第18話 魔人
魔人ルウガサーの隣では椅子に堂々と座って睡眠をとっている団長のオメガがいた。
その場には勇者の姿はおらず、あるのは映像として世界各地で流されている勇者の醜態であった。
目の前で灰人バイが全身を灰のようにさせながらこちらを伺っている。
「あなたはわたくしがどのように見えますかな?」
「人間だろ?」
魔人ルウガサーは当たり前のように尋ねる。
「そして勇者候補生」
「ではないのですよ」
「は?」
「賢者とでも言いましょうか、勇者候補生は4名、あと一人はどーこだ」
「は、え?」
そいつは魔王ルウガサーの後ろにいた。
そいつは魔王ルウガサーに対して変なポーズをとっていた。
「か、体が動かない」
「静止画バニーとはこの俺のことですぇ」
深々と黒い帽子をかぶり、黒い眼鏡をかけていてのっぽの男性。
静止画バニーはポケットに手を突っ込んでいた。
「早くしてくんさい、賢者バイさんの透明化魔法がなければ出来なかった芸当ですぜ」
「あなた達は大きな大きなミスをしました。人類の存亡をかけるほどの」
「は?」
賢者バイは口をポカンとしていた。
それでも魔王ルウガサーは淡々と告げる。
「今こそが我らが団長を殺せる時でした。これからはその機会はないでしょう、まぁ団長に傷がつこうものなら、その寸前であなたを殺しますがね、さて、後何分静止していればいいのでしょうか」
賢者バンはふむと頷き。
「お主は分かっておらぬな、今から死ぬのだぞ」
「そうですね」
「そうか、なら死ね」
灰人バイではなく賢者バイは即死魔法を魔王ルウガサーに向けて解き放った。
炸裂音を響かせて、白い炎を上げて、魔王ルウガサーは死んだはずだった。
「はははは、レベル0を殺しても嬉しくないがな」
「あ、あああ、賢者バイさんやばいっす」
「なんだと」
「も、もんすたーが」
【スキル:ダンジョンコア】これは存在そのものだ。
【スキル:モンスター創造】これは生贄が必用だ。
だがそれだけではない、レベル10000になったおかげで、習得したいくつものスキル。
【スキル:モンスターパーツ:《効果》体の一部をモンスターに提供させる】
【スキル:モンスタートレンド:《効果》別の場所にいるモンスターの場所を替える】
モンスタートレンドを使用した為、予めモンスター創造しておいたモンスターと入れ替わる。即死魔法で死んだモンスターは魔王ルウガサーではなかった。
隣の部屋から現れた魔王ルウガサーの右腕と左腕はソードドラゴンのカギヅメとダイヤシールドタートルの盾となっている。
「入れ替わっただと」
「ふう、動けますね、あなたの変なポーズの軌道線上に行くとまずいみたいですからね、ふむ、よしいいでしょう、この子達を生贄にしましょう、心苦しいですが」
【スキル:モンスターガチャ:《効果》生贄にしたモンスターのレベルで幸運率上昇ガチャ召喚】
魔王ルウガサーは右腕と左腕のソードドラゴンとダイヤシールドタートルを生贄する。
2体のモンスターが死亡した事により2回のモンスターガチャが発動。
レベル8000の為、高確率で英雄級召喚。
光輝く世界。
魔法陣が光。
そこに現れたのは、2体のモンスター。
1体は雷のモンスターである【ユニコールド】
1体は獣のモンスターである【フェリルル】
ユニコールドの姿は一本角のユニコーンそのものだが、体の大きさはユニコーンより小さく、体に雷がまとわりついている。
フェリルルの姿はオオカミそのものだが、体の大きさはオオカミより小さい。
犬と言ってもいいくらいの体の大きさでありながら、2本の犬歯だけは地面に届くのではないかというくらいの大きさ。
「さて、ユニコールドは魔法で迎撃してちょうだい、フェリルルはあそこで変なポーズをってる奴を」
2体のモンスターは頷く。
右腕と左腕が元に戻り、魔王ルウガサーは一刻も早く眠り続けている団長の元へと向かいたかった。
「さっき言っていたよな、ドワーフを殺せばうんたらこんたらって」
賢者バイはくっくと笑いながら、即死魔法を展開し始めた。
それを一瞬で妨害したのは光り輝く雷撃のような一撃だった。
パチッ音が鳴ると、雷が蜘蛛の巣状に広がり、天井を伝って、ユニコールドが走る。
ユニコールドは雷の上を走りながらオメガの元に推参する。
その背中にはいつの間にか魔王ルウガサーが乗っており。
「団長、起きてください」
それでも、オメガ団長は眠り続けている。
「2人まとめてええええ、てか、静止画バニーなにやってんだよ」
静止画バニーはフェリルルと苦戦していた。
フェリルルのジグザグ移動により翻弄され静止のポーズを上手く取る事が出来ない。
「こんのおおお」
一瞬のスキ。
その後ろからユニコールドの角が静止画バニーの心臓を突き破る。
帽子が地面に落ちると。
「かは」
天然パーマの頭を見せびらかして絶命した。
「なんだってんだよ」
賢者バイはひたすら即死魔法をあちこちに飛ばす。
壁に闇色の光が反射して、あちこちに飛ぶ。
魔王ルウガサーは身を挺してオメガ団長の体を守る。
「あなただけは死なせはしません」
その時、ドワーフ族がオメガがゆっくりと目を覚ました。
「ふわああああああ」
彼はぎょろりと魔王ルウガサーを見た。
彼女の体はぼろぼろになっていた。
「君をこうしたのはあいつか……」
しばらくの沈黙。
オメガは椅子から立ち上がる。
背丈は人間の半分。
顔は大きめ、体も大きめ、逞しい筋肉だってある。
槌やハンマーを持たせれば最強。
それでも剣にこだわる理由。
人間は剣を使う。
剣で人間を倒せば、何となく倒したような気がする。
そう魔王ルウガサーは聞かされていた。
「なぁ、お前、あそこの勇者みたくなるか」
それは死刑宣告。
死刑より遥かに辛い。
「い、いえ、そんなことよりしねえええ」
オメガは即死魔法を右手で握りつぶした。
「はへ」
「肉体に触れる前に潰せばいい」
「だが、お前はシャツとズボンじゃ」
「だれがシャツとズボンだって?」
「は?」
「隠蔽が勇者だけのスキルだと思わないことだ。隠蔽のスキルを習得している防具。俺の防具は見えない防具だ。【レベル9999:裸の王様】って防具だ」
「は、裸の王様」
「じゃあ、そっちいくからまっててね」
「く、くるなあああ」
賢者バイは即死魔法をオメガに向かって何度も何度も解き放つ。
全部がばしりばしりと弾かれる。
オメガは面倒くさそうにハエを払うようにしていく。
賢者バイの至近距離まで到着すると。
「君はそうだな、ショーをしよう、人間どもに見せるとても美しいショーだ」
賢者バイはそこから消滅した。
正確には円卓の盾に吸い込まれた。
世界に映像が流れる。
賢者バイの顔や肉体が映し出される。
きっと今頃賢者様だってなってるんだろう。
魔王ルウガサーは怯えながらそれを見ていた。
賢者バイは海に向かって落下を続け。
巨大なクジラ型モンスターレベル8000に一飲みで人生に幕を閉じた。
賢者バイの呆気ない死。
それもただ巨大なクジラに食われるだけというもの。
それを全世界、ありとあらゆる人種、または人間が見ていた。
「さて、力も蓄えた。ダンジョンポイントが100億pになったからさ。50億p使って引越すぞ」
「はい?」
魔王ルウガサーは言葉を失った。
「眠ってる時に色々と世界を見てきた。瞑想も応用したんだよ。君達が頑張ってるのは見ていたよ、英雄が眠りし大地、または神々が怒った島。だれーも知らない、無人島。そこにダンジョンを引越すよ」
「御意でございます」
その日、自由の墓場に侵攻してきた10万の兵士は全滅した。
生き残ったのは事実上勇者1名。
しかも勇者の世界を模倣した仮想世界でかつて殺して来た人々との追いかけっこ中。
その追いかけっこは世界に3日間流されたそうだ。
魔王ルウガサーの日記にそれは書かれた。
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