小片仮説

渡貫とゐち

「フィーバー・タイム」


 付き合う前の十日間を繰り返す。

 別に、やり直しているわけではない。

 僕はタイムリープ能力者なんかじゃないのだから。


 単純に、付き合う前の十日間ばかりを求めているだけだ。

 ある女の子に一目惚れをして、相手に尽くして、好感度を上げて――告白をする。

 それが大体、十日間。


 そして、告白して、晴れて大好きな彼女と恋人同士になった後は……、すっと、冷めてしまう。

 最低なことを言っているのは分かっている。何度も何度も、女の子からはクズだの死ねだの強い罵倒を浴びせられた。そこまで言う? と思ったけど、言われるようなことをしていたのだから仕方がないのだ……それに。

 興味を失った相手からなにを言われたところで、なんとも思わない。


 大好きだったあの頃を否定するつもりはない。

 あの時は楽しかった……、あの十日間に後悔は一切なかった。

 たくさんの女の子に、色々と尽くしてきた十日間を、僕は『するべきではなかった』とは思わないのだから……――良い思い出だった。


 目的があって、それを目指して進むことに、魅力を感じる。

 手に入れる過程が好きなだけで、その後が欲しかったわけではなかったみたいだ……。


 だから僕は、告白するまでの十日間を存分に楽しむ。

 何度も何度も。

 そこだけを切り取るように。

 付き合う前の十日間こそ、最も輝き、美味しい蜜が出る……――フィーバータイムだ。



 …了

 初出:monogatary.com「付き合う前の10日間」

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