第14話 植物標本を見ても見つからない

 屋敷に戻ると、私は早速研究室に篭ります。

 机の上には植物標本が置いてありました。

 シュナさんの手際の良さが光ります。


 ちなみにですが、今手にしている植物標本はまだまだ未完成です。

 少し前に、龍舞村の人達と一緒に採取して作ったものです。


「まさかこうして役に立ってしまうなんて……」


 正直、役に立ってしまうなんて望んでいません。

 本当は観察用として置いていたはずですが、もう仕方ありません。使えるものは使います。


 私は植物標本として保管してある植物を今回な事案と重ねます。

 性質を把握するため、本棚に並んである大量の植物図鑑と照らし合わせました。


「何か分かればいいのですが」


 まずはとっかかりが欲しいです。

 今の段階だと、ただ闇雲に情報の海をあてもなく泳いでいるのと同じです。

 こんな状態だと、何にも中途半端になってしまって、見つけたいものも見つかりません。


 私にはこれしかできません。

 なので全力で対応します。

 目を凝らして植物標本と図鑑を行ったり来たり。睨めっこの始まりです。


「コレでもない。コレも違う……これは、ありえませんよね」


 ザッと目星を付けます。

 何処にでも生えているようなありきたりな物は除外。その中からあぶれたものを一つ一つ見ていきます。


「コレは……駄目ですね。青紫色の花は咲かせません」


 植物図鑑を睨みます。

 しかし書いてあることを読み進めても、青紫色の花に関する情報はありません。


 そもそもの話、自然界で青い花を咲かせるのは稀です。

 あるにはありますが、それでも数は少ないんです。

 ましてや病魔に関連するものだとすれば、尚更選択肢は狭まりますが、未だに治療法が確立していないのでしたら、容易ではありません。

 調べるだけで一日が過ぎます。


「駄目ですね。時間は無いんです。目星を一つか二つ付けておかなければ、なにも話になりません」


 聖水を作るためには十日は欲しいんです。

 私はまだ始まったばかりでも、苦しんでいる人がいます。約束もしました。

 絶対に治してあげたいからこそ、焦りが見えてしまいます。


「如何したら……良いのでしょうか」


 私は頭を抱えてしまいそうです。

 しかしこの時、私は何か一つ見失っているものがある気がしました。


 青紫色の花。それだけではありません。

 きっと大事な要素が、村長さんの話してくださった伝承には隠れているはずです。私は今、その迷路に囚われてしまっています。


「きっと何か、何かあるはずです。でもそれは一体……」


 目を閉じてみても思いつきません。

 解決までの糸口が明確ではないせいでしょう。

 私は考えれば考えを巡らせるほど、深い所に沈んでいる気がします。


「何か、何かヒントは無いのでしょうか?」


 私は負のスパイラルの中に居ました。

 このままやっても意味はありません。

 そこで一つ気分転換してみます。

 手を伸ばして棚から本を取り出しました。


「こんな時は一旦考えることをやめましょう……ん?」


 私は首を捻りました。

 そこに書かれていたタイトル。何かの伝承、即ち昔話です。


 ですがもの凄く今の状況にピッタリでした。

 タイトルは[青い花の呪い]です。

 何だか身の毛もよだつ感覚に襲われつつも、私は読んでみることにしました。

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