第17話 スキャンダル第X弾

「伸びていますねえ」


「そやね」


 高田愛衣が居候するようになって数日。


 いつの間にか、会話の中に関西弁が混ざるようになった。


 昔遊んでいた頃のように。


「やっぱり写真があるとええんですかねえ」


 提供者、高田愛衣。ご本人。


「信ぴょう性が高まるやん」


「たしかに」


 彼女の情報提供によって書かれた、彼女自身のスキャンダル記事第2弾。


 かなり好評ですぐに第3弾を出した。


 まぁ『好評』っていうのは、だけど。


 PV数がとんでもなく伸びると同時に、高田愛衣は大炎上中。


 それを見て何故か満足げな愛衣。


 変なヤツ。


「あんたの手柄じゃないからね」


「わかってます」


 関西弁のイントネーションで頬をリスのように膨らませて言った。


 事の重大さを認識してないな。


「事務所からの連絡、無視しとるやろ」


「絶対怒られるもん」


「せやから言うたやん」


「ふふふっ」


 笑って誤魔化せるのは私だけ。


 今頃事務所は怒り心頭だろうし、ファン離れは加速している。


 私には関係ない。


 本人が「書いて」って言ったんだし。


「次に出すんは――」


「センター・涼香すずかのん」


「あぁ、あの日のんね」


「そう」


「楽しみやわ」


 高揚する気持ちが抑えられないのか、狭い部屋でスキップをし始めた。


「やめい。下に響く」


「えー」


「不満げな顔をすんな」


 怒られるのは私なんやから。


 つけ足した言葉にシュンとなった彼女は大人しく足を止めた。


「なぁなぁ」


「なに」


 パソコンで作業する私の肩に顎を乗せ、


「また連れて行ってくれる?」


 甘えるような声でそう言った。


「くすぐったいからやめい……おん、またな」


「やった!」


「スキップせんといてや」


 再び迷惑行為を始めようとした彼女を止めながら、あの日のことを思い出す。


 愛衣の証言に基づき涼香の記事を書く。


 【高田愛衣に続き、センター・涼香、熱愛発覚】


 文章だけでもいいけど、やっぱり写真がほしい。


 密会場所に出かけようとしたとき、


「私も行きます」


 目立たない黒いジャージを身にまとった彼女がリビングに立っていた。


 と言っても安物じゃない。高いブランドのもの。


「いや、ええて。私一人で――」


「なんパターンかあるんですよ。何時に行くのか、どの入り口からお店に入るのか。私がいた方が確実に撮れると思います」


「えらい自信満々やね」


「涼香派に私のスパイがいるんですよ」


「成程」


 この子、私が思っているよりも賢いな。


「有効活用してください」


「……わかった。長丁場になるかもしれんけど、文句言うなよ」


 頷いた彼女と共に玄関に向かう。


 靴を履き替えながらふと思い至る。


「なぁ、本音は久しぶりに外出したいだけやろ」


「バレました?」


「バレバレや」




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