第29話 罪悪感

 俺たちはレライエの死体から距離を取り、次に備える。


 レライエの体はボコボコと音を立てており、人体として曲がってはいけない方向にまで関節が回っている。あまりの気持ち悪さに吐きそうになってしまった。


 隣を見れば、小鳥遊も皐月も嫌そうな顔をしていた。


 だが、我慢だ。我慢。

 一秒たりとも目を離してはいけない。


 それから少しして、まず出てきたのは細く白い腕だった。


 とはいえ、その大きさは段違いだ。6メートルほどはあるうだろうか。

 よくもまぁ、悪魔というのは体内にこんな存在を伏せておけるよな、と変な感心をしてしまう。


 やがてズルズルと出てきたのは、粘液に塗れた白い巨人。

 身長は目測にして12メートルほどだろうか。相当な大きさだということが伺える。

 その巨人には、目も鼻も耳もなく、唯一大きく裂けた口から舌がデロンと垂れ下がっているだけ。


『ルルルルルァァァァアァッ!』


 巨人は手当たり次第に辺りのフィールドを攻撃している。

 観客席や、ゲートの入り口など。


「いいか、小鳥遊さん、皐月、手はず通りにいくぞ」

「はい!」

「あーい」




 皐月は今までように気の抜けた返事で返してくるが、それでいい。

 無駄な緊張は、ミスを誘発するからな。


 まず一番槍は俺だ。危険性を確かめるために、わざと足音を立てて接近してみる。

 だが、巨人はピクリともこちらに反応しない。

 案の定聴覚はないらしく、足音には気付かないみたいだな。


 とはいえ、あのバカ重い攻撃を受けたらまずい。

 即死案件だ。


「うおおおおおっ!」


 俺は雄たけびを上げると、巨人の足首の後ろ、丁度アキレス腱がある辺りを切り裂く。俺の武器では深手を与えることはできないが、今回はスリーマンセルの行動。

 少しでも意識をこちらに向けさせればいいのだ。


「ルルルルォォォ!?」


 俺はおまけと言わんばかりに、もう片方の足首も切りつける。

 巨人はうめき声をあげると、片膝をついて地面に付した。


「今度はこっちですっ!」


 小鳥遊が勢いよく走ってきて、そのまま巨人の膝上に着地、さらにそこから再び跳躍して、巨人の腹部に思いっきり棍を叩きつけた。


『ルアアァァァアアァアアッ!!』


 あまりの痛みに絶叫する巨人。


 だが、まだだ。まだ致命傷は与えられていない。

 どうやらこの巨人には自己再生能力はないようだが、両方のアキレス腱を切られているというに、なんと立ち上がったのだ。


 そして、そののっぺらぼうのような顔をこちらへ向ける。

 マズい、気付かれただろうか?

 だが、それも杞憂だったと思い知らされる。


 なんと、巨人は破壊されたレンガの瓦礫を喰い始めたのだ。


「おいおい、流石に嘘だろ……」

「あんなものを食べるなんて……」

「ダンジョンは、魔物にとっての栄養が豊富。壁もそう。だから、栄養を摂る為に、ああいう行為をする魔物もいる 」

「なんじゃそりゃ……」


 そこまで話して、俺はふと気づいた。


「食事に夢中になってる間にぶっ倒しちまえばいいんじゃないか?」


 だが、皐月は肯定しない。


「それはダメ。例えばチヒロ、あなたがファミレスでご飯を食べているとする。するとそこに突然嫌いな人が現れて、ズケズケと同じ席に座られたらどう思う?」

「なるほど……確かにそれは嫌かも。一理あるな」

「とはいえ、放置し続けるのも問題。魔物は、ダンジョンにある食べ物を食べて力をつけているから」


 そんな話をしていた矢先だった。


「ルァァァルアルアルアラ!」


 飯を食べ終えた巨人が、こちらに向き直って不敵な表情で嗤ったのだった。

 さっきよりも圧が上がってやがる。これは相当に強くなっただろうな。


 巨人はこちらにドッシドッシと音を立てながら爪を振りかざして突進してくる。

 が、それの対処は赤子の手を捻るより簡単なことだ。

 巨人の腕を掴んで一本背負い。ズゥンと音を立てて巨人は倒れた。


「え?」

「一体何が!?」


 :ジュウドーですか!?

 :頼む誰か今の状況解説してくれ。素人には理解できん

 :でも前もあったよな、ディーバドラゴンと相撲する回

 :にしてもさすがにこれはねぇ……

 :東雲側だと思ってた奴らまで驚いてんじゃんwww

 :今日はお星さまが綺麗だなぁ

 ;まだ昼過ぎだぞ。もどってこい ↑

 :なんでちっちゃいビルくらいある魔物を背負い投げできるんですかねぇ……


 コメント欄も絶句している。うんうん、面白い画ができたかな。


 そこまで考えて、ふといつもの発作が訪れた。

 俺は別にバズりたいわけじゃない。少人数でワイワイできればそれでいい派の人間なんだ。だというのに、今の同接数は750万人。


 今ダンジョン配信と同じくらいアツいVtuber関連の大手企業、スタープラスに在籍いている大人気メンバーでさえ、こんな視聴者数を獲得したことはないんじゃなかろうか。


 そう考えていると、白い巨人はのそりと起き上がった。


 なるほど、まだピンピンしてるってわけか。



 :笑ってる場合ちゃうて

 :なんでこんな窮地でニヤニヤしてるんですかこの人!?

 :これが千紘クオリティ

 :追い詰められれば追い詰められるほど楽しそうにするんだよな、こいつ

 :もう俺らは見慣れたからいいけど、新参はびっくりして当然w

 :ええ……


 片やコロッセオの片隅。

 小鳥遊も皐月も、壁の隅っこの方で身を寄せ合って観察していた。

 一瞬見せた千紘の実力の片鱗、それから、あの巨人のタフさ。

 今のままでは絶対に勝てないと分かってしまったからだ。


 あのとき、ついていくなんて言わなければ良かったという気持ちももちろんある。だが、それ以上にこんな凄い感動を見せつけられて武者震いしているというのが正直なところだ。


「東雲さん……まさかあそこまでやるとは」

「ん、チヒロは強い。多分、世界中の誰にも負けない」


 けど──と前置きして、皐月は続ける。


「でもそれは、チヒロのメンタルが高揚か安定してるときだけ。多分、落ち込んだらきっとすごくパフォーマンスが落ちると思う。今のままだちとチヒロは死んじゃう」

「へぇ、皐月ちゃんは物知りなんだね……って、東雲さんが死んじゃう!?」


 そう言って小鳥遊が驚いた表情で問うと、皐月は険しい表情で頷いた。


 皐月の言っていた「あのままだと、いつか千紘は死んじゃう」


 そんな爆弾発言は、キューブもしっかり拾っていたのだった。


 :え?

 :東雲が死ぬとかマ?

 :たか×さつの百合見て幸せな気持ちになってたのに一瞬でどん底に突き落としてくるやん

 :悪い冗談でしょ。東雲が死ぬはずない

 :さっちー、あんまそういうこと言ってると燃えるよー?

 :でも確かに若干情緒不安定なところはあるよな

 :たしかに。メンタル系の病気持っててもおかしくない

 :流石にその発言はまずくないか?


「ごめん、悪気はなかった」


 コメント欄がお祭り騒ぎになり、皐月が必死に抑えているのを見ながら、小鳥遊は服の裾を掴んだ。小さい頃からいつもそうだ。悪い予感は必ず当たる。地面に目を伏せることしかできない


「だから、私が……ううん、私たちが支えてあげないと」


 不意に、小鳥遊は誰かに抱き着かれた。

 当然、その相手は皐月だ。


あいつ東雲もそうだけど、一人で抱え込む必要なんてないんだって。世の中には、ちゃんと話を聞いてくれる人だっていっぱいいる。だから、ね?」

「皐月ちゃん……」


 小鳥遊は心の中の感情を爆発させるように、皐月の胸の中で涙した。




 一方その頃、俺は広場のど真ん中で巨人と対峙していた。

 こちらは既に擦り傷だらけ。おまけに剣は片方が折れた。

 対して奴は元気そのもの。さらには進化したときやがった。

 こいつはこの土壇場で、状況に適応するべく進化したのだ。


 どうしたものかと考えている内に、第六感が発動してその場から飛びずさった。


 そこには、中程度のクレーターが刻まれている。

 あんなのにぶつかったら、即死だね。即死。


 ふと後ろを振り返れば、小鳥遊と皐月が応援するような目線を送ってくる。

 だよなぁ、頑張るしかないよなぁ。


「俺、頑張るって言葉が昔から大っ嫌いなんだけど、ねっ!」


 最後の剣も、パッキリと折れてどこかへ飛んで行ってしまった。


 とにかく硬すぎるんだよこいつ。

 ダイアモンドとかウルツァイトくらいあるんじゃねえの?

 あ、いや、ダイアモンドは切り出したりできるんだっけ。

 だーっ、もう! 俺は理数系じゃないからわかんないの!


 とにかく、だ。今はこいつをどうやって終わらせるか。それだけを考えなえれば。


 周囲に落ちているのはただの石ころ。

 俺は丸腰。

 相手は進化してさらに強くなった状態。


「はは……これ、マジの無理ゲーじゃん」


 :あう::

 :主……お前、消えるのか?

 :流石にこれは無理だったか……

 :まだ見初めて数日間だったけど、素敵な思い出をありがとう……

 :もう万策尽きたって感じだしな



 何故かお通夜ムードになるコメント欄。

 だが、俺には言わなきゃいけないことがある。


「え? だってここで死んだら、小鳥遊さんも皐月も死ぬよ? だってダンジョンボス倒せないと出られない仕様だし」


 :あ

 :あ

 :あ

 :まずい

 :ひん

 :そんなバナナ……

 :今日だけで期待の新星3人も失う……ってコト!?

 :やばいつらすぎる。配信離脱してもいいか?

 ;馬鹿野郎さいごまで見届けるのが俺らファンだろ!


「んー、あ、いやいや。大丈夫、俺死なないから」


 :はぁ!?

 :気でも狂ったんか主

 :無理ゲーにもほどがあるってさっき自分で言ってたじゃん!

 :頼むから変な期待させないでくれ~

 :≪トキ≫俺お前が配信やり始めたころから知ってるけど、大事なことは嘘つかないもんな


 コメント欄に懐かしいアカウントが見えて、目をキラキラさせる。


「おっ、トキさんじゃ~ん! やっほやっほ、元気してた?」


 久しぶりの旧友の登場に、俺は歓喜の声を漏らす。


 が、


 :あ

 :やばい

 :東雲うしろ!

 :コメント見てる場合じゃないって!

 :うしろみて!

 :≪トキ≫ばっかお前、油断すんなって口すっぱく教えたのに!

 :スプラッタ配信クルー!?


 コメントのおかげで後ろを振り向いた俺は、ちょうど右足を振り下ろそうとしてくるレライエの姿を見た。でっかいなぁ。足幅だけで3メートルくらいはあるんじゃないの?


 今から回避するのは間に合わない。武器も壊れてしまったから使えない。


 となれば、やることは一つだよな。

 俺は深呼吸をすると、全身の筋肉をぶちぶちと引きちぎるような感覚を覚える。

 今日はフルスロットルでやる必要はないだろう。


 段階的には、2だ。ならば、気合いを入れる必要もない。

 体の奥に眠る熱を全身に活き渡らせるイメージ。途端、心臓が大きく動くのを感じて、得も言われぬ不思議な感覚になる。ガチリと何かが噛み合う音がして、力が無限に湧いてくる。


 そしてそのまま、巨人の足を──


「ふんのああああああああああああっ!」


 真正面から思いっきり受け止めた。


 ;しってた

 ;こないだと同じことしとるやんwwwww

 ;あんな図体のモンスと真正面からぶつかり合うとかもう終わりです^^

 ;巨人の方がな。力負けしてるわ


 段々と巨人の傾きが大きくなっていき、ズシンと音を立てて倒れる。

 俺はその隙に足から胸部の方まで向かい、その心臓に埋め込まれていた宝石を思いっきり叩き壊した。あとで素材になったかもしれないけど、知ったこっちゃない。


 だってあれ多分良くないものだと思うんだよなぁ。

 破壊しといて正解だったでしょ。うん。


 そう思いながら、レライエに語り掛ける。


「なぁ、あの宝石を作ったのってお前?」

「…………」


 レライエは忌々しげな目線を送ってくる。


「まぁ、何も答えないってことは図星だよね」

「………………」


 俺はわざとらしく溜息を吐くと、後方に向かって思いっきり蹴りを放った。

 ひっそりと伸ばした腕を弾き飛ばされたレライエは、その表情を驚愕に染める。


「まさか、時間稼ぎをして裏突けば簡単に殺れると思った? 残念、俺そういうの慣れてるからさ」

「……クソ……ガ……」


 巨人になってから初めてレライエは喋り、そして次の瞬間、物言わぬ死体と化した。


 俺は振り返って小鳥遊と皐月に手を振った。


 :うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお

 :きたあああああああああああああああああああああ

 ;やりやがった!!!!!!

 :深淵のイレギュラーボス倒したああああああああああ

 :魔王様の手下か何か知らないけど主ナイスーーー!!

 :投げ銭したいのにまだ投げ銭できない……

 :収益化はよ

 :切り抜き勢です! 今日の激戦、切り抜いてもいいですか!?


「あー、まぁ別にいいッスよ。対して面白いことしてるわけでもないけど」


 :これを面白いといわずして何が面白いのか

 :東雲さんにガチ恋しました。付き合ってください!

 :偉業も偉業

 :今日の生放送、テレビ局も見てたみたいだし明日もニュース確定だね

 ;俺らの主がどんどん有名になっちまう……;;


「落ち着け落ち着け。新規の人も大事だけど、俺がたまたま小鳥遊さんブーストで増えただけで、俺は古参でいてくれるお前らのことを愛してるよ」


 :主……::

 :決めた! 俺主に一生ついてくんだ!

 :投げ銭解禁されたら沢山投げるね!

 :こんなイケメン見たことない

 :古参の人たち愛されてて羨ましいなー

 ;ふっふっふ、だってこの男のチャンネル最初から面白かったからな

 :まさかの初配信だったもんな。「ちーっす。今日は深層でワイバーン殲滅しまーす。何故ならバ先の好きだった先輩が金髪クソチャラ男と付き合うことになったからでーす」だったか?

 :お前よく一言一句覚えてるなwww

 :主、それは泣いていい

 :BSS(ぼくが最初に好きだったのに)は辛い

 :ほんとそれな……あのジャンル流行らせた奴磔刑にしたい

 ;えー、過激派も見てますw


 そんな感じでリスナーたちとじゃれ合っているところに、小鳥遊と皐月が登場する。


「東雲さんっ! 凄かったです! なんかこう、ドバーンってなったと思ったらズガガガーンって感じで,最後はシュッ、ピシッて感じでキマってました!

「ええと、ちょっとよく分からないけどありがとう……?」


 :あやちゃん、まさかの天然属性www

 :説明が下手すぎるwww

 :ドバーン、シュシュシュ、ズガーン、ボウン、シュバッでいいんだな!?

 :そんなん実践してる間にお前が死ぬに4億リラ賭ける


 皐月も会話に入ってくる……と思いきや、ガバッと抱き着いてきた。


「はっ!? いや、あの、え!?」


 狼狽える俺をよそに、皐月は顔を上げると、ほのかに紅潮した頬で涙目になりながらこう訴えてきた。


「さっきの戦い見てたときから、私、お腹の奥がずっとキュンキュンしてた」

「は、はぁ。それがなにか……?」

「チヒロ、今から子供つくろ、いますぐにでも」

「わーわーわー! 皐月ちゃんストップストップー!」


 顔を真っ赤にしながら、小鳥遊が諫めてくれる。

 しかし、女性にこうまで真剣な表情で迫られるとは……。

 顔を真っ赤に赤らめる皐月。

 男女の関係を求められるのは初めてで、どう接したらいいのかわからんな……。


 ん? 待てよ…・・?

 こいつ、裏では俺に散々ちょっかいをかけてきたクソガキだ。


「あいたっ」


 そんな考えごとをしていると、脳天にチョップを喰らった。


 振り返れば、ご機嫌斜めそうに小鳥遊が怒っている。

 俺は、涙目になりながらも首を傾げる。


「駄目ですよ東雲さん。相手はまだ子供なんですからね! 手を出したらめっ! です! まぁ私なら、特別に相手してあげてもいいですけど……」

「お、おう……」

「でもアヤ、私と一個しか違わない。つまり、ただの焼きもち」

「なっ……! こらー! 待ちなさーい!!」


 小鳥遊と皐月が鬼ごっこを始める中、一人ぼっちになった空間で、俺の仲間はホログラムに移るリスナーたちのコメントだけだった。


 :美少女ハーレムでも作るんか?

 ;でもお前、いつか妻帯者になったとき大変だぞ

 :ちなみにお前らはどっちがタイプ?

 :俺はあやちゃんかなー。可愛くて愛嬌あるし、一緒にいて楽しそう。あと胸がでかい

 :俺は皐月ちゃん一択。あの冷たい感じがたまらん。あとデレたらすっごい可愛いんやろなって

 :いかんちょっと鼻血吹いてくる

 ;そういやあのポッドのでっかい赤ん坊どうなった?


 そのコメントを見た瞬間、背筋がゾッとするのを感じた。

 幸い、このボス部屋には隠し扉があるらしい。気配探知でなんとなく壁を触っていると、ガコンッと石がハマる音がして、壁がひとりでに動いた。


 :すげえええ

 :隠し扉きちゃー!

 :初めて見た

 :何があるんだろうな……ワクワク

;一発発見かよwww


 周囲はこれまた等間隔杖並べられた松明。それから螺旋階段。


 登っていくと、コックピットルームのようなものがあった。

 見慣れないレバーやスイッチがあり、どれを押せばいいのか分からない。


「おーいお前らー? 知恵貸してくれ知恵」


 :なんか変な張り紙貼ってあるとこない?

 :ほんとだ、明らかに怪しいよね

 :しかもどの国の文字で無さそう……


 有力な城風を得た俺は、鑑定ルーペを取り出すと黄色い張り紙を見つめた。


『生命促進装置緊急停止ボタン。接触厳禁』


 と書いてある。

 それをリスナーにも告げると、皆が賛同の声を上げてくれた。

 

 だが、俺は石橋を叩いて渡る性格なんだ。

 怪しい所は徹底的に調べる。机の下とか、壁の裏とか本棚の中とか。


 だがそういったものも見つからなかったため、緊急停止ボタンを押す。


「あ、ぽちっとな」


 そうすると、なんということでしょう!

 あれだけ緑色の液体が詰まっていたポッドの内容液が、みるみる内に減っていくではありませんか! それから数分後。完全に無となったそのポッドの中で巨大な赤子は少しだけもがくと、それっきり動かなくなった。


 一仕事終えた俺は小鳥遊たちの元に戻ると、三人で仲良くポータルに入った。


 外はすっかり夜だ。家まで送っていくかと問いかけてはみたが、今日は大丈夫とのことで、こうして一人帰路に就いている。


 正直、罪悪感はかなりある。どんな理由だろうと、赤子を殺めたのは俺自身だ。

 さっきの光景が、何度もフラッシュバックする。


『お前のせいでお前のせいでオ前ノセイデオマエノセイデ』


 頭の中で連呼する不気味な声。


 その日は、シャワーだけ浴びると疲れ果ててベッドにダイブして寝た。

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