが……」

「いいからやってみろって!」


 そういう俺に、セレナスは渋々了承し、魔装魂の俺に向かって下から上にブラストを撃った。


「ぐ……!」


 腹部あたりでブラストを受けると、まるでミサイルに乗ったかのように俺の魔装魂は上空へと飛んでいった


「ブラストに乗ったのか!? おい、離れすぎるなよ!」

「大丈夫! ぎりぎりで手を放す!」


 そういって上空でブラストをいなし、そこから周囲見渡した。

 空からみた景色はやはり地上から見るより遥かに鮮明に見える。

 何度か場所を変えながら飛ぶしかないな。


「ん……?」


 かなり遠い場所でよくは見えなかったが、砂以外の何かが見える場所があった。

 それの方向をしっかりと確認しつつ、徐々に下へと落下していく。


――ドンッ!!


「セレナス! 黒い場所かは分からないが……あっちに何か怪しい場所があった」

「本当か! よし、その方向へ行くぞ!」


 そういってセレナスは先に走り出そうとするが……。


「セレナス!」

「なんだ?」

「また、上に飛ぶ必要があるかもしれない。俺の本体背負ってくれない?」


 魔装魂は一度解除されれば一日は使用する事が出来ない。

 まだ打ち上がる必要があるかもしれない為、俺はそうお願いした。


「……」


 セレナスはその問いにしばらく考え込んで、わかったと了承した。


・・・

・・


「いや、引きずる事はねーだろ!」

「ちゃんと板を引いているだろう! それに砂の道だ。怪我をする事は無い」


 俺を背負うのが絶対に嫌だったセレナスは、キーキューブから大きめの板とロープを取り出し、

 俺の本体を引きずりながら歩き始めた。

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