第4話 歩くダンジョンコア

 リザードマンの村の近くにある幸運の森でオメガとガニーとゲニーは野営していた。

 だが、オメガだけは休む事なくひたすら武器と防具を製作している。

 ありとあらゆるタイプのレベル9999の武具の製造。

 仲間がどんどん増えていくだろうし、その為の武具は必用。


 先程ガニーとゲニーには武具を譲渡した。

 信頼のおける仲間には譲渡が可能。


 ガニーに譲渡したのは。

【レベル9999:工夫の手袋】

【レベル9999:レザリングアーマー】

【レベル9999:兎靴】


 ゲニーに譲渡したのは。

【レベル9999:モンキーハンド】

【レベル9999:レザリングアーマー】

【レベル9999:兎靴】


 工夫の手袋は物を完璧に製作する事が出来る。ガニーはスキル調合があるので、活用できるはず。レザリングアーマーは軽装備型の鎧でありリザードマンにはうってつけ、レベル9999な為、どんな攻撃でも防ぐ事が出来る。

 兎靴はとてつもない跳躍力を誇り、素早く動く事が出来る。

 モンキーハンドはゲニーにうってつけで、スキル投擲の為にあるようなもの。

 モンキーハンドによってどんな投げ方も可能。カーブだってストレートだってグネグネだって、ありえない投擲が可能となっている。


「へへーん、すげーなこの装備、ちょっと嬉しくて涙が」


「姉ちゃん、そこでツンデレ出したって何の意味もないんだぜ」


「うるせい」


「気に入ってくれてよかったよ、2人とも」


「所でよ、傭兵団の名前はどんなのにするんだい?」


 ガニーがアネサン口調で訪ねてくると。


「そうだな、もう少しメンバーが集まってから考えるよ」


「そうかい、それなら安心だ。人が多い方がへんてこりんな名前にならん気がするがね」


「それは姉ちゃんの言う事も一理あると思います」


 赤い鱗のリザードマンのガニーは胸を張っていばりちらし、隣ではびくびくと青い鱗のリザードマンのゲニーが頭を何度も下げている。


 ガニーはボマースキルを上手く活用して調合する。

 ゲニーはボマースキルを上手く活用しどのように扱えばいいかを心得投擲する。

 最高な姉と弟だと思った。


 なによりツンデレとビビりというナイスマッチ。


「やはり、へんてこりんな傭兵団になりそうだ」


 そんなオメガもドワーフで幸運が高ければとんでもないものを製作してしまう。


 オメガは丸太に座っていた。

 ガニーとゲニーは焚火で肉を焼いていた。

 その時とても冷たい空気に包まれた。

 ゆっくりとずるずると何かが近づいてくる。


 そいつは赤い髪の毛をしていた。 

 全身を黒い鎧に包み込まれ、人間のような姿だが、2本の角が生えている。

 全身がぼろぼろで切り傷だらけ、黒い鎧もぼろぼろになっている。


 ぼとりと右腕の籠手が落ちた。

 その右上には魔王の文様が浮かんでいた。


 魔王の文様は丸いものに×が描かれているもので光っている。


「ま、魔王?」


 オメガが思わず呟くと。


 その魔王はそこに倒れて気を失った。


 すやすやと小さく呼吸している。


「なんだってんだい、魔王様なら勇者達に殺されたって聞いたぜ」


「どういう事なんでしょうか」


「とにかく手当だ。調合で薬は作れるか」


「得意じゃないが、下位のポーションくらいなら作れるよ、まったく」


 ガニーがアネサン風に文句を言いながら調合を始める。

 オメガは黒い鎧をはがす。

 そこから現れたのはシャツとズボンに包まれた深紅の髪の毛の魔人であった。

 その姿はとてつもなく美しく、光のように輝き、闇のようなしたたかさを備えていた。


「出来たよ」


 ガニーが下位ポーションを持ってきてくれると。

 オメガはゆっくりと体をポーションで拭く。

 すると回復効果が発動して、上位ポーションまでとはいかないが、ゆっくりと回復している。


 気づくと、魔王の体の傷はなくなっていた。

 彼女はゆっくりと目を覚まし、こちらを睨むまでもせず、頭を下げた。


「どうやら、俺様が迷惑をかけてしまったようだ。ドワーフとリザードマンよこの恩は返したい」


「いやいいんです」


「だが、問題があって、勇者が俺様を追いかけてきている」


 オメガは女性なのに自己表現が俺様だという事にも驚いていたが、何より勇者パーティーが近くまで来ているとなると、非常に危険だと感じた。


「隠れようがない、俺様の力も暴発しようとしている。俺様のスキルはダンジョンコアとモンスター創造。俺様から離れた方が良い」


「そうも言ってられませんね、勇者一行がそこまで来ているとなると、俺達も危ないです」


「だが」


「なぜかね、皇帝陛下と呼ばれる人間は俺達異種族を奴隷にするつもりです。それは魔王様も同じでしょう」


「うむ」


「なら、その暴発利用しませんか」


「は?」


「魔王様、ダンジョンコアの暴発発動してください」


「いいのか」


「遅かれ早かれ、魔力が暴走しているのでしょう?」


「うむ」


「なら力を解き放ってください」


 魔王はにこりと微笑んだ。


「どうやら主を見つけてしまったようだ」


 意味不明な事を呟き。


 眼がかっと開いた。

 瞳が白く光り、地震のようなものが響く。

 地面は抉れ、分解され構築されていく。

 幸運の森は一瞬にして巨大なダンジョンへと変貌を遂げる。


 オメガは知っていた。

 スキルの勉強が好きだったから。

 ダンジョンコアとはダンジョンのコアの事、そしてダンジョンを創造する事が出来る。


 ダンジョンコアはダンジョンがないと成立しない。

 どうやら魔王の城だったダンジョンは勇者に破壊されたようだ。


 命からがら逃げてきた魔王にはダンジョンがなかった。

 だから力も出せなかったし、なによりダンジョンを創造しようと力が暴発しようとしていた。


 そして結果として、現在オメガとガニーとゲニーと魔王はダンジョン最下層に存在している。

 そこにいるメンバー達にはダンジョンの構造と階層が認識される。

 ざっと10階層になっている。


 10階層が地上となっている。

 10階層=平原

 9階層=森

 8階層=海

 7階層=空

 6階層=山

 5階層=迷宮

 4階層=洞窟

 3階層=図書館

 2階層=街

 1階層=ダンジョンボスの間


 と、一瞬にして国かと思えるものが構築された。

 それだけ魔王の魔力とは恐ろしいと言う事だ。

 だがそこには住民はいない。

 これから作っていけばいいのだから。


 その場にいる4人は向かい合っていた。

 魔王は先程目が覚めたようだ。


「ここのダンジョンボスは俺様だ。しかし、主はそこのドワーフだ」


「それはどういう事だ?」


「主はお前がいい、お前になら命を預けられる」


「いいのか、魔王とは王だろう、俺はただのドワーフ、ただレベル9999の武具を造れるだけだ」


「す、すごい、凄すぎる。それなら、それなら人間を滅ぼす事だって」


「残念だが、人間は滅ぼすよ、良い奴と悪い奴を選別してからね、その為に傭兵団をつくっている」


「それなら、俺様をその傭兵団にいれてくれ、このダンジョン、いや拠点の管理人として」


「なるほど、それはいい、手を借りるぞ、俺はオメガ、ツンデレリザードマンがガニーで惰弱で臆病のゲニーだ」


「俺様は女性の魔王でルウガサーだがもう俺様と言うのはやめよう、私はルウガサーだ。よろしく頼む主殿」


「なぜ、俺様と言っていたんだい?」


 ガニーがツンとした声で尋ねると。


「いや、魔王になったら俺様と言えと父上に言われて」


「さぞや大変だったんですねぇ」


 ゲニーがびくびくしながら呟いた。


「さて、こんなでかいダンジョンが出来たんだから、勇者パーティーが入ってくるのも時間の問題だ。準備するぞ、あいにく幸運の石はまだまだある、さっき回収しておいた」


 その場にいる全員が口元を緩めてにやついた。

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