第20話
[黒川礼奈視点]
夏休み、最後の土曜日。
駅前で羽美を待っていた。
胸が……ざわざわしている。
柏田君にキスをしてしまった翌日――羽美にラインを送った。
『天童君のことや瀬奈達のことを柏田君に相談したら、新しい彼氏役を引き受けてくれてね。天童君とは無事別れられそうだよ。それでね。あたし、羽美に言っておきたいことが出来たよ。あたしね、柏田君のことを好きになっちゃったかも』
あたしも、とか。
ごめんね、とか。
そんなことを伝えられないまま。
羽美の気持ちなんて、もう随分前から知っていたのに。
でも、やっぱりごめんね、とは言えなくて、自分勝手なラインを送る。
すぐに羽美から電話がかかって来て、少しだけ話した。
『それで……柏田君から礼奈の彼氏役を提案して来たの?』
『最初は大塚君はどうかって言われたけど、あたしが柏田君の方が良くて……』
『…………そう』
会話の隙間。
そこには言葉にならない、沢山の想いが溢れてて。
羽美の場合は、特にそうで。
それを見て見ないフリをするあたしはズルい。
ベッドに腰掛けて電話をしながら、天井へ向けて手を伸ばした。
今日、ネイルサロンで新しくしてもらった爪を見つめる。
ターコイズブルーとオレンジの淡いグラデーション。
それだけのシンプルなネイルは夏の終わりっぽくて。
あの日、柏田君とキスした後に見た夕日っぽくて。
ちょっと、切ない。
『羽美、あたしね……』
『…………』
『天童君達のことを相談しているうちに、好きになっちゃったかも。柏田君……凄く優しいから』
『…………そう』
『応援してくれる?』
『………………』
『………………』
『ええ……応援するわ』
本当に、あたしってズルいな……。
こんな言い方したら、羽美は何も言えないじゃん……。
はぁ……。
ため息の先に、羽美がこちらへ歩いてくる姿が見える。
オーガンジーのシアーシャツとリラックスシルエットのワイドパンツ。
珍しくナチュラルなベージュコーデに足元は上品な白いサンダル。
歩く度に、さらさらと綺麗な黒髪が揺れる美人さん。
そんな圧倒的な美に道行く人達が二度見している。
大人可愛い、とか。
あははは……。
もう、あたしの好み、どストライクなんだけど?
柏田君は『そういう目で見たことないな』って言ってたけど、ほんとかな?
「羽美ー!!」
あたしが大きく手を振ると、小さく手を振り返してくる羽美。
あたしから駆け寄って腕を組む。
「えへへ、今日の服も可愛いね」
「そうかしら?」
「あたしが男だったら、ぜぇーたい羽美を選ぶもん!」
「…………そう」
「あー!今、困った顔したでしょ?あーあ、羽美に秒でフラれたし」
「そんなことないわよ。礼奈が男だったら、イケメン?だと思うもの」
「あははは、疑問系だし。それに羽美は顔で選ばないでしょ?」
「…………そんなことないわ」
羽美の、優しい優しい嘘。
それに甘えるズルいあたし。
ねぇ……羽美……。
冷たくなったあなたの手を触る。
あの頃のあたしは何も知らなかった。
島田君とのことで、あんなに羽美が追い詰められていたなんて――。
知らなかったんだよ。
◇
ラストまで読んでいただけると解るのですが、ハッピーエンドになりますので、安心して読んでいただけたらと思います(冷や汗)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます