第56話 ゲートキーパー?

 コイントスの結果、出た面を俺は見つめていた。


「表、だな……」


 手を開いた先にあったのは、桜花の絵が描かれた面。

 これで、進む先は決定した。

 俺はボス部屋に入る。覚悟を決めた俺は、キューブに向かって宣言した。


「チヒロ、行きます!」


 そして、両開きの扉をゴゴゴ……と開く。

 その先にあった空間は、中心部を残して外周がぽっかりと深い穴になっている場所だった。底が見えない。落ちたら間違いなく終わりだろう。


「ひえー……こりゃまたおっかねぇ」


 :落ちないように気をつけろよ

 ;これ嫌な予感するなぁ……

 ;思ってた場所とちがう

 ;ほんと、もっと禍々しい感じのとこ想像してた

 ;なんか闘技場みたいだな……?


 コメント欄を目で追いながら、通路を渡る。

 ここで落ちて死んだらダサいな、とか変なことを考えながら歩いていると、中央の円形広場に着いた。その瞬間、ズズズ……と音を立てて通路が収納されていってしまう。


「あっ、ちょ、え!?」


 ボスの姿も見えなければ、通路もない、どうすればいいっていうんだ!?


 あたふたしていると、地面に影ができた。

 ふと上を見ると、何かが降ってきている。

 どんどん距離が近付いていくにつれ、そのシルエットも明らかになる。


 騎士だ。軍服を着た騎士が落ちてきている。

 そして、地面に着地。土煙の向こうで、人影が悠然と立ち上がるのが見えた。

 赤い軍服に、黒のズボン、細身のレイピアを携えるその騎士には、首から上がなかった。


「……デュラハン」


 呟きに呼応するように、デュラハンはスッと腰を落としてレイピアを構える。


「なるほど、問答無用ってわけか。いいぜ、嫌いじゃない」


 俺もまた腰を低く落として、ニライカナイを構える。


 ;何かよくわからんが頑張れ!

 ;デュラハンとか初めて見たけどかっこええな

 ;もっとゴテゴテの鎧着てるイメージだった。スマートじゃん

 :二人とも何か画になってるな

 ;わかる、どっちもかっこいいね


ッ!」

 

 最初に動き出したのは俺の方。

 姿勢を低くしながら地を蹴って、デュラハンの懐に入る。

 レイピアを突き刺そうと動いているのを見てその軌道に入るように左手の剣で防御、右手の剣で胴体を狙う。ズブリと音がして予想通り剣が命中。デュラハンの体の奥の方まで入り、確実に心臓を抉ったというのにデュラハンはピンピンしている。


 いや、アンデッドなんだから当然か。


「ぐっ!」


 距離を取らせろと言わんばかりに蹴り飛ばされ、咄嗟にその足を両腕でブロックしてダメージを軽減する。


「殺しても死なない相手と戦えとか、無理ゲーにもほどがあるじゃんね……!」


 とはいえ、攻略法はとっくに分かっていた。

 こんなわざとらしい場所に、わざとらしいボスの配置だ。ゲームかよと突っ込みたくなるが、実際ゲームのようなものがダンジョンなのだ。鶏が先か卵が先かの話でしかない。

 要はフィジカルでは倒せないからステージギミックで戦ってねということだろう。


「さて、そうは言ったものの、どうすればいいかな……」

 

 デュラハンは決してこちらを侮らず、いつでもカウンターできる準備を整えている。きっと、向こうから仕掛けてくることはないだろう。いやらしい奴だ。


「だったらやってやるよッ!」


 鋭く踏み込んで、突き、突き、薙ぎ払い、突き、足払い。猛攻を仕掛けるが、全ていなされてしまう。たまに攻撃がヒットしたとしても、相手はアンデッド。痛がる素振りさえ見せやしない。それどころか、こっちはカウンターを喰らうおかげで小さな切り傷まみれだ。全身がピリピリする。


 何度かの攻防の後、俺は一旦後ずさりした。剣で押すのが駄目なら、魔法で押してしまえばいい。だが俺に属性魔法は使えない。しかし、だからこそ極めることに成功したのだ。無属性魔法を。


 その真価を今、見せてやる。

 

 俺は指先を拳銃の形に構え、そこに魔力を集中させていく。

 デュラハンは愚かにも、そんなものは効かないと言わんばかりに全身を弛緩させてだらけきっていた。いいだろう、その安い挑発の代償、受けてみるといい。


 魔法を、発射する。


「≪空砲弾エア・キャノン≫」


 途端、ぶわっと凄まじい衝撃が全身を襲う。反動というやつだ。

 危うく俺が落ちるところだった。


「っデュラハンは!?」


 慌てて辺りを見渡すも、どこにもいない。


 :草

 :ちゃんと見れてなかったのかwww

 :面白かったぞw

 :ドヤ顔でぼっ立ちしてたけどお前の魔法喰らった瞬間じたばたしながら落ちてったwww

 :あとで切り抜き貼っとくから見てみw


「なんじゃそりゃ」


 呆気なく終わってしまった戦いに、俺は全身を脱力させてしまう。

 ちょうどズズズ……と音がして通路が戻ってくるところだった。


「何か一気に気疲れしたわ……配信終わっていい?」


 ;やだ

 ;だめ

 ;それは無理な相談だな

 :えーまだ見たい

 :≪皐月のだらだら探索≫ここでやめたらあることないこと言いふらす


「さ、皐月パイセン!? やだなぁ、やめるわけないじゃないですか、やだなぁ、ハハ、アハハ」


 :完全に尻に敷かれてて草

 ;こりゃ東雲は結婚したら苦労するタイプだな……

 :≪Taiga≫師匠……その、なんていうか、ファイトっす!

 :≪Nagi≫いいぞおまえらもっといじめてやれ


「やめてくださる!?!?」


 必死にキューブに縋りついて泣きわめく俺に、燃料がさらに投下された。


 :≪あやチャンネル≫私と結婚したらその、いっぱい甘やかしてあげます!

 ;≪Stella.C≫は? チヒロ君は私のモノなんだけど

 :≪皐月のだらだら探索≫醜い底辺争い……本命は私

 :≪あやチャンネル≫は?

 :≪Stella.C≫あん?

 :≪皐月のだらだら探索≫はんっw


 いつの間にか話題はデュラハンの話から、俺の一番は誰かという論争になっていた。


 なんだろう……好意を持ってくれてるのは嬉しいんだけど、こういう公共の場でそういう痴話喧嘩しないでもらっていいかな君たち!?


 ;もう俺らが介在する余地がねぇ……w

 ;ハーレム羨ましいけど大変そうだな……w

 :≪あやチャンネル≫で、東雲さんは誰が一番好きなんですか!?

 :≪Stella.C≫私たちはまだ出会ったばかりだけど、運命の赤い糸で繋がってるものね?

 ;≪皐月のだらだら探索≫チヒロ、私なら妹属性がついてくる


「ねえこっちに飛び火すんのやめて!?」


 涙目で訴える俺に、無情なコメントがひとつ目に留まった。


 :よかったじゃん、人気者w


「もうヤダ……人気者こわい……」


 俺の人生はいつからか、前途多難になってしまったようだ。


 ─────────────────────


 あとがき


 はい。これにてキャッチコピー回収となります。

 皆さんは誰派でしょうか? 作者は圧倒的に皐月派です


 それから、皆さんいつも閲覧・❤・フォロー本当にありがとうございます。

 誤字や粗が多く見受けられる作品ですが、読んでくれている「あなた」がいるから続けられています。本当にありがとうございます。


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