逆転生者のダンジョン配信 ~現代日本に転生した異世界人は、前世の知識を使ってダンジョンで無双する~

馬鹿侍

第1話 逆転生者、動きます

 俺こと南有利みなみゆーりは、今から18年前に異世界からここ現代日本へと転生してきた、いわゆる転生者というやつだ。


 この世界は(少なくとも日本は)前にいた世界とは違って、街を出れば危険な魔獣で溢れているというわけでもなく、魔族に度々戦争を仕掛けられる訳でもなく比較的平和な場所だ。


 だがこの世界には、前にいた世界と共通しているところがある。


 それはダンジョンがあるということだ。


 ダンジョンというのは魔力による災害の1つだが、その内部にはアーティファクトと呼ばれる希少なアイテムが生成されるため、ロマンと収入を求めて多くの探索者がダンジョンに潜っていた。


 こちらのダンジョンは俺が生まれ変わる前に突然この世界に現れたものらしく、希少なアーティファクトを求めて一攫千金を目指す探索者が後を絶たない。


 まあそれと同時に、ダンジョン内の魔獣に殺されて死にゆく人間も後を絶たないのだが。


 だが、自身の命を賭けて未知の領域を探索をする様を映像化することによってさらなる収益に繋げているダンジョン配信者と呼ばれる職業の人間がいる。 


 ダンジョン配信者の年収は平均1000万とされている。上振れ下振れがあることを含めても十分な額だろう。


 転生して18年。ダンジョンに入れる最低年齢にはなったし、高校も卒業した。


 前世の知識を使えば、ダンジョン配信者として大成することは難しくないだろう。


「さあ、稼ぐとするか」


 そうして、俺はダンジョン配信者になるべく探索者ギルドの扉を開けた。


 ※ ※ ※


 ギルド内部は、探索者たちの喧騒で賑わっていた。思っていたより辛気臭いイメージは無い。


 だが、そのギルドの中で唯一涙を流している少女がいることを、俺は見逃さなかった。


 体格は小柄で童顔。笑顔でいれば動画映えしそうな顔だが、その体格には似つかわしくない長剣を抱えながら涙で顔を汚している。


 今後の配信活動のために、俺はその子に話しかけることにした。


「なんで泣いてるのか聞かせてくれないか?」


「あなたは…?」


「俺はユーリ。これから探索者になろうと思ってここに来たところなんだが、お前が泣いてるのが気になってな。名前は?」


「ナギです…活動名ですけど」


 どうやら彼女はダンジョン配信も行っているらしい。


「…実は、一緒にダンジョンに潜ってた友達が私を庇って死んじゃって…私は咄嗟に動けなくて、モンスターにやられる友達を見ていることしかできませんでした」


 彼女が泣いている理由は大体予想通りのものだった。仲間の死というものはいつだって辛いものだ。


 仲間が死ぬ姿は今まで何度も見てきたが、意外に慣れないものである。


「その子から離れろよクソガキ」


「ん?」


 なんといって励まそうか迷っていると、ガラの悪そうな連中がやってきた。


 それぞれ武器をこさえているが、そのどれもから年季を感じる。


 おそらくベテランの探索者なのだろうが、俺に対する態度はベテランの余裕を感じさせない器の小さな人間のものだった。


「その子は今からうちのパーティに入る手続きをするんだ。部外者はどっか行きな」


「あの…助けていただいた恩はありますけど、まだパーティに入ると決めたわけでは…」


(友達を殺された後にどうやって帰ってきたのか気になってはいたが、こいつらに助けられたのか)


 ナギの反応を見るに、彼女がこいつらのパーティに入ることはまだ決まっていないみたいだ。


 そんな強引な連中がダンジョンでピンチになっている少女を助ける理由なんてただ1つだ。


 こいつらはおそらく、ナギに対して何らかの見返りを期待しているのだ。


 金か体か、はたまた配信映えのためかは分からないが、彼らの行動に善意は含まれていないだろう。


「ナギ、こいつらに助けられたのはその友達が死んだ直後だろう?」


「え…?はい」


 ナギには目立った外傷は見えない。少々服に汚れがついているが、魔獣に襲われた痕跡が残っていない。


「お前ら、この子の友人が死んだのを確認してから助けただろ?」


「え?」


「は、はぁ!?何言ってやがる!」


 俺の予想通りらしく、男たちは俺の言葉が真実だと認めるような分かりやすい否定の仕方をした。


 こいつらは何らかの見返りを求めて、ナギを自分達のパーティに入れるため、ピンチを助けた恩人を演出するために彼女の友人を見殺しにしたのだろう。


「そもそも、お前は探索者にもなってねぇクソガキだろうが!俺たちの問題に口出しすんじゃねぇ!」


「だそうだが、お前はどっちを信じる?こいつらを信じてもいい未来はやってこないぞ?」


「…私は正直、どっちを信じればいいのか分かりません。ユーリさんとは初対面ですし、この人たちだって今日会ったばかりですから」


 それは当然の答えだった。友人が死んだばかりだというのに、見知らぬ男が命を救ってくれた恩人に疑いをかけている。


 しかも、その疑いは男たちの反応を見るに信憑性が高いもので、どちらを信じるなんてことも判断できないだろう。


「なら、俺とこの中の誰かと勝負して、勝った方を信じたらどうだ?」


「え?」


「強い奴の言葉の方が信憑性があるだろ?」


「それはそうですが…」


 今日探索者になろうとしている人間が、ベテラン相手に勝てるはずがない。とでも言いたげな顔をしているが無理はない。


「おいおい、それは俺たちを舐めすぎなんじゃねぇか?」


 横から男たちが下劣な笑みを浮かべながらほざいているが、俺は相手との実力差を見誤ることはない。


「舐めているつもりはない。しかし、やはりハンデは必要かもな?お前たち全員でかかってくるといい」


「てめぇ…どうやら死にてえらしいな?」


 俺の言葉に、男たちの怒りは爆発寸前といったところまで来ている。


「こいつらはやる気みたいだぞ?どうする?」


 未だに悩んでいるナギに問いかけた。ここまで来たらナギがどう言おうと勝負をしなければいけない流れだが、彼女の意思を聞きたい。


「やるならどうぞ勝手にやってください。私はもう疲れたんです…」


「…」


 ナギの言葉には力が籠っていなかった。その姿は、生きる気力を失った人間のもので、前世の自分を見ているようだった。


「こいつの意思はどうでもいい。さっさと模擬戦場に行くぞクソガキ」


「ああ。ナギ、お前も着いてこい」


「え?」


「いいから」


 俺はナギの手を引き、男たちと共に模擬戦場なる場所へと向かった。

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