なぜ彼女は立っているのか④

「え、灰野くんも今日休みなの!?」


「ああ……なんか用事あるらしいぜ。山岸さんも休みなのか」


 いつもは榛菜の後ろの席で無愛想な顔をしている晶が、今日に限って休みだった。さくらも体調が悪いらしい。学校も午後に早退したので、このまま塾も休むとメールが来ていた。


「あっちゃー……」榛菜は天を仰いだ。


「どうかしたのか?」


「ちょっと聞きたいことがあったんだけど。しまったなぁ」


 悪いことは重なるものだ。一刻も早くイタズラの犯人を捕まえたいが、肝心の探偵が不在とは。


「黒川くんさ、このあいだのトイレの幽霊の話は覚えてる?」


「ああ、もちろん」


「灰野くん、推理しているときに先生を狙ったイタズラかもしれないって言ってたんだけど、私が帰ったあと犯人がどんなやつかって話してなかった?」


「ん? ああ……いやーどうだったかな……」


 珍しく歯切れが悪い返事だった。


「そこまでは言ってなかった気がするな。あのあとは俺たちもすぐに帰ったから」


「そう……困ったなぁ」


「犯人が分からなくて困ることがあるのか?」


「実は、また昨日出たんだよ。幽霊が」


「なに?」


 凛太郎の目が細くなった。


 榛菜は昼休みの聞き込みの内容と、自分の感じた違和感を説明した。


「ね、変だと思わない? 今のとこ、わかってる限りだけど、幽霊は3件とも家斉先生の周りに集中しているんだよ。そして、昨日出たばかりの幽霊も同じ状況、同じ流れなのね。これって、先生を狙った同一犯なんじゃないかな」


「なるほど。可能性は高そうだな」


 凛太郎はしたり顔でうなずく。


「灰野くんがいたら犯人を見つけられるんじゃないかなーと思っていろいろと根本さんに聞いてきたんだけど、休みなら仕方ないね。明後日は塾に来るかなぁ」


「ああ、何なら俺が晶にメールしとくよ。あいつも気になってるだろうし」


「そう? じゃあよろしく! なる早でお願いね。明日は私も学校に残って、犯人を捕まえるつもりだから」


「……はぁ!? 犯人を捕まえる?」


「そうだよ。ほっといたら今度こそ先生が倒れちゃう! 今回は先生が直接見たわけじゃないからそうでもなさそうだったけど、本当は無理してると思うんだ。朝礼のときは顔色悪かったし、早めに解決しないと」


「あー……。いやーどうかな、あんまり急ぐのは得策じゃないと思うぜ? こんな手の込んだイタズラをするんだから、危ないやつかもしれねーし」


「危ないやつだったら余計にだめじゃん! 学校の中だから大丈夫だよ。それに私、こう見えてもパパに護身術ならってるから」


「そういう問題じゃないんだよな……」今度は凛太郎が天を仰いで小さく呟いた。


「なにか言った?」


「いや、なんにも」


 凛太郎の目にも榛菜が闘志を燃やしているのがわかった。これは止めたところで火に油を注ぐことになりそうだ。まったく、さくらちゃんも何を考えてるのか先走ってしまうし……晶の言った通りになりそう……いやそれ以上だ、まさかの榛菜ちゃんが参戦とは。


 流石の凛太郎も頭を抱えた。


「あ、それと黒川くん連絡先教えてくれない?」


「いいよ。晶から返事があったら俺からもそっちにメッセージいれる」


「よろしく! あと、この連絡先根本さんにも伝えとくよ」


「根本さん? ……ああ、今回の目撃者の? なんで?」


 榛菜はニヤリとした。


「連絡先教えるって約束しちゃった。詳しい話を聞くかわりに! モテる男はつらいねー」


「……まじかよ」


 いよいよ頭が痛くなってきた。

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