第41話 切り離しについて

「切り離しか……そんな事が出来ること自体信じられないな……」


 俺はセレナスの来た理由を聞き終えた後そう呟いた。

 どうやらセレナスは、階級Sの最上位者に命じられ最下層にある分断の祭壇を起動しに来たそうだ。

 下層と最下層を切り離す為に……。


「僕はそれに反対だ。紫髪達がこんな不条理で死ぬことはないと考えている」


 切り離す理由は人口が増え過ぎた結果、紫髪同士の争いが発生してしまう為と言っていた。


「だから、争いが起こらない様に僕が最下層の王となり統治しようと考えていた。しかし、間に合わなかった……」


 セレナスは悔しそうに言った。

 何となく考えがズレている気がしなくもないが……とにかく切り離し自体には反対なようだ。

 もちろん俺やリリアナも大反対に決まっているが……。


「ならどうするの? このまま分断の祭壇を起動せずここで暮らす?」


 リリアナがそう言うと、


「ダメだ。1年以内に動きが無ければ、他の神徒がここへ来るだけだろう」


「ならどうするんだ?」


 俺の問いにセレナスは、


「強い者を現地で見つけ共に上層へ戻る。そして……エルミラ・S・ソヴリンスターを殺す」


 そういうセレナスにリリアナは呆れ顔をし、


「大層な話……まるで夢物語ね。それに、見つけてたとして、どうやってその強者と上層に行くのよ?」


 と言ったが、セレナスは


「無策な訳がないだろう。腕輪の保管箱を探し、ワイドエリアリターンの腕輪を使う」


 そう言いながら持参した書物を取り出した。


「古の技術だが、[魔装具・魔法輪増幅の腕輪]というものが存在する」


 それは自身の魔法輪に重ねるように装備する事で、魔法の効果を増大させたり、変化させたり出来ると言う。


「まるでユニークリングだな」


 俺がそう呟くと、


「……そうだ。非常に不愉快だが致し方ない」


 と眉間にしわを寄せながらセレナスが言った。


「ワイドエリアリターンの腕輪は文字通り、リターンの効果を自身のみから周囲まで広げる」

「つまり、セレナスのリターンで複数人上層に行ける訳だな」

「その通りだ。とはいえ、僕ともう一人だけしか無理だが」


 しばらく沈黙が続いた後、俺はセレナスに疑問を投げた。


「その……エルミラが居なくなれば、切り離しは本当になくなるのか?」

「ああ。Sランクの最高位の者しか起動は出来ない。継承されないまま殺されれば、二度と起動は出来ないだろう」


 セレナスはそう言った後、


「エルミラにすんなり会えるか……それが一番の問題だ」


 とエルミラ周辺の状況を説明し始めた。


 エルミラの近くには常に守護者であるレオネル・S・ソヴリンスターがいる。

 それだけならまだしも、別のSランク家、セレスティアンブレード家の二名もソヴリンスターの守護者として行動している。

 こいつらに出て来られたらさらに厄介だと言う。


「状況は良く分かった……だが、何も殺さなくてもいいんじゃないのか? 話し合いもしないでさ」


 セレナスは俺のその問いに、


「馬鹿か! Bの僕の話を聞くわけがない。もう決定事項なんだこれは……」


 と強い口調で言った。

 しかし、何か引っかかる……。

 人口増加で争うが起こるかもしれない。

 その懸念だけで切り離しというもはや最終手段のような行動に移るだろうか……?


 何か他に理由が……?

 もしかしたらD-85なら何か知っているかも知れないな。


「さて、貴様はある程度強いようだな。神徒であれば魔装魂開放で実力を測れるのだが……」

「……魔装魂開放?」

「そうだ。神徒にのみ許された神託魔法だ」


 そういってセレナスはその魔法の効果を俺に説明した。

 

 神託魔法  魔装魂開放

 神託魔法は下位掌握などの魔法も指すらしい。


 魔装魂開放は物凄く簡単に言うと、幽体離脱が出来る魔法だ。

 厳密に言うと魔力で分身を作るイメージだから少し違うのだが……。


 意識は具現化されたもう一人の自分に移り、それは本体同等のポテンシャルで行動できる。

 その間、自分の身体は無防備で危険だと思われるが、魔装魂解除で即元に戻る事が出来る。


 その分身が破壊されても死ぬことはない為、神徒はそれを用いて日々鍛錬している。

 対人戦を命の保証をされながら全力でやれる……最高の環境だな。


「魔装魂開放! ……凄く便利そう――」


 そう言った瞬間、俺の身体が光始め、もう一人の自分が具現化された。


「あれ……?」


 俺の後ろに、倒れ込んだ自分が居る。

 自分の手を見ると、紫の炎に包まれているような姿をしていた。

 

「お前、なんで魔装魂が出来るんだ!? 神徒なのか?」

「分からない……」


 あくまでも予想に過ぎないが、

 赤い眼に目覚め、下位掌握が出来るようになった時からきっと使う事が出来たのだろう。


「おお! とにかく、これで俺の実力を測れるだろう?」

「……そうだね」

「よし、広い場所に行こう! こっちだ!」


 そういって俺は魔装魂の身体で道場のはずれに行こうとしたが……


「あ、おい! 離れすぎると……」


 セレナスがそう言いかけた瞬間、魔装魂は解除され俺の意識は一瞬で元の身体に戻っていった。


「本体から離れすぎると解除されるんだ……」

「あ、そうなんだな……」

「ちなみにインターバルは24時間だ。試すのはその後だね。時間が無いと言うのに……」


 セレナスはため息をつきながら言った。


「まぁ良い。僕はその間に最下層を少し見て回ろう。また明日、同じ時間にここへ来る」

「分かった」


 そういってセレナスは走って何処かへ行ってしまった。

 リリアナはそれをみて、


「はぁ、疲れたわ。今日は休むわ……」


 とその場を後にした。

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