第27話 自ら蒔いた種

「まず、ごめん」


「それはなにに対しての謝罪?」


 正直眠い。


 今すぐ布団にくるまりたい。


 けど、愛衣がすぐに話をしたそうだったから。


 明日に持ち越していい話ではなさそうだったから。


 愛衣にコーヒーを淹れてもらい、互いに向かいあって席についた途端に頭を下げられた。


 なにに対しての謝罪だろう。


 約束を破ったことに対して?


 ストーカーに、共に刺されそうになったことに対して?


 はたまた、その全てか。


「……わざとやってん」


「ん?」


 わざと?


 想定外の返事に首を傾げる。


「どういう意味」


「そのまんま」


「そのまんま……」


「うん」


 待てよ。


 言葉通り解釈すれば、


「ストーカーに襲われたんはわざとってこと?」


 まさか。


 そんなはずがない。


 という思いは、


「うん」


 簡単に打ち消された。


 申し訳なさそうに眉をハの字にしている愛衣に、無言で話の続きを促す。


「正確には襲われたのんじゃなく、おびき寄せたんがわざとなんやけどね」


「は?」


 訂正されたところで大差ない。


 己の片方の眉毛が吊り上がるのを感じながら、


「なんでそんなことしたん」


 キツイ口調になってしまうのは許してほしい。


 警察の到着があと少し遅ければ、私たちは死んでいたかもしれないのだ。


 命懸けで愛衣を守ったのだ。


 キレる権利ぐらいある。


「理由もなしにやったんやないよ。やから、聞いてくれる?」


「勿論」


 聞かせてもらおうじゃないか。


 腕を組み、彼女を睨みつける。


「あんね、私の派閥の子が連絡くれたんやけど。炎上中の涼香を謹慎させて、私を脱退させる話が出てるねんて」


「脱退?」


 いやいやいやいや、運営はなにを考えてるんだ。


 なんのための無期限謹慎だよ。


 鎮火したら復帰させるためでしょうが。


 顔もしらない運営陣に腹が立ってきた。


「そう。で、代わりのメンバーを入れる案が出てるねん」


「はあ?」


 呆れた。


 トカゲの尻尾切りじゃないんだから。


 もっと所属アイドル大事にしろよ。


 今までグループが誰も抜けずにやってこれたのは、愛衣が相談に乗って、支えになってきたからだろ。


 それぐらいわかってるだろ。


 なのに、簡単に切り捨てようとするなんて。


「「許せない」」


 ハモってしまった。


 私たちは顔を見合わせ、苦笑する。


「そう思って。それならこっちから辞めてやって、ストーカーに襲われたことが報道されたら『悲劇のヒロイン』として芸能界に復帰できるかなって」


「成程」


 今回の事件を自ら引き起こした動機は理解できた。


 でも、


「それいつの話よ」


「今日」


 即行動すぎんだろ。


「せめて相談してほしかったわ」


 頭をガシガシと掻きながら言えば、


「いやあ……ごめんな。思い立ったら即行動的な感じで動いてもたねん」


 寂しい。


 悲しい。


 私のことを思い出して踏みとどまってくれなかったことが。


 嘘をつかれたことが。


 まぁ、嘘とはいえ外出する連絡をくれたことは、よしとすべきだろうか。

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