第13話 届かぬ想い

僕は悲しくて悲しくて仕方がなかった。

目の前に現れるはずの香住さんはいなかった。

すると、僕の気持ちを表すように、雨が降りしきってきた。

手に持っていた花も泣いているようだった。

でも、これが現実だと思うとあきらめざる得ないのか。

僕は雨の中で傘もささずに、想いにふけった。



僕は君を想う。

僕は君に会えない。

僕はどうしてここにいる。

僕はなぜ生きているんだ。


君は美しい。

君は遠い存在。

君は僕の元へこないのだろうか?

君はどこにいるのだろうか?


想いが僕を襲う。



香住も雨の中で想いにふけった。


健作さん、どうして……

健作さん、待っていたのに……

健作さん、会いたいです……

健作さん、どこにいるのですか……


私はどうしてここにいるの?

私はなぜ一人なのですか?

私は誰なのですか?

私はなぜ生きているのですか?


私に悲しみが襲う。


僕はどうしても地区長さんの口ごもった瞬間が気になって仕方がなかった。

そして、また訪ねにいった。


「地区長さん、本当のことを話してくれませんか」

「いや、私は何も知らないよ……君の思い過ごしだよ」

「父と村田幸樹という方は何か関係があるのではないですか?」

「いや……何もないよ……」

「本当の事をいってください」

「だから、関係ないと言っているだろう。君も、もう帰りなさい」

「はい……わかりました」


僕は家政婦さんの反応も気になっていたので、再度、家政婦さんに聞いた。


「家政婦さん、僕は父の子供なのでしょうか?」

「ええ、もちろんですよ……」

「本当でしょうか?」

「健作さんは疲れているのですから、ゆっくり休んでください……」

「わかりました」


僕はまた考え始めた。

僕は何のために生きているのだろうか?

僕はこのままでいいのだろうか?

僕は香住さんの事が好きなのだろうか?


雨は降りやみ月夜が照らしていた。


私は誰なのですか?

私はお父さんがいないのですか?

私はこのままでいいのでしょうか?

私は健作さんの事を想っています。



僕と香住さんは何か関係があるのか?

あまりに偶然が重なるし、地区長さんが隠しているのは明らかだ。

もしかして、まさか……

そんなはずはない……

僕の考えすぎだ。


雨は再び降りしきっていた。

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