第2話
一週間前――。
俺は黒川さんと初めて会話をした。
それはコアラ女が寝坊して、あろう事か黒川さんに送るはずのメッセージを俺に誤送信した事がキッカケだった。
『ごめんなさい、礼奈。さっき起きたわ』
まず俺がコアラ女のラインを知っているのには混み入った事情があるのだが、それは一旦、横へ置いておこう。
それよりも俺はこのメッセージを見た時に、図書館へ自転車を走らせていた。
そして、驚愕して、急ブレーキをかけた。
主に送信時間に驚いたのだ。
AM.10:41。
ちょっ、おまっ。
バイトのシフト、10時からだろうが。
あー。
コアラ女の支度は遅い。
なぜなら――コイツは平気で二度寝をするからだ。
あー。
何でこんなことまで知っているかというと、これまた混み入った事情がある。
しかしだ。
今はそんな事より、絶対にマスターと内田さんが困っているはずだ。
俺は無意識に方向転換をする。
そして、急ぎバイト先へ向かったのだった。
◇
俺が到着すると、すでにホールはカオスになっていた。
そして、混沌のど真ん中で虚な目をしたマスターと内田さんは、本来シフトに入っていない俺の顔を見るなり拝み始めた。
「柏田くぅん、どうして……?」
「コア……じゃなかった。羽美さんが来ない気がして……」
「はうっ、君ってヤツは予知能力者なにかなのかい?それとも……個人的に羽美と連絡を取っていたりするのかい?」
「いや……何となくっす」
言えない。
ましてや、友人に送るメッセージを俺に誤送信して来たから気づいたなんて口が裂けても言えない。
『ほほん?柏田君は羽美と頻繁に連絡をするほどの仲なのかい?はい、柏田君クビー』
とか、絶対なる。
そんな事で折角慣れてきたバイト先をクビにされるなんて御免だ。
それに俺にはお金が要る。
ここは(悔しいがコアラ女のおかげで客足も良好で)時給も良い。
クビにはなりたくない……。
そんな風に俺が内心ガクブル震えていると、パートの内田さんが涙目になりながら俺の両手をガシッと掴んできた。
「マスターそんなことどうでもいいじゃないですか?私にはね……柏田君が救世主に見えますよ」
「そ、そうだよね。じゃあ、柏田君、羽美が来るまで、いいや……ランチ終わりまで頼めるかな?」
「はい!」
「ありがとう!」
そして、俺は産業ロボット化する前に、窓際に座っている黒川さんに声を掛けた。
それはもう噛み噛みのしどろもどろになっていたのにも関わらず、なぜか、あの時の事を黒川さんは――、君は思い出す度に優しく微笑む。
「だってね〜。あの時、凄い勢いで『あと二時間は来ないから。大丈夫か?待つの辛くないか?』とか……柏田君、あたしのお父さんみたいだったよ?」
第一印象、お父さんって……。
あー。
どっかに穴があったら、三日ほど入れませんかねぇ。
◇
次話は黒川さん視点です。
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