第10話 サーカス団の奴隷さ

 ペロンクは人間の街のサーカス団に買われた奴隷として。

 父親と母親も一緒に買われて奴隷のように扱われた。

 父親は道化役で母親は掃除約。当時5歳だったペロンクは犬のような姿のコボルト族でもピエロつまり道化師になれるって知った。


 父親の道化ぶりはとっても格好良くて観客に面白半分で笑われて、沢山の石を投げられて。


 顔中ぼこぼこにしながら、父親はにんまりと笑っていた。

 ペロンクはそんな父親が大好きだった。


 美味しくないご飯だろうと、汚い環境だろうと、ペロンク一家は必至で生きた。

 顔をぼこぼこに腫らそうと父親は観客を笑わせた。


 そんなある日、石ころの当たり所が悪くて父親は目を覚まさなく死んだ。

 死んでいる父親を人間の観客たちは指さして笑っていた。


「ようやくくたばったか」


「てめーの白いお化粧の道化なんてきめーんだよ」


「それでも笑っていたじゃないか」


 ペロンクは今12歳になろうとしていた。

 体のあちこちに傷が目立つ。

 それは父親との猛特訓のせいだ。


「あんたらは笑って喜んでたはずだ」


「ちげーな、哀れで笑ってやったんだよ」


「ぎゃははははははははってな」


 ペロンクは歯を食いしばり。

 怒りの形相ではなくにんまりと笑って見せた。

 まるで道化師のように。


「きめーんだよ」


 サーカス団。

 とある人間の街にあるとあるサーカス団で父親が死に、その1か月後には母親が度重なる重労働にて建物が崩れた時に逃げ遅れて死亡した。


 ペロンクはそれでもにんまりと笑っていた。


「おめー道化師やってみっか」


 団長が不思議そうにそう尋ねた。


「もう、ぼくは道化そのものさ」


 人間への復讐心、怒りが憎悪を生み。冷静な気持ちを失わせていく。

 心の波はゆっくりとゆっくりと動き。


 それを発現させた。


 スキル:トランプマスター


 1人でいる時間が許されているのは寝るときだけ。

 

「このスキルは」


 右手に集中させると、そこに1枚のトランプが出現した。

 大きくさせたり小さくさせる事が出来る。

 頭の中にスキルの使い方が情報となって入ってくる。


「あ、そうか、ぼくここから出られる」


 1枚のトランプを奴隷小屋の寝室の鉄格子の窓の隙間から投げる。

 地面に大きなトランプが着地したのを確かめると。

 もう1枚のトランプを出現させる。

 そのトランプの中に入ると、もう片方のトランプから出る事が出来る。


 人生で久しぶりのサーカス団のテントから脱出した時だった。

 

「道化になりたい、奴隷でも道化師になって父さんのような」


「なるほど、そういう事か」


 そこには団長がいた。

 周りには団員達がいた。

 彼等はこちらを眺めまわしてにんまりと笑った。


「トランプを使ってのスキルか、こりゃー転売できるなー」

「へへ」


「転売?」


「お前をまた奴隷市場に売るんだよそれもレア級のスキル持ちだってな」

「ふざけるなこれは、父さんと母さんの意思をついで、道化師になる為に使うんだ」


「うるさいなー異種族は人間様のおもちゃでいいんだよ」

「なんだと」


「取り合えずぼこぼこにして捕まえろ」

「へいへい」


 団長が20名の団員に指令を下す。


 ペロンクはあちこちに大きなトランプを投げる。

 サーカス団の団員が迫りくる度にあちこちにトランプ移動して逃げ続ける。


「どこまで逃げられるかなぁー」


 サーカス団の団員がにんまりと笑う。

 それでもペロンクはにんまりと笑い続けて、トランプを投げ続ける。

 トランプは増え続けており。

 その1枚が1人の団員の胸に風ではりつき。

 とっさに張り付いている部分を移動させようと思った。


 ただの思いつきだし、自分以外の人間に使えるのか分からなかった。

 

 だが、それは新しい力を生み出した。

 サーカス団の団員の胸に巨大な穴が開き。

 別な意識したポイントで胸だけがトランプから吐き出される。


 その人間は胸がなくなり、血しぶきをあげながら内蔵をぶちまけて悲鳴をあげている。


「やべーよ、死んだよ」


「いいから捕まえろ、団長命令だぞ。捕まえたやつは1年分の給料だ」


「やるとしますか」


 彼等はそれぞれこん棒やら剣を引き抜いた。


「足の1本はいいだろ」


 恐怖が全身を覆う。

 ペロンクは今年で12歳。

 父親と母親をほぼ同時に亡くした。

 スキル:トランプマスターに覚醒した。

 きっと両親の意思だった。


 いつまでもどこまでも笑ってやる。


「ひーっはっはっはっははは」


「こいつ頭おかしくなったか」


「涙流して笑ってやがる」


 ペロンクは涙を流しながら必死で笑っていた。

 怖くて足が震えていようと、立ち続ける事を忘れず。


「人間どもを笑い苦しませてやるぜ」


「素晴らしい。ぜひドワーフの俺も笑わせてくれないか」


 ペロンクははっと後ろを振り返る。

 そこには確かに誰もいなかった。

 だがそこには鎧で武装したドワーフの青年がいた。

 

「やぁ、このコボルトのペロンク君を保護しにきたんだが、君が団長かね?」


「うるさいドワーフ」


「そうか、うるさいか、じゃあ、皆殺しでいいね」


 その時とてつもない殺気がそこを支配した。

 ペロンクは笑う事を初めて忘れた。

 怒りを通り越した絶望がそこには広がっていた。


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